| 夕飯を平らげて
が食器を洗っていると蔵馬が隣に立って洗った食器を拭く。 「ごめんね、お客様にこのようなことをさせて...」 「いいよ、慣れてるから」 「そうなんだ?」 「ああ。高校に入ってから母が再婚したけど、それまで母子家庭だったからね。料理もそれで覚えたんだよ」 「そうなんだ。でも、悔しいなぁ...」 少し膨れながら が呟く。意外と表情豊かな子だ。 「南野くんって、なんて名前の妖怪なの?」 突然そんなことを言われて、蔵馬は持っていた皿を落としかけた。 「え?何だって?」 「南野くんって妖怪でしょ?どんな妖怪なの??」 聞き間違いではなかったらしい。 「何でそんなことを思うんだ?」 「妖気。さっき少しだけど庇ってくれたとき妖気出してたじゃない?」 蔵馬は自身が放った気を『妖気』と言い当てられて少し感心する。普通の、霊感が強いだけの人間だったら、 その差なんて分からないだろうし、「少し違うな」で終わりそうなものだ。それなのに、 はそれを『妖気』と表現し、そして外れではない。 「まあ、一応ね。人間に憑依したから昔ほどの力はないけど。盗賊をやってた妖怪だったよ」 正直に答えてみる。反応が見てみたかった。これで、嫌われても別にどうってことない。誰かに吹聴されても信じられる話でもないし。 ただ、 に嫌われるときっと寂しいって思うだろうな、という考えに至り、またしても小さく笑う。 「強いの?」 が問う。 「今?まあ、弱くはないと思うよ」 蔵馬の返事に は安心したように息を吐き 「そう。じゃあ、良かった」 そう言って水を止めた。 何がいいのか分からないが、どうやら嫌われた風ではないのでそんなに気にならなかった。 が紅茶を淹れてくれた。 「そういえば、 さんのご両親は?いつ帰ってくる?俺が居ても大丈夫なのか?」 蔵馬の質問を受けて は立ち上がり、自室へ向かう。 部屋のドアを開けて蔵馬を手招きする。 蔵馬は の部屋を覗いて小さく息を飲んだ。 の部屋の隅の本棚のひとつに位牌と遺影があった。先ほど、リビングで見た写真の2人だ。 「と言うわけで、両親は死んでいるから帰ってこないの。因って、南野くんがうちに居ても何の不都合もない。リビングに戻ろう」 そう言って はドアを閉めてリビングに向かった。 「あの、聞いていいかな?」 「ウチの両親は、私を庇って死んじゃったよ。私昔から霊感が強くてね。妖怪のご飯になり易かったようなの。 両親も少なからず霊感が有って。で、中学のとき、妖怪に狙われてたの。霊感の強い人間を食べたら強くなるんでしょ?」 「そういうタイプの妖怪も居るね」 昔戦った妖怪を思い出す。 「私を食べようとした妖怪はそういうタイプのだったらしいわ。で、食べられそうになったんだけど、両親が庇ってくれて。 食べられた感じはなかったけど、見つかった遺体が一部だけだったから、たぶん...『今度こそお前を食ってやる』って言ってた」 すぅ、と蔵馬の周りの空気が冷える。 「そいつの名前は?」 「わかんない。ただ、手がたくさんあった」 そう言われて思い当たる妖怪がいた。しかし、そいつだったらもう安心だ。 を襲うことはもうない。 「じゃあ、 さんはもうそいつには狙われない。死んだから」 蔵馬の声は、先ほどまで話していた声のトーンより少し低い。 「そう、なんだ...」 安心したような、少し寂しそうな表情をする。 「だから、なのか?」 「え?」 「だから他人と距離を取っていたのか?」 「そうね。霊感の強い人と一緒に居たらそのひとも霊感が強くなるんでしょ?そうなってもいいことなんてないもん。変な妖怪に狙われたり。 今は何か協定があるらしいけど、それでも、危険なことは危険だしね」 そう言って少し冷めた紅茶を口にした。 蔵馬も同じく紅茶を口にする。 合点がいった。だから、 は頑なに人と距離を置き、そして蔵馬のことは『良かった』なのだ。 力のある妖怪なら、相手のことを心配しなくてすむ。何かに巻き込まないで済む。 「じゃあ、 さんは今どうやって生活してるんだ?」 「両親の遺産。親戚とか居ないから、取られなくて済んだんだよ。国に取られていったけど... あと、お母さんの知り合いの霊能力者さんが後見人をやってくれてる。その筋では有名な人なんだって」 「じゃあ、この先は?進路とか」 「大学行きたいなーって思ってたけど。いい加減自立した方が良いだろうし。 一応、奨学金制度のある大学見つけてるんだよね。盟王に通ってるのも奨学金制度があるから選んだんだけど。 まあ、後見人の人に今度の面談に来てもらうからそれまでに答えを出さないとね。南野くんは?何処の大学??」 「俺は、大学に行かないよ」 「何で!?」 「義父がね、経営者で。見てて楽しそうだからそっちをやりたいなって」 「学校には?先生も他の人も皆南野くんは進学するんだと思ってるんじゃない?」 「そうみたいだけど、大学に行ってもやりたいことがないし」 「そっか−」と呟き、 は紅茶を飲み干した。 蔵馬も同じく飲み干してカップを置く。 「じゃあ、俺そろそろ」 「あ、うん。ご馳走様でした」 と言って、 が玄関まで一緒に向かう。 「じゃあ、また明日」 「うん。あ、でも」 「学校では、話し掛けるな。だろ?大丈夫。あ、携帯持ってる?」 「ううん。必要ないから持ってない」 は苦笑する。友人を持とうとしない には必要のないものだ。 「そうか。じゃあ、コレ。一応俺の携帯の番号、とメアド。パソコンは持ってたよな」 生徒手帳に自分の携帯の番号とアドレスを書いて破り、 に渡す。 「あ、うん。ありがとう。あとで送るよ」 貰ったそれを丁寧に折りながら答えた。 「何か困ったことがあったら、いつでも連絡して。俺が力になれることあると思うし」 「うん。頼りになるね」 そう言って笑う。 「そうやって笑っていればいいのに」 蔵馬が言うと は笑って、 「ダメよ。棘がなかったら薔薇は摘み放題だもの。自分を守る術がなくなっちゃう」 と答える。 「俺、蔵馬だから」 「え?」 「俺の妖怪の時の名前。じゃあ、今日はありがとう。楽しかったよ」 そう言ってドアを閉めた。 玄関に残された は「蔵馬、か」と少し嬉しそうに呟いた。 |
ヒロインの両親を殺したのは八つ手。
ということは、ヒロインは中3で両親を亡くしたことになりますね。
両親を亡くしてまだ3年というところですね...
桜風
06.11.22
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