薔薇姫の憂い5





は家に帰って服を着替える。

「ごめんなさい、幻海さん」

そう言って慌てて部屋から出てきた。

「いいや。気にしなくていいよ。しかし、相変わらず殺風景だね」

そう言って部屋の中を見渡した。

先ほど帰りにお団子を購入したため、今回は聞くまでもなく緑茶だ。

葉を蒸す時間を計っていると不意に幻海に声を掛けられる。

、これ。どうしたんだい?」

それはUFOキャッチャーの景品になっている可愛い白い狐のぬいぐるみだ。

「あ、もらったんです」

「蔵馬からかい?」

そう言われて慌てる。

『蔵馬』というのは南野秀一の妖怪の名前だと本人が言っていた。それなのに、目の前にいる幻海はその名前を口にしている。

確かに、南野秀一から貰ったが、『蔵馬』というのは内緒なのではないだろうか?

「んーと。南野くんの弟君が取って帰ったんですって。この家、殺風景だからこういうの置いてみたらどうかって...」

取り敢えず、そのときの事実のみを伝えることにした。

幻海は「そうか」と少し嬉しそうな声で答えた。

程なくして、
が緑茶とお団子をテーブルに運んできた。

「それで、
は大学は何処に行きたいんだい?」

先ほどの進路指導の続きだ。

「奨学金制度があって、薬学部もある学校なんだけど。ちょっと待っててください」

自分が今まで調べた大学の資料を部屋から持ってくる。

「一応、この家から通えるところに絞ってるんですけど」

と言ってパソコンからプリントアウトしたものや、実際大学へ行ってみて貰って来たパンフレットを渡す。

幻海はそれらに一通り目をとしてフッと笑う。

「やっぱり行きたかったんじゃないか。何で働くと言ったんだい?こんなに調べるまでしていて。諦められるものでもないだろうに」

幻海の言葉に
はくすぐったそうに俯いて口元を緩める。

「はい。あの、本当にありがとうございました」

「さっきも言ったろう。気にすることはないって」

お団子を口にして緑茶をすする。


学校の話や、時事について話していると時間が経ち、幻海が出かける仕度をする。

「そろそろ出掛けよう」

「あの、何処へ行くんですか?」

「ああ、言っていなかったね。不肖の弟子の所で夕飯を食べるんだよ。勿論、アレの奢りで」

「え、じゃあ。私は...」

「蔵馬も来るよ、たぶんね。他にも来ると思うから来なさい。あいつのことは全く気にしなくてもいいから」

そう言われて断る理由もなく、出かける仕度をして幻海と揃って家を出た。


少し歩くと屋台が見えた。

「あそこだよ」

そう言われて近づく。屋台なんて初めてだ。

「よう!ばーさん」

店主らしき人が声を掛けてくる。

「桑原はどうした?」

「まだ来てねぇよ。今日は珍しく飛影も来るんだって。蔵馬が連絡入れてみたらしい。
さっき携帯に電話があってそう言ってた。で、その子は?」

知らない人の名前がたくさん出た中に、またしても『蔵馬』という単語が出てきた。

この人たちは何なんだろう、と首を捻る。

「ああ、この子はあたしの孫みたいなもんだよ。知り合いの娘でね。後見人ってのをやってる」

「あ。
です」

そう言って一礼する。

「蔵馬の同級生だ」

幻海が補足すると

「え、じゃあ。盟王高?頭良いんだな」

そう言ってニカッと笑う。

程なくして人が集まり始めた。

「おばあちゃん!」と言いながら駆け寄ってきた少女もいれば、和服で歩いてくる子もいる。
その隣には長身の男の人と、タバコを咥えたすらりとした女の人。

何だかよく分からないが、こんな大勢の中に居るということに慣れていない
は静かにその輪から外れた。

やはり遠くから見てるほうが楽だ、と思いながら電柱に寄りかかる。

「どうしたの?行かないの?」

突然後ろから声がした。あまりにも驚いた
は声が出ない。

「だから、気配を殺して近づくなと言っているだろう」

初めて聞く声に、少し落ち着きを取り戻す。

「そうですか?今回は多少気配を残していたつもりだったんですけどね」

