| イザークが車を運転し、助手席にヴィンセントが座っている。 どうも落ち着かないらしい。 いつも助手席にはが乗る。だから、ヴィンセントは初めての経験なのだ。 「ヴィンセント」 「はい」 「どこか行きたいところはあるか?」 「んー、はくぶつかんに行きたいです」 ヴィンセントが答え「博物館?」とイザークが問い返す。 「はい」 「何処の博物館だ?」 「しゅうせんきねんはくぶつかんです」 (良く正式名称を覚えてるな...) イザークは感心しながらも、「わかった」と頷き、ハンドルを切った。 終戦記念博物館は、基本的にはあまり人気のある博物館ではない。 人は嫌な思い出からは目をそむける。 それでも背けてはならない過去があるから、今がある。 この博物館が人気がないのは、プラントがやったことも隠さずに、誤魔化さずに展示しているからだ。 美談ではなく、事実を。 ヴィンセントは熱心に展示品を見ていた。 読めない文字はイザークに聞いて、理解をしようとしていた。 MSの展示スペースに足を踏み入れ、彼は「わぁ...」と思わず声を漏らした。 「ちちうえ」 ヴィンセントがイザークの手を引く。 「何だ?」 「ちちうえとははうえのMSはありますか?」 あまり大きな声で言わない方が良いと察したヴィンセントが声を潜めて言う。 どうやってこんな敏い子になるのだろう... 「あるぞ」 イザークは頷く。 「火気類は全部中身は空っぽでMSのコックピットのOSも入っていない。つまり、ハリボテだな」 「どれですか?」 問われてイザークはまずデュエルの前に立った。 ゆっくりと言葉を噛み砕いて、しかし誤魔化すことなく戦争の話をした。 自分の犯した罪も。 ヴィンセントはイザークの話すことを理解しようと一生懸命聞いていた。 「のは..あっちだ」 一通り話したイザークは先ほどと同じようにヴィンセントの手を取ろうとして、躊躇い、そのまま歩き出した。 しかし、小さな手が自分の手を掴んでくる。 驚いて見下ろすと、ヴィンセントは怒ったようにイザークを見上げていた。 「どうした?」 「ぼくは、ちちうえが好きです」 その一言にイザークは息を飲む。 戦争の話、自分の過ちを話した。汚れたこの手。のように生かす戦い方が出来なかった自分は、他の多くの兵士と同様、生かした命よりも奪った命の方が多いはずだ。 生かした命が多かったから罪がなくなるわけではないが、それでも背負うべき罪の重さは違うとイザークは思っていた。 「...すまない」 「ははうえの、早くみたいです」 ヴィンセントにとって不要だったイザークの謝罪は、その言葉で無かったことにした。 「のは、美しいぞ。シルバー・レイと呼ばれた機体だ」 そういいながらイザークはヴィンセントを抱え上げる。 「ちちうえ?」 「ノルンというんだ」 「あねうえのお名前です」 ヴィンセントは驚きの声を上げた。 「の母上の名前でもある。お前のお祖母様だ。随分と昔の地球には色々な信仰があって、その対象として『神』というものが作られた。昔の人たちは神にちなんだ話を作ったりしていたんだが、その中で『北欧神話』と言うものがある。北欧神話に出てくる、運命の女神の名が“ノルン”というんだ」 「なぜ、ははうえのMSはその名前なんですか?」 「が拾って、そう名付けたからだ」 随分と昔のような気がする。 実際、あれからかなりの年月が流れた。それでも、まだ10年と経っていない。 の機体の前に着くと、ヴィンセントは目を奪われていた。 白銀色に輝く機体。 イザークはその機体の話をする。 奪った命よりも生かした命の方が遥かに多かったパイロット。 今でも伝説で、プラントの英雄で。 ただ、本人がそういうのを嫌がっているため、殆どの人が知らない。知っているのは軍関係者と政治関係者のみ。 今、どのように過ごしているかも含めて。 ヴィンセントのペースに合わせて博物館の中を歩いていたら、昼も過ぎていた。 「何が食べたいんだ?」 「えっと、ハンバーグがたべたいです」 「よし、わかった」 子供の答えに、イザークは少しだけ安心した。 |
桜風
12.12.3
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