| 幽助に調査を依頼した次の木曜日に、秀一たちの来社があった。 話を具体的に詰めに来たらしい。 (このペースで大丈夫なの?) 他人事ながら心配になる。 このまま話を詰めていった場合、何か裏が取れなければ話をなかったことにはできないだろう。 つまり、このまま進めば、秀一が危惧した通りカモられる可能性があるのだ。 「失礼します」 毎回のように茶を出しに応接室に行く。 「そういえば、南野君」 彼女を見た途端、営業担当が秀一に声をかけた。 秀一の隣に座る、彼の先輩も少し驚いたように秀一を見る。 「何でしょうか」 「この間、見ましたよ。この子とデートしていましたね」 一瞬動揺してカタリと湯呑を置く手が滑りかけた。 「見かけていたなら声をかけてくださってよかったのに」 秀一が応じる。 「いやいや、若者のデートを邪魔しちゃ悪いでしょ。キミたち、いつの間に」 (拙い...) 誤魔化すか、乗るか... 咄嗟に判断できなかった彼女に対して秀一は「まだ鋭意努力中なんですよ。からかわないでください」という。 「は?!」と漏れそうになる声を飲んで秀一を見た。 「実は、先日はごまかしましたけど...一目惚れしちゃいまして。何とか、映画には誘えたんですけどね」 そう言って秀一が彼女に視線を向けた。 (これは、誤魔化しきれる...!) 彼女も確信した。 困ったような、まんざらでもないような表情を作る。 「君の方はどうなんだね」 社長が話を振ってきた。 「そうですね。まだ保留です」 そう言って秀一を見る。 彼は片眉を上げた。 「中々、厳しいですね」 苦笑を浮かべて秀一が言う。 「でも、先日誘っていただいた映画は面白かったですよ」 「それは良かったです。また声を掛けさせてください」 彼女の言葉に秀一が言う。 「ええ、タイミングが合えば」 そう言って彼女は一礼をして応接室を出た。 いつもなら茶を出した後は暫く応接室の前で中の様子を窺っているのだが、秀一が中にいるので、その必要がない。 そして、あの場であの会話をしたことで、秀一と彼女が一緒に居ても違和感がない状況を作れた。 作ってもらえた。 (借りができちゃった..かな?) 肩を竦めてそんなことを思い、彼女は事務室へと戻って行った。 幽助からの情報を受け取りに行ったのは秀一だけだった。 元々その日は彼女は別のバイトを入れていたため、行けないと帰りに聞いていたのだ。 情報を受け取るだけだし、と秀一も特に何も思わなかった。 「幽助」 「おう。カノジョは一緒じゃねぇのかよ」 からかうように友人に言われて「カノジョじゃないですよ」と秀一も返す。 「んで、ほら。まあ、蔵馬に目をつけられた時点で黒だろうとは思ってたけどよ」 そう言いながら秀一に封筒を渡す。 幽助もこの店にやってくる者に依頼したのだという。 ここにはいろんな人が集まる。 人も、妖怪も。色々。 「あー、ホントですね」 貰った資料に目を通しながら秀一が呟く。 「何食う?」 「醤油ラーメンを」 「チャーシューメンじゃなくていいのか?」 一応幽助が確認した。 「ええ、醤油ラーメンをお願いします。あと、稲荷ずし、残ってます?」 「おう。今日は蔵馬が来るからな。ちゃんと取っといた」 たまにこの店は握り飯や稲荷ずしなども置いている。 味付けが中々好みで、大抵秀一がここを訪れた時はそれを所望する。 「ありがとうございます」 礼を言ってまた資料を読んでいく。 「そういえば、この調査の代金ですが」 「いいよ。こっちもそんな払ってないし」 そう言いながら醤油ラーメンを秀一の前に置く。稲荷ずしを載せた皿もその隣に置いた。 「払ってなくても、ツケの相殺をしたのでしょう?それはつまり、代金を払っているということです。お互い、“社会人”です。そこら辺はケジメをつけましょう」 秀一が言うが、 「いや、良いって。何か、今度しょーもないこと頼むかもしれないし。そん時でチャラってことで」 と幽助も引かない。 お互い、お互いの性格を分かっている。 このまま意地を通せる相手でもない。そして、幽助の言っているよに何か頼まれごとをするかもしれない。 そちらの可能性を思い浮かべて 「わかりました」 と秀一が引いた。 「ああ、わりぃな」 引いてくれたということを理解している幽助はそう一言いう。 秀一は「いいえ」と答え、割りばしを割った。 |
桜風
14.10.30
ブラウザバックでお戻りください