彼女はかく語りき
 




 昔話しようか。

ん?うん、酔ってない。酔ってないけど、何だろうな。聞いてくれる?

ありがとう。涼太君は、本当にいい子ね。

ああ、子ども扱い?ごめんごめん。

でも、娘と同じ年なんだから、子ども扱いってある意味正解だと思うけど?

ははっ、はいはい。ごめんなさいね。



あたしね、両親が蒸発してるの。

蒸発っていうか..ダブル不倫して、捨てられたっていうか。

妹が小さくて、まだおっぱい飲んでたのに、父親だった男が出て行って、母親だった女が出て行った。

あたしと妹は父方の実家に引き取られたの。

祖父は、あたしたちを憐れんだ。そして、祖母は、曲がりなりにも、自分の息子の子供が施設というのは世間体が悪いからって。そんな理由で引き取ることに不承不承に頷いたんだって。

あたしたちが祖父母の家に行って、2年くらいしたら、祖父が亡くなった。

祖父は、あたしたちを可愛がってくれたけど、祖母はすごく邪険に扱った。

どうしていいかわからなくて、取り敢えず『いい子』になってみたの。

それで何年か過ごしたわ。

死ぬ気で勉強した。

学校の先生がほめてくれたら、きっと祖母もあたしたちを受け入れてくれるって思ったの。

でもね、あたしは母親だった女にそっくりなんだって。

だから、凄く鬱陶しがられた。

あの女、なんでそんな置き土産までしてくれたのかしらね。

あたしはね、人を信用したことなかったの。信頼も。

全部利害関係が頭にあった。

こいつは利用できるから、付き合おう。こいつはダメだから無視、とかね。

すごくサイテーな人間だったのよ。

中学で陸上を始めて、全中三連覇したら、いくつかの高校から声がかかった。

でも、それは全部蹴った。

スポーツ推薦なんて、体を故障したらそれまでだし、その時は、勉強ができないスポーツバカに枠を譲ってやるっていうかなり嫌な上から目線で推薦の話を蹴ったわ。

そして、都内の陸上ナンバーワン校に、勉強推薦で入って、陸上部に入った。

周りが全部バカって気がしてね。つまんなかったわー。

走ったら一番だし、勉強だって、ほかの子はなんでこんなにできないんだろうってわかんなかった。

あたしは、やればできる子だったから。勉強のコツももう身についてたしね。

だんだん『いい子』に飽きて、そして、無免でバイクを転がすようになった。


ははっ、びっくりした?結構酷いことしてるのよ?


いつの間にか、周りに行き場のない、あたしと似たような子たちが集まって、『チーム』ができた。

前に言ったことあるよね。あたしは、周りのレベルに合わすのが嫌で個人競技だったって。

だから、『チーム』も嫌だった。

でも、あたしのすぐそばにいた子が、あたしとレベルの合わない子の面倒を見てくれたから、気にならなくなって。

そして、その子たちは、何故かあたしに懐いて『姐さん』って言われて。

嫌な気はしなかった。

だって、邪魔にならないし、便利だったから。

今思うと、すごく恥ずかしい。

あ、知ってるの?

あー、さんも言ってるわ。たまにデート中に出会って、黄瀬くんが睨まれてたとか。

ごめんねー。あの子たちにとって見たら、さんは年の離れた妹みたいなものだし、場合によっては、自分の娘らしいから。


ちなみに、さんの中1の時の担任は、あたしの高校時代の同級生らしいの。

あたしは、チームで遊んでいても学年トップで、彼女はどんなにあがいてもあたしを超えることができなかった。

あたしのチーム活動を学校にチクったけど学校が揉み消したしね。

すごく面白くなかったんだろうね。

まあ、報復するにしても、やり方がまずかったわね。

あたしだけじゃなく、旦那がブチ切れたから。


閑話休題。

チームっていう居場所ができてから、ほとんど家にいる時間が少なくなったわ。

妹は、地味だけど素直でいい子だった。

祖母のお気に入りになったわ。

だから、余計にあたしは帰らないようにした。

ああ、嫉妬とかじゃないの。だって、あたしはもうその時に一人で生きていける自信があったし。

あたしがいたら、家の中ぎくしゃくするのよ。

大学進学と同時に、家を出た。

バイトしながら、FXとか株とかでいろいろ荒稼ぎして、生活には困らなかったのよね。

大学出て、誰もが羨む今の会社に就職して...

