| 幽助から情報をもらった翌週の月曜日に秀一はとある家を訪ねた。 「蔵馬君から連絡なんて珍しいね。しかもあたしに」 そう言って家から出てきたのは桑原静流だった。 「すみません、突然」 「いいんだよ。それで?あたしに頼みごとって?まあ、上がって」 案内された応接室に腰を下ろす。 静流がお茶を淹れて戻ってきた。 「どうぞ」 「ありがとうございます」 「それで。早速だけど、用件は?」 静流が促すと秀一は頷き、 「静流さんって、確か警察方面にもお知り合い居ましたよね?」 と確認する。 「いるねぇ」 苦笑して彼女が応じた。 「煙草、いいかい?」 「どうぞ」 秀一の言葉に「ありがと」と返して彼女は煙草をくわえて火をつける。 「それで、警察になんの用だい?」 「実は、」と秀一は話を始める。 「ふーん...これ、タイミングが大事ね」 「ええ、そうなります」 秀一が頷く。 「でも、良いわ。わかった。ウチの馬鹿が蔵馬君にお世話になったことだし、あいつには恩を着せて、取り敢えず、あいつがたくさん持ってる蔵馬君への借りを返させてもらいましょう」 「別に借りだなんて...」 秀一が言うと、静流はぱちんとウィンクをした。 「あのバカに恩を着せたいだけなんだから、気にしないで。わかった。悪いようにしないから、安心して」 彼女の言葉に頷いて秀一は静流が淹れた茶を飲み、席を立った。 「それでは、お願いします」 玄関先で頭を下げ「任せて」と静流の返事に頷き、桑原家を後にした。 そして、翌月の第三金曜日の翌日の新聞に大きな見出しが出ていた。 多くの著名人が絡んだ逮捕劇だったので、紙面を大きくとっていた。 秀一は記事を一通り眺めて新聞を置く。 おそらく、これをきっかけに過去の事は週刊誌等が漁ってくれるだろう。 その好機の目が彼女に向かないように手を回せないだろうかと思っていたところに、電話がかかってきた。 「もしもし」と応じると『テレビ見た。凄いね』と彼女が言う。 「ええ、そうですね。ここまで大きなことになっているとは思いませんでした」 『ホントに』 秀一の言葉を疑う彼女がある。 「ええ、本当です。さん、もしかしたらそちらに週刊誌の記者が行くことがあるかもしれません。警察が過去を洗うよりも先にあちらの方が鼻が利く。しかも、無責任に書くことが多いですからね」 秀一の言葉に『まあ、可能性は否定できないね』と彼女が言う。 「どうです?ボディガード要りません?」 秀一が言うと 『費用がかさむのはちょっと...』 と彼女が言う。 「そうですね、まずは俺の事を名前で呼ぶところから始めませんか?俺、一度も呼ばれていないんですけど」 そう言うと電話の向こうで彼女が笑い 『名前を呼ぶだけで、ボディガードになってくれるの?安すぎて不安だわ』 という。 「いいえ、ボディガードはまだですね。情報収集くらいなら」 『へー、そうか。じゃあ、少し考えてみる』 「ええ、そうしてください」 彼女の言葉に秀一は苦笑してそう返した。 「ところで、話は変わって。今度映画に行きませんか?」 『バイトのない日なら、付き合ってあげてもいいよ』 彼女の答えに秀一は少し肩透かしを食らった気がした。 『今回の、お礼を兼て』 「同盟だから、対等でしょう」 『そっちの負担が多かった気がするから。私の気分の問題』 彼女の言葉に、「わかりました」と秀一が頷く。 「では、また連絡しますね」 『わかった。ねえ、南野君』 「...はい」 少しだけ動揺してしまった自分が悔しくて秀一は苦い表情を浮かべながら返事をした。 『ありがとう』 「どういたしまして」 秀一の返事を聞いて、彼女の通話が切れた。 「鋭意努力をしましょう」 中々難しいダンジョンの攻略前に似た高揚感に、秀一は思わず懐かしさを覚えて苦笑を漏らしたのだった。 |
桜風
14.11.13
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