| 食堂を出たは良いが、イザークは足を止めた。 あのまますぐにを追いかけていたら簡単に追いつけただろうと思う。追いつけなくても見失わずに済んだはずだ。 ガシガシと頭を掻く。 別に、と婚約ってのは嫌じゃない。嫌ではなかった。 自分は嫌いだからと口げんかをしているわけじゃない。彼女のことは認めているし、向こうだってそんなに自分のことを嫌ってはいないと思う。 いい気でいられないのは、『親に言われて』といった感じが強いから。自分も、も。 はぁ、と溜息を吐いて顔を上げる。 取り敢えず、屋上から探そう。 ガチャリ、とドアが開く音がしては慌てて目元を拭った。 屋上の入り口からそれを見たイザークは小さく溜息を吐いた。少しだけ、胸が痛む。 そして、少し声を張った。 「ふん。バカと何とかは高いところへ行くというが」 聞きなれた声が聞こえる。 は振り返らずに 「普通はさ。バカの方を何とかって言うんじゃない?『何とかと煙は高いところを好む』ってさー」 イザークに聞こえるように声を出す。 「バカの方を伏せたらどうせのことだから好きに取るだろう。きちんと教えておかないとな」 そう言いながらイザークはの隣に立った。 それに気付いたは屋上の柵の上で腕を組み、そこに顔を隠すように深く埋める。 イザークもに倣って柵の上に腕を組んで顔を乗せた。 チラリとを見遣る。 目の下が赤い。 イザークは段々腹が立ってきた。 プイ、とが居る反対側に顔を向ける。 「乱暴に擦るからだ」 ポツリと呟いた。 「何の話よ」 「目の下、赤くなってるぞ」 イザークに指摘されたは俯いて顔を見られないようにする。 「うるさいなー」 呟くように返した。 イザークは体を反転し、柵を背にして空を見上げた。 「気にするな。どうでもいいやつが喚いているだけのことだろう」 「誰かさんだって同じコト、思ってるんでしょ」 拗ねたような声で言うにイザークは肩を竦める。 「それは、売り言葉に買い言葉というか...反省はしている」 やけに素直なイザークは気味悪い。 「...何か悪いものでも食べた?素直なイザークって気持ち悪いを通り越して気味悪いんだけど」 「人が素直に謝罪の意思を表しているんだ。少しくらい可愛げというもので返せ」 忌々しげにイザークが呟いた。 は笑いを含んだ声で「ごめん」と返す。 「」 イザークが思いのほか優しい声で呼ぶので驚いては顔を上げた。 そのままの顎を固定してイザークの顔が近づく。 突然の予想外なこの展開には柄にもなく固まった。 が、 「ああ、まだ赤いな」 そう呟いてイザークの手が離れる。 きょとんとして、そしては笑い出す。 「な、何だ!?」 「ううん、何でもない。ふふ、はははっ」 が愉快そうに笑うからイザークも少しは安心したが、それでも笑っている原因が自分にありそうで、それはそれでイヤなので 「何でもないならそんな風に笑うのはよせ」 と止めた。 そう言ってもは益々笑うのでイザークは諦めて、仕方なく暫くはこの見上げた空のようにカラッとしたの笑い声を耳にしながら風に吹かれることにした。 |
桜風
07.12.3
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