| イザークの提案を受けての従兄でザフトのエースパイロットのジョン・とイザークのチェスの勝負が繰り広げられることになった。 父親としても、いい余興だし、何よりあのマティウス市代表評議委員のエザリア・ジュールの息子を負かしたとなれば箔がつく。 そんな浅はかで邪な気持ちで息子とイザークの勝負を認めた。 「手加減、なさらないでくださいね。私も貴方から学びたいと思っておりますので」 「ああ、手加減はしない主義だ。覚悟しろ」 イザークとジョンがそんな話をしていた30分後。 「チェックメイトです」 イザークの落ち着いた声がホールに響く。 「ま、待て」 「構いませんよ。2手前に戻っても貴方の敗北は確実ですけど...」 イザークの言葉にジョンはわなわなと震える。 「投了なさいますか?それとも、私が次の手でキングを取りましょうか?」 イザークの言葉にジョンが顔を真っ赤にする。屈辱極まりない。そして、父親も同じ表情をしていた。 「て、手加減をしてやったからな」 苦し紛れにジョンが言うが 「手加減をしない主義だと仰いましたが...」 白々しくイザークが揚げ足をとる。 「こ、今度は手加減をしない。今度は射撃で勝負だ!嫌とは言わせん。さっきお前の申し出を受けてやったのだからな」 ヒステリックに叫ぶジョンに向かって「良いでしょう」とイザークは承諾して立ち上がる。 「ただし、その相手は彼女です」 そう言ってイザークはの手を引いた。 「お互い真剣勝負、という事で。勿論次は手を抜いたとは言わないでください」 イザークの強引さには目を見開いて固まる。 「い、イザーク!」 「勝負は勝負だ。本家だろうが分家だろうが関係ないだろう。ザフトは、実力主義だ。軍人というものはそうじゃないのか?」 周囲に聞こえるようにイザークは言った。 軍人家系の家のパーティということは周りは軍関係の人物が多いはず。 これに異を唱えるのは少し部が悪い。 パチパチと拍手が聞こえる。 振り返ると車椅子に乗った人物が居た。 イザークがを見下ろすと「お祖父様」という呟きが聞こえる。 「中々、気骨のある青年だな。、いい人と婚約をしたな」 祖父にそう声を掛けられてはイザークを見上げる。 「皆も聞いただろう。我が家は昔は彼の言うとおり実力主義だった。本家も分家もない。寧ろ、実力があるものが家を継いでいたのだがな。どういうわけか...」 そう言っての伯父を見る。 「ただ地位が高ければ良いわけではない。そんなもの、金でいくらでも買える。買えない物をどれだけ身につけているか。その方が重要だ。この勝負、わしも見届けよう。、本家の洟垂れに遠慮して手を抜くなよ」 祖父に言われては頭を下げた。 ぞろぞろと皆で移動して地下の射撃場へと向かう。 「お祖父様が人前に出てくるのなんて凄く久しぶりなの」 がイザークに言う。 「お元気そうだぞ?」 「そうでもないはずだったんだけどな」 首を傾げながらが言う。だから、今の伯父や従兄が好き勝手をしていたのだ。 射撃場に着き、はジャケットを脱いだ。 「悪いけど、持ってて」 そう言ってイザークに渡して銃を借り受けてスペースの前に立つ。 「勝負方法は?」 がジョンに聞くと彼はを睨みつける。 「あまりお客様を退屈させるわけにはいかないからな。30分。高得点を出したほうが勝ちだ」 「了解いたしました」 そう言ってブザーが鳴る。 2人がそれぞれの的に向かって引き金を引いていたのだが、どうもの命中率が悪い。 「どうしたんだ?」 アカデミーの射撃場では的の中心を外さないのに、今のはそこに当てられていない。 やはり本家には勝てないのか、とイザークは悔しそうに奥歯を噛み締めた。 一度勝負をすればの実力が分かるだろうし彼女を軽んじる者だって減ると思ったからこの勝負を受けさせたのに。逆効果だったか... 「あやつめ...」 傍に居たの祖父が忌々しげに呟く。 「どうかなさったのですか?」 イザークが問うと 「の銃に細工がしてある」 と低く返事があった。 驚いてイザークがの銃を見る。が、よく分からない。 「が射撃を外すはずがない。あの子の型はわしが教えたんだ。それからずっと練習をしていたのなら外すほうが難しい」 しかし、次第にはその拳銃のクセを見抜いたかのようにいつもどおり的の中心に当てていくようになった。 15分経ったとき、祖父が声を掛ける。 「2人とも銃を交換しなさい」 その言葉に慌てるのは本家の父子だ。 「何故ですか。もし、の銃に問題があってもそれを克服してこそですよ。ザフトの拳銃の中にも少し合わないものがあるかもしれないじゃないですか」 そう言うジョンに 「なら、お前だって使えるはずだろう。それに、これは勝負だ。公平でなければならない」 と祖父が言い放ち、2人の銃が交換される。 残り15分で勝敗が決した。 何だかんだ言ってもはあの銃で的には当てていたし、5分使えば中心に当てられるようにもなった。 しかし、従兄の方は結局最後まで的に当てることができなかった。 つまり、元々実力に差が有りすぎたということだ。 ザワザワと波のように声が広がる。 どうしたものかとが周囲を見渡すとイザークが満足そうに微笑んでいた。 その笑顔を見ても今日初めて笑う。 「くそっ!何でだ!!コイツはアカデミーではトップではないだろう」 ヒステリックに叫ぶジョンにイザークが声を掛ける。 「は、アカデミーではトップですよ。ただ、同じトップにもうひとり居るだけで、彼女の実力は本物です。射撃も、3時間ずっとあの的の中心に当て続けられますよ。勿論、ナイフもトップです。そんな彼女がどうやって落ち零れるのでしょうか?」 イザークの言葉に、ジョンは項垂れた。 「はっはっは」と大きな笑い声が響く。 それはの祖父の笑い声で、 「益々気に入った!」 と言って彼は自身の膝をポンッと叩いた。 そんな反応にイザークはを見下ろし、もイザークを見上げていた。 よく分からないけど、お互い噴出して笑う。何だか、すっきりした。 |
桜風
08.1.1
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