| 人通りの少ない、街灯が切れかけてちかちかしている通りに出た。 (あれ?ここ、ちょっと危なくない?) 信用するには情報が足りない男と一緒にこんな人気のないところに来てしまった。 (伝手ってのも教えてもらってない...) 逃げたほうがいいかと体重を後方に掛けた。 「あそこですよ」 振り返った秀一が指差したのは、少し先に明るい一角がある。 「先客がありますね」 苦笑して秀一はそちらに足を向ける。 彼女は少し悩み、屋台に行くと言っていた言葉が嘘ではなかったということで、取り敢えずついて行くことを選んだ。 「幽助」 暖簾を少し上げて覗き込んだ秀一が声をかける。 「おー!蔵馬じゃねーか!!」 「どうした、大将!カノジョか?」 先客がからかう。 秀一の顔が一瞬だけ引き攣った。 「何言ってんだよ。こいつ男だぜ。お?何だよ。蔵馬は女連れかよ。これだろ?」 秀一の斜め後ろで突っ立っている彼女を見て、小指を立てながら幽助が言う。 「違いますよ」 そう答えて、秀一は後ろを振り返った。 「どうぞ」 席を勧められて「お邪魔します」と彼女が腰を下ろす。 「彼女、屋台が初めてらしいですよ」 「マジかよ!じゃあ、お前の彼女のバージン貰っちゃったのか「幽助」 静かな、冷え冷えとした声音でやんわりと止めたのは秀一だった。 「あまり、品のない言葉を彼女に向けないでくださいね」 「お、おう...」 コクコクと小さく頷いた幽助は「わりぃな」と彼女に謝罪する。 「あ、いえ...」 (何、これ...) 彼女は秀一を見上げた。いつも自分に対して向けている態度と少し違う。 もしかしたら、こっちが素なのかもしれないと思った。 「あ、じ..じゃあ。大将。また来るな!」 先客がいなくなり、客は秀一と彼女だけとなった。 「んで、お嬢さん。何にする?」 「チャーシューメンがおススメですよ」 隣に座る秀一が言うと「じゃあ、それで」と彼女がいい「俺も」と秀一が言う。 「おう。ちょっと待ってな」 そう言って調理を始めた幽助の手際は良く、あっという間に二人前のチャーシューメンが目の前に現れる。 「どうぞ」と秀一が割りばしと胡椒を渡してきた。 「ありがとう」 受け取った彼女は少し胡椒を振って、割りばしを割る。 「いただきます」と言って一口面をすすった。 「美味しい!」 「ありがとよ」 幽助が満面の笑みでそう言った。 「んで、蔵馬。ここに、単にデートで来たわけじゃねぇだろ?」 「ええ。これを」 そう言って彼は携帯を取り出して幽助に見せる。 「おー、カノジョ自慢か?てか、ピントが合ってねぇぞ」 「その背後。これです」 アップは、隣でラーメンをすすっている彼女だが、背後に行きかう人が写っている。ピントはこちらに合っていた。 「どれだよ」 「オールバックの緑色の縁の眼鏡を掛けている男です」 少し小さいが、判別がつく。 「ああ、このおっさんが?」 「この男の、毎週水曜日と毎月第三金曜日の午後7時から午後9時の行動を調べてもらえることはできますか?」 麺をすすっていた彼女の手が止まる。 口から麺が出たまま秀一を見た。 「情報収集です」 振り返って秀一が言う。 「まあ、いいけど。何者だよ。データくれ」 「はい、送ります。俺の親父の会社をカモろうとしている、後ろ暗いところがありそうな人です」 「はーん?蔵馬の会社を?カモる??どうやって??」 心底不思議そうに幽助が言う。 「さあ?それが、たぶんわかるんじゃないかなって」 「んで、彼女に協力頼んだのかよ」 「まあ、そうですね。同盟を結んでます」 「へえ?蔵馬と同盟とか..よく結ぶ勇気があったな」 からかうように言う幽助に「幽助」と秀一が窘めるように声をかけた。 「じゃあ、ちょうど次の金曜が第三だし。再来週の月曜、また来いよ」 「わかりました」 秀一は頷き、箸を割る。 彼女も食事を再開した。 (蔵馬って何だろう...) ずっとその単語が気になっていた。 |
桜風
14.10.23
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