共犯者 4





 「あなたは私を捕まえて、何が目的なの?」

彼女が問う。

「質問に質問を返すのはどうかと思いますけど?」

「私は、あなたが社長の手先か何かだと疑っている」

睨みつけるように彼女が言う。

秀一は「ふむ」と頷き、「目的ですか」と彼女の問いを拾うことにした。

「これは、本当に俺の勘なんですけど」

そう前置きをして、

「社長には後ろ暗いところがあるような気がするんです。そして、ウチがカモられそうだと思っています」

「あなたがいるのに?」

眉間にしわを寄せて彼女が言った。

「そうですね。俺、まだちょっと猫を被っていたいので」

「じゃあ、別に猫を被り続けて転職先を探してたらいいじゃない」

秀一は彼女の言葉に頷いた。

「縁もゆかりもない会社なら、まあ。それをしたでしょうけど。俺が就職している会社は、親父のなんですよ」

苦笑していう秀一に「縁故採用か」と彼女が呟いた。

「まあ、そういう感じですか。母の再婚相手で。まあ、だから潰れると困るんですよ。俺一人ならなんとだってなりますけどね」

(でしょうね)

目の前に座る優男から視線を外して彼女は思った。

物凄く腹黒な印象を受ける。

物腰柔らかな対応をするが、腹で何を考えているか...あ、食虫植物に似てるのかもしれない。美味しそうな香りで虫を誘って罠にかかったらパクッと。

自分の発想に納得していると、「で、さんは?」と問われて顔を向ける。

「あの社長を探っている理由です」

問われてため息を吐いた。

向こうはそれなりに手の内を明かした。事実かどうかまではわからないが。

「あの社長は、以前別の名前の会社を経営していたの。今と職種も違う会社。その時、うちの父が経営していた会社が取引先の一つでね。
あなたがきな臭いって思っていることになった。二進も三進もいかなくなって、会社を畳まざるを得なくなった。残ったのは多額の負債」

彼女の言葉に秀一は「復讐ですか?」と問う。

「ううん。復讐というか..きな臭いことではあったけど、尻尾を掴ませなかったの。掴んでやりたいって思っただけ」

肩を竦めてそう言う彼女に「ですが、お父さんが」というと彼女は再び肩を竦め「死んだわけじゃないわよ」という。

「え?」

「だから、カモられたけど死んだわけじゃない。負債は残ったけど、連帯保証人がひとまず支払してくれて、その人に地道に返してるの」

「気のいい、連帯保証人ですね」

秀一が思わず感想を述べると、

「母よ。でも、何かおかしい。女の勘!って言って離婚してたの。元々母も別の会社を経営してたし、あっちの方が売上良かったから。
再婚は面倒くさいからもうしないって言ってたけど...まあ、確かに生活が厳しくなったけどね。今は奨学金で学校通ってる状況だし。でも、死ぬほどじゃない。復讐の必要もない」

と彼女はあっさりという。

「そうですか」

秀一は相槌を打った。

彼女はこれでお終いと言わんばかりにバッグに手を伸ばした。

「しかし、現状で俺とさんの利害は一致するということですよね。利害というか、目的ですか」

「利益のバランスが悪い」

「知りたいという欲求を満たすことはかなり大きな利益だと思いますよ。俺は、まあ、色々と伝手があります。さんは、少しだけ会社の実情を教えてくれればそれで充分です。それで、あなたの欲求が満たせますよ」

秀一の言葉に彼女は目を眇め、

「信用ならない」

そう言った。

(確かに...)

秀一は彼女の言葉に同意する。伝手と言っても、何一つ示していない。

どうやって納得をさせようかと悩んでいると

「でも、私一人でするってのも、正直詰んでる」

と彼女が言葉を足した。

「だから、その話に乗ることにしたわ。あまり信じてないけど、使えるかもしれない」

彼女の言葉に秀一はきょとんとして、そして苦笑する。

「それくらい慎重なのがいいですね。では、同盟成立ということで。伝手については、また改めて紹介します。
まず、御社の事でいくつか質問があります。そして、欲しい情報がも。ムリに集めなくてもいいです。さんが怪しまれて動けなくなるのが一番困りますから」

秀一の言葉に彼女は頷く。

秀一からのいくつかの質問には彼女はすべて答えられた。調べるポイントとしてはかなりいい線行っていたと彼は思う。

ただ、秀一の言う“伝手”が足りなかっただけなのだろう。

一応、話の裏付けに、と秀一が要望した情報はどうやら彼女でも手に入れることができそうということで、一応頼んだ。

そして、次に外で会う日を調整する。

「先ほども言いましたが、さんが疑われては元も子もないので、無理はしないでください」

「大丈夫よ、危なくなったら脅されたって泣きながら訴えて見せるわ」

「それは、困りますね」

肩を竦めてそう言った秀一が注文票に手を伸ばした。

彼女が慌てて鞄から財布を取り出すのを見て「いいですよ」と断る。

しかし、彼女はそれを無視して自分のコーヒー代をテーブルの上に置いた。

「同盟、というなら対等でしょ」

彼女の言葉に苦笑して

「そうですね」

と秀一が頷く。

「そうだ、さん」

「なに?」

そっけない、まだ警戒している声を出す。

「それ、俺と会うときは必ず付けておいてくださいね」

「眼鏡?」

「ええ。変装したままのあなたが、向こうにとって本物でなければらないので」

秀一の言葉に納得したらいい彼女は頷き、「じゃあ」と言って席を立った。









桜風
14.10.9


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