まあ、やっぱり周りがバカに見えていたわ。


ある日ね、会議が長引いてお昼の時間がずれたの。

会社から出て、さて、何を食べようかしらーって思ってたら、目の前に大男が立ちふさがったの。

何だろ、こいつって思ったら、お弁当に誘われたわ。

おなかすいてたし、出歩くのも面倒だから、まあ、ナンパに応じてやったのよね。

そしたら、なんとびっくり。すっごく美味しかったのよ。

弁当を洗って返すって言ったら別にいいから明日もって言われて。

面倒だなって思ったけど、明日の弁当のおかずを列挙し始めたのよね。

興味持って頷いたわ。

単純よねー。

それから、そいつの弁当でランチするようになって。使えるなー、便利だなーって、舎弟くらいにしか思ってなかったらさ、結婚してほしいってほざいて。

わ、こいつ面倒だって思ったのよ。

あたしは、一生誰かと一緒に過ごす気はなかったからね。だって、裏切っていなくなるはずだもの。

家族ってのはそういうものだと思ってた。

だから、絶対に嫌だった。

でも、あまりにしつこかったから、こういってやったの。

あんたが浮気をしたら、その股についてるものちょん切るわよ

って。

ははっ、すごい。涼太君もドン引きかー。

もっと引くよ。

そいつは間髪入れずに「いいよ」って言ったんだから。

少しは引くかなって思ったの。ドン引きして、さっきの話はなかったことに、って言われると思ってたのに間髪入れずに「いいよ」だからね。

あたしが引いたわ。

でも、こちらが提示した条件を相手は飲むといってるんだから、『契約』は成立かな?って思って、結婚することにした。

結婚を『契約』って思ったら気楽だったしね。

でもね、その男の実家は中々難しいところでさ。

まあ、詳しくはその男に聞いてね。

で、どうするのかなーって思ってたら「家を捨ててきた」ってあっさり言うじゃない?驚いたわ。

「家を捨てたから、キミの籍に入れさせて」て軽く言うのよ?

まあ、別にいいやって思って籍を入れて、そいつが『』になったの。

うちの場合、祖母しかいないし、そいつの勤めている会社は、あたしと同等以上の会社だったから、祖母も世間体がうんたらかんたらって言えなかったのよね。


ここから先は、まあ、ありきたりで、でも、ちょっと変わった家族になったかしらね。

そいつを信用して、信頼して『旦那』って呼び始めたころに家族が増えた。

本当はね、あたしは子供を作るつもりがなかったのよ。

うちの両親だったあいつらがああだったから、あたしもそうなっちゃうんじゃないかなって。

旦那のところも、家族としてあまりいい形じゃなかったから、不安だったんだけど、子供ができたって話した翌日に即行仕事辞めて帰ってきたのよ。

さすがに唖然としたわ。

でも、旦那が「万全の態勢作るから」って言ったときの顔を見たら、腹をくくったわ。

お互い、手探りの子育てでね。どっちも実家に頼れなくて、本を読んだり調べたり。

たまに、あたしのチームの子が来て、子育て指導してくれたりして、本当にてんやわんやだったわ。

でも、一番楽しかった。

違うわね。

楽しいのよ。今も、たぶん、これからも。

さんがこれから先、お嫁に行って、家からいなくなるかもだけど、でも、それも含めて楽しみだったりするの。

だって、また家族が増えるんでしょ?

旦那は、やっぱりさんと一緒にいた時間が長かったし面白くないだろうけどね。

あー、面白い顔してる。


昔話お終い。

ありがとね、聞いてくれて。









桜風
13.4.6


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