| 「涼太君!」 名前を呼ばれて振り返る。 声が凄く似ていたからビックリした。 「お義母さん」 「ごめっ、声大きかった?」 周囲を見渡す。 黄瀬に気付いた女の子達がキャーと声を上げていた。 「大丈夫と思うっス。いざとなったら、お義母さんと別ルートに走るっスから」 苦笑して黄瀬が言う。 「大変ねぇ」 「ちゃんにも結構迷惑掛けてるんスけどね」 「あの子、走るの速いでしょ」 「体力もまあまああるから少しは安心なんスけど、やっぱり...」 そう言って睫を伏せた。 「あら、素敵な顔」 「は?」 「ね、涼太君。ご飯食べに行かない?」 「へ?」 「涼太君も知ってるかもだけど。さん、今日さつきちゃんと旅立っちゃったのよ」 肩を竦めて言う。 「あ、ああ...言ってたっスね。2人で旅行だって」 「だから、外食しようと思ってたんだけど。どう?」 「迷惑じゃないっスか?」 自分と一緒にいたら迷惑になるかもしれないと思って黄瀬が言う。 しかし、彼女は笑った。 「そんなオッシャレなところに行かないって。あたしがたまに行ってるとこ。オッサンばっかだから涼太君は別の意味で目立つかもしれないけどね」 ぱちんとウィンクして彼女が言う。 「でも...」 「つべこべ言わない!選択権ないわよ。はい、行くわよ!!」 そう言って黄瀬はかなり強引に連れて行かれた。 「ここっスか?」 「そ。ここはたぶん涼太君を『きゃーーー!!』って言う人いないわ」 そういいながら彼女は暖簾を潜る。 黄瀬はその後に着いていった。 「お、さん、久しぶりだね。いらっしゃい!」 カウンターの中からそう声を掛けられたの母親は 「ごめんねー、ご無沙汰」 と笑う。 「お?後ろの坊やはさんのコレかい?」 そう言って客の一人が親指を立てた。 「そうよー、って言いたいところだけど。そう言ったの娘にばれたら勘当されるので、否定します。娘の彼氏よ」 「おお〜、ちゃんもとうとう...寧ろ、旦那がよく黙ったなー」 「ふふん、黙ってるわけないじゃない。この子、いつもいびられてるわよ。最近じゃ足蹴にするのも抵抗がなくなってきてるくらい」 「ひでぇなー」 ガハハと店内に笑い声が響く。 「え、えと。お義母さん...」 「そうね。大将、座敷空いてる?」 「おう、好きに使ってくれ」 「ありがと」 そう返しての母親が颯爽と歩き出し、黄瀬はその後ろをついて歩く。 座敷は4畳程度の大きさだった。 畳は陽に焼けて、しかも何だか安っぽい。座布団も薄っぺらだった。 「ほら、涼太君。座って」 「お客さんも、ちゃんのこと知ってるんスね」 「まあ、何度も連れてきてたりしてたからね」 そう言いながらの母親は黄瀬の正面に座る。 「お酒、いけるわよねー」 そういいながらメニューにある銘柄をチェックし始める。 「まあ、一応」 「最近あんまり付き合ってくれないからダメになったかと思ったわ」 「最初はお義父さんとお義母さんを潰そうって躍起になってたんスけど。ちゃんが、体が心配だから無理するなって言ったんで」 「ははっ、それ旦那の前で言ってみて」 「...確実に一升瓶を口に突っ込まれるから遠慮するっス」 首を竦めて黄瀬が言うと「あはは」との母親が愉快そうに笑う。 「そうね、突っ込むわ」 「でしょ?」 「失礼します」 黄瀬と同じくらいの青年が声をかけてきた。お絞りとお冷を持ってきた。 の母親が注文を始める。 「好き嫌いとか、アレルギーはないわね?」 「はい」 注文の途中で確認されて黄瀬は頷いた。 その後、彼女は物凄い量の料理を注文した。 「あ、モデル的には脂っこいのダメだった?」 「いえ。オレ、そういうのあまり気にしなくて良いみたいで」 「わ、羨ましい」 そう言って彼女は笑った。 「学校どう?あと1年半じゃない?」 料理を待っているこの時間は手持ち無沙汰だ。 「ま、楽しんでます。またちゃんと学校が違うのが残念っスけどね」 苦笑して黄瀬が返した。 「でも、実家出て大変じゃないの?家事を自分がしなきゃいけない。たまにさんが行ってるって言っても殆ど自分でやらなきゃでしょ?」 「親が傍にいるほうが窮屈でたぶん、ストレスだから」 困ったように黄瀬が笑う。 「あら、苦手なの?」 「オレ、ちゃんが羨ましいんスよね」 「ん?素敵なお母さんがいるから?」 からかいの気持ちで言うと「そうっス」と頷かれて彼女はちょっと困った。 「オレ、昔からカッコ良かったんス。小さいときは可愛かったんスけどね」 「何の自慢だ?」 「姉ちゃんがいるんスけど。姉ちゃんがモデル事務所になんか勝手に応募して、中1の時にモデルになったんスよ」 「へー、結構最近。というか、お姉さんがいたのね」 「いたんスよ。あんま仲は良くないっスね。昔から、まあ、この顔のおかげでちやほやされて、それが当たり前ってオレもちょっと思うときもあって」 「お姉さんが応募ってのは、結構聞くパターンよね?」 「そうっすね。モデル仲間の中には、やっぱりそういうひとはいるっスね。それは別にいいんスよ。それなりに楽しいし。ただ、聞いちゃったんスよね。親が、オレのお金の話をしているのを。それ聞いて、何スかね。スーって冷めたっていうか。お互い利害関係なんだって思って」 苦く笑う黄瀬にの母親は困ったように笑った。 「そっか」 「だから、本当にちゃんを大切にしてるお義父さんとお義母さんが好きっス」 にこりと笑った。 彼女は複雑そうな表情を浮かべ、 「あらあら。告白されちゃった」 と呟く。 少し彼女の様子が変わったことに気付いた黄瀬は少しだけ後悔した。 嫌な話を聞かせてしまった。 「涼太君のご両親は、例えば涼太君が付き合っている子の家族、それこそ三代前に遡ってとか、気にする人なのかしら?」 「...わかんないっスね。でも、何か言ってもオレは無視するつもりでいるんスけど。何か、あるんスか?」 「失礼します」 店員がやってきた。 そのタイミングはどうだろうと思っていた黄瀬の視界の端でが母親が明らかにホッとした表情をした。 あまり突っ込まない方が良い話題だったらしい。 もっとさらっと話しておけばよかった。 先ほど彼女に言ったとおり、親がとの交際について口出ししてきても無視するつもりだったのだし。 「さ、食べよっか。これ、美味しいんだよ」 「...え、ちょっと絵面がグロいんスけど」 「まあ、モツだからね。でも、ホントお酒のアテにはぴったりなの。ほら、お猪口持って」 促されて彼女が注文した冷酒を注いでもらう。 「んじゃ、いただきまーす」 |
桜風
13.4.6