共犯者 3





 今回は相手とこちらの意見のすり合わせという形で終わった。

席を立って部屋を出ていくと彼女はいなかった。

中々慣れたものだ。


会社の入っているビルの入り口で営業の先輩と別れた。

今日の企業訪問は時間的に少し遅く設定していた。その為、直帰してもいいという話になっていたのだ。

先輩はデートがあるから、とそそくさと帰って行った。

おそらくそのために時間を少し遅めに設定したものと思われる。

何とも素直だ、と少しだけ微笑ましくも思った。

そして、秀一は再び先ほど訪れた階に向かうため、エレベータに乗った。

チンと音が鳴り、目的の階に着く。

エレベータから一歩出ると、丁度用事のある相手が向かってくる。

彼女は首を傾げた。

「どうかされましたか」

「家の鍵を落としてしまったみたいで」

秀一の言葉に「そうですか」とそっけなく返し、彼女はエレベータに乗ろうとした。

「今日はもう上がりですか?」

秀一が問うと

「...ええ」

と警戒感をあらわにした声音で答える。

「何を探っているんです?」

チンという音が鳴り、エレベータのドアが閉まった。

エレベータは静かに降りていく。

「何の話?」

少し間を開けて彼女が返した。

「気持ちを落ち着かせるための深呼吸は、もう少しわからないようにしないと。バレてしまいますよ」

目を眇めて秀一が言う。

「あなた、何?」

秀一は手を伸ばして彼女の斜め後ろの降りるボタンを押した。

赤く色が付き、すぐにそれは上がってくる。

チンと音が鳴ってドアが開いた。

「場所を変えましょう」

「鍵は?」

彼女が問う。

「戻って来るための方便です」

鍵は最初からポケットに入れている。

怪しまれたら一緒に探してもらい、頃合いを見計らって最初からポケットにあったことにしてうっかり者を演じようと思っていたのだ。

警戒しながらも彼女は秀一と共にエレベータに乗った。

「あなたは、何者?」

「御社の取引先になるかもしれない会社の一社員ですよ。あなたは?」

「御社の取引先になるかもしれない会社の一アルバイトよ」

負けずに彼女が返す。

秀一は思わず吹き出した。

「な、何?!」

「気が強いんですね」

秀一の言葉に彼女はフイとそっぽを向く。

チンという音がしてエレベータの扉が開いた。

「この後バイトは?」

ビルを後にしながら秀一が問う。

彼女は怪訝そうに自分を見上げてきた。

「この間、たまたま食事をしに行ったらあなたを見かけたんです。その眼鏡は伊達ですか?」

観念したように彼女はため息を吐いた。

「そうよ。変装用」

「ずいぶん印象変わりますよね、そういう少し厚みのあるフレームの眼鏡だと」

「どーも」

やけ気味に彼女は返した。

「それで、バイトは?」

秀一が再び確認する。

「今日はないわ」

「じゃあ、少し時間が取れますね」

「同意しかねるんだけど」

「いいんですか?」

“何が”とは言っていないが、彼女にはてき面の言葉だった。

「ここから少し距離を取った方がいいんだけど」

彼女の言葉に秀一は頷き、ひとまず駅に向かった。



二駅隣の町で電車を降りて駅前のファミレスに入った。

「そういえば、名前を聞いてもいいですか?」

秀一の言葉に彼女は驚いたように目を見開く。

「社長から何か聞いてるんじゃないの?」

「いいえ」

「だって、私の事...」

「何を探っているんですかっていう問いですか?ああ、勘です」

しらばっくれれば何とかなったのだと今更気づいて彼女は舌打ちをした。

そして、彼女は秀一を見た。

その視線に気づいた秀一は「南野秀一です」と自己紹介をした。



そっけなく彼女は返して目の前に置いてあるコーヒーに手を伸ばした。ストローに口をつけて一口飲み、再びソーサーの上にカップを置く。

「それで?」

さんは、会社の..社長の何を探っているんですか?」

「探ってないわ。気のせいよ」

強気に彼女が言った。

「でも、今日。他の人がお茶を持ってこようとしたのに、わざわざ自分が、って買って出ましたよね」

秀一の指摘に目を見開いた。

そのとおりなのだ。だが、あの応接室から事務室まで少し距離があるし、当然に扉が空間を隔たっており、事務室の声は聞こえないはずだ。

「俺、耳がいいんです」

「耳がいいってレベルじゃないと思うんだけど」

半眼になって言う彼女に秀一はニコリとほほ笑んだ。









桜風
14.10.2


ブラウザバックでお戻りください