ちょっと目つきの悪い背の低い人に蔵馬が不満そうに反論した。

「お、揃ったな!!」

少しはなれた輪の方から声がする。

「早く来いよ!」

そんな声に答えるように手を挙げた蔵馬が「行こう」と言って
の手を引いて輪の中に入った。

その輪には霊気と妖気と何だか分類しづらい気がごちゃ混ぜになっている。

とても不思議な感覚に戸惑いながら
はみなの様子を伺った。

雪菜と呼ばれる和服の子は、妖怪。でも、全然悪い、イヤな感じがしない。寧ろ何だか癒される。

幻海のことをおばあちゃんと慕っている活発そうな少女、蛍子にはどの気も感じない。

さっきから時々輪から外れてタバコを吸っている静流は、霊気が強い。

長身の男の人、桑原は霊気がとても強い。

さっき蔵馬と一緒にいた小さい人は妖気だけ。つまりは妖怪。名前は飛影と言うらしい。

何でこんな集団ができるのか分からずただただ首を捻る。


少しはなれたところで、蔵馬は幻海に声を掛けられた。

学校での
の様子が気になるのだろう。

「まあ、学校ではなるべく人に係わらないようにしているみたいです。
霊感が強い人の側に長く居るとその人も霊感が強くなるというのを信じ込んでいますから」

「そうか...」と言って幻海は考え込む。

「それと、ちょっと妖怪に狙われやすいのかもしれませんね、体質的に」

「襲われていたか?」

「ええ、一応2度ほど目撃しました。それに、彼女のご両親は...」

「妖怪に喰われたようだよ。それが原因だろうね、あの子が他人と係わろうとしないのは」

「だから、師範は今日
を連れてきたんですね」

「耐性のあるのばかりが揃うからね。しかし、そうだな。
、ちょっと来なさい」

静流に捕まってカットモデルをしないかという勧誘に遭っていた
はこれ幸いと逃げ出した。

「何ですか?」

「蔵馬から聞いたよ。少し、霊感が強くなったようだね。封じよう」

「ちょっと待って!」

喜ぶかと思いきや、意外にもストップが掛かる。

「どうした?」

、霊感が強いのイヤなんだろ?」

「イヤだけど。えーと...」

そう言って蔵馬を見る。突然目を向けられた蔵馬は首を捻る。

「何?」

「いや、えーと何て言っていいんだろう」

何となく
の言いたいことが分かった幻海が口を開く。

「力の強い妖怪は、霊感のない者でも見える。ただ、霊感は扱いきれないなら抑えていたほうがいい。
その方が狙われにくくなるからね」

つまりは、蔵馬と疎遠になるのがイヤなのだ。

それがどういう感情であれ、今まで他人と距離を取ることだけを考えていた
にとって他人に執着するのはいい傾向だ。

「そっか。じゃあ、お願いします」

そう言って目を瞑った
に幻海は印を結び何かを口の中で唱えていた。そして、最後に「封」と言って印を解いた。

「これで、少しは落ち着くはずだ」

「ありがとうございます」

側で見ていた蔵馬も少し安心する。さっきまで感じていた大きな霊気がすぅ、と収まっていったのだ。

「よかったな、


「うん。少しは静かな生活を送れるようになるかも」

自分の変化を既に少し感じている口ぶりの
に蔵馬は思わず微笑んだ。

そんな2人の姿を周りの皆は固唾を飲んで見守る。

「これは...」

にやりと笑って桑原を見る幽助。

「ひょっとして...」

幽助に視線を向ける桑原。目が笑っている。

さんって蔵馬さんの彼女さんだったのかな?」

呟く蛍子に、トドメは

「吐かせちゃえ!」

という静流の一言。

それを合図に桑原が走り出し、蔵馬に肩を組んで少し離れたところへ連れて行く。

呆然とそれを見送っていた
にも蛍子と静流が近づき、事の真相を探る。


その日、両親が亡くなって以来初めて薔薇姫の『憂い』という名の棘は取れていた。



取り敢えず、一安心なヒロイン。
もっと早く幻海師範に会いに行けばよかったのですが、如何せん山奥ですから。
常人にはかなりの難所かと思われます(笑)


桜風
06.11.27


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