| 秀一と約束した場所、時間で待っていると、彼が長身のちょっと強面の男と共に歩いてくるのが見えた。 秀一が彼女を見つけて隣の男に声をかけ、隣の男はh数位置をからかうように小突き、離れていく。 「すみません、お待たせしました」 「別に。...交友範囲広そうね」 何となく、そう思った。 秀一の普段の、余所行きの物腰ではああいった強面の人とはあまり接点を持ちそうにない。 「まあ、色々と伝手があるということで」 正直に説明しても信じてもらえないし、そうする必要が今はないので秀一はそう言って濁した。 彼女もそこまで知りたかったことではなかったようで、頷く。 近くのカフェに入った。 「タイムカード記録は持ち出せなかった」 秀一が彼女に依頼したのは、営業の担当者の退出履歴だった。定時で帰っている日、逆に残業をしている日が一定の日、曜日がないかと確認してもらったのだ。 タイムカードの履歴を見ればそれは可能だと思った。 そして、彼女もそれを見て確認をしたようである。 「構いません。それで、どうでした?」 「普段は水曜日に定時に上がってるようだけど、第三金曜日も同じく定時だった」 「ほかには?」 「まったくない。定時は水曜と第三金曜日だけ。残業の量は、バラバラで法則性が見つからなかった」 首を振りながら彼女は言い、そして、ちょっとだけ不安そうに「習い事かな」という。 「でも、それって社長も揃ってでしょう?」 「まあ、うん...」 社長に関してはタイムカードはないが、入社してから、自分が取っている記録がある。約ひと月と期間が短いので、こちらは確定情報とは思えないが... 「前に、さんの会社に伺ったときに話を聞いてみましたけど、家族構成や生活のリズム、趣味はどうも違うみたいです。同じ習い事というのは少し違和感がありますね。つまり、後ろ暗い何かの関係ではないかと思います」 「...これで何かわかるの?」 少し思案を巡らせている秀一に窺うように彼女が問う。 「そうですね...さん」 「なに」 警戒した。 秀一は内心苦笑して、 「今週の土曜日、空いてますか?」 「え?あ、うん。バイト入れてないし、会社は休みだし。けど、何?」 怪訝そうに秀一を見る彼女に彼はにこりとほほ笑んで 「情報収集を手伝ってください」 と願い出た。 情報収集というなら、協力しないわけにはいかないと思い、渋々彼女は頷いた。 仕事帰りではなく、休日の午後。 (何を着ていくべきか) 情報収集と言っていた。 何か、特別なところに行くのだろうかと思っていたが、服の指定がなかった。 仕方ないので、秀一に聞いてしまおうと電話をした。お互いの連絡先は交換している。 『はい』 数回のコールで出てこられて少しだけ慌てる。 「今日、どこ行くの?」 そう聞くと 『どうかしたんですか?』 と秀一が問い返した。 「いや、何か。服装の制限とか、あるのかな..て」 しどろもどろに言うと電話の向こうで笑った気配がある。 「ちょっと!」 『すみません。そうですね、可愛いのがいいです』 「好みを聞いてるわけじゃないんだけど...」 『何でもいいですよ』 秀一のその言葉に納得して「わかった」と返し、電話を切った。 (何でもいいっていう答えも困るんだけど...) そう思いながら、それなりに可愛い服を選んで彼女は家を出た。 待ち合わせ場所に行くとすでに秀一がいた。 「ああ、可愛いですね」 「からかうのやめてくれる?」 半眼になって言う彼女に彼は肩を竦める。 「それで、どこに行くの?」 彼女が秀一に問うと、「映画です」と彼が返した。 「はあ?!」 (映画?情報収集って...!) 不満を口にしようとしたが、手を引かれて驚いて言葉を飲んでしまった。 「情報収集ですよ」 少し先を歩いていた彼は振り返ってそう言う。 「情報収集、なのよね」 「はい。情報収集です」 映画を1本見て、外に出る。 外は暗くなっていた。待ち合わせは午後の少し遅い時間。そして映画を1本見れば、暗くなっていて当然だ。 まだ日が短い。暦の上では春だが、まだまだ冬の仲間だ。 「それで、どこに」 振り返ると携帯を構えている彼がシャッターを切った。 「ちょ!」 「さん、ラーメン平気ですか?」 「は?え、あ。うん...そんなことより、それ...!」 秀一がポケットに仕舞った携帯を指差して不満そうに声を上げる。 「“情報収集”の一環です」 ニコリと笑って秀一がいい、 「屋台でも平気ですか?」 と問う。 先ほどのラーメンの話の続きなのだろう。 「屋台、行ったことない」 「そうですか。とてもおいしいラーメン屋台を知っています。夕飯はそこにしましょう」 そう言って秀一は歩き出し、振り返って「行きましょう」と言った。 (何か、変なのと組んじゃったよね...) がりがりと頭を掻いて「はいはい」と言いながら彼女は秀一の後を追った。 |
桜風
14.10.16
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