Like a fairy tale 12





が風呂に行ったすぐ後、イザークはの父に誘われて彼の書斎へと向かう。

「どうだね、イザーク君も」

そう言いながら棚からウィスキーを取り出し、イザークに向かって小さく掲げた。

逡巡の後、

「少し、いただきます」

と答えたイザークにの父は益々気を良くした。



「今日は本当にすまなかったな」

そう言われてイザークは首を振る。

「先ほど、申し上げたとおりですから」

イザークの言葉に彼は目を細めた。

「私はね、がザフトに入りたくないといえば、そうさせていたよ。まあ、アレだけ射撃や体術を仕込んでおいてこんなことを言うのもおかしなことだがね」

彼の言葉にイザークは少しだけ驚く。

の家系は代々軍事家系で、だから、軍に入るのが当たり前だと、そんな感覚で居た。

イザークの考えを察したのか

も、まったくそう思い込んでいたようなのだがね」

は言う。

「君が、先ほど迎えに来てくれたときに私は君に先に謝ると言って謝ったね」

彼の言葉にイザークは頷く。

「あれはね、のことで謝ってはないよ。親戚連中のことでだ。今日見てもらったとおり、アレだからな。昔から父以外は腐ってた連中だった。
本当の昔はそれこそ実力で高官になっていただろうけど、最近の一族は家、寧ろ父の名前を傘に着て高官になった者や、金で地位を買った者もいる。もうは軍の中でのエリートではないのだよ。過去の先祖の栄光にしがみついた愚か者の集団だ」

呆れたように、哀しむようにそう呟く。

「あの、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「何だい?」

「今日、先代当主の口ぶりからは、現当主は当主にならなかったはずだった様子でした。だとしたら、きっとカイン殿が当主になられるのだったのでは?」

イザークの言葉に彼は「ははっ」と声を出して笑う。

「ああ、父にはそういわれた。けどね、にも、そして君にも悪いけど断ったんだ」

はともかく。私も、ですか?」

今、本家の連中に大きな顔をされて迷惑を被っているのはだ。イザーク自身はそうでもない。

「そうだ。君を理由に断ったのだから」

彼の言葉にイザークはさらに驚く。

「どういう意味でしょう?」

「あの子が生まれて、すぐに遺伝子の対となる人物を探した。妻がそう望んだからね。そして、すぐに見つかった。同じ年の子供だ。ジュール、という貴族の子で長男だ。貴族は大抵長男が家督を継ぐだろう?」

イザークは頷く。

「だから、それを理由に断った。父が隠居をすると決めたときにすぐに私に話が来た。
けど、の対となる遺伝子はジュール家の長男のもので、将来は彼との婚約を考えている。もう私の世代で子供を2人は望めないし、ジュール家にだってきっとそれは言える。だから、この話は受けられない、とね。
すまないね、会ったことのない君をダシにして断ったのだよ。本当は、自分の我侭のためにね」

「ご自身の、我侭ですか?」

「そう。家を継ぐということは、すぐに軍を辞めなければならない。流石に、あの一族のために軍は辞めたくなかった。本当にただそれだけだったんだ。だから、は親の、私の我侭のせいで要らない苦労をしている最中なのだよ」

カラン、とイザークのグラスの中の氷が崩れて音が鳴る。

それに気付いたはイザークのグラスにもう1杯注いだ。



「もうひとつ、質問ついでに伺っても?」

イザークの言葉に彼は頷く。

「私の友人がの親戚から聞いたと話したのですが。先日、先ほどのジョン殿が帰ってこられたときにパーティが行われた、と」

「あの家族は派手好きだからね。何かあればすぐにパーティだ」

の言葉に頷き、イザークは続ける。

「その時、が軽んじられ、反論しようとしたところをカイン殿に止められた、と。そして『申し訳ない』と謝られたと伺いました」

イザークの言葉には目を細める。記憶を辿っているようだ。

「ああ、言ったな」

「何故、でしょう?失礼ですが、は今日見せ付けたとおり彼より明らかに実力があります。それはカイン殿もご存知だと思いますが」

「知っているよ。けどね、あの子には無理だったから。だから、一番てっとり早くその場が収まる方法を取っただけだ。勿論、それであの子が傷付くのはわかっていたけどね」

イザークの眉間に皺が寄る。

「納得いかないといった表情だね」

「はい。恐らく、あの出来事が益々が本家の彼らに対して萎縮する原因になっているのではありませんか」

「しかし、あの場で反論させたとしよう。誰が信じる?彼らはの言葉をまともに受ける気はないし、勝負を持ちかけてもきっと笑って却下だ。あの子は対抗する術を全て失うんだ。
それは、きっとザフトに入ってからもあの子の心に染みたままで彼が目の前に立ちふさがれば戦わずに逃げてしまう」

イザークの眉間の皺は取れない。カインは苦笑をもらす。いやはや、自分の娘は本当に愛されているものだ。

「だから、君を招待した。イザーク君は正義感が強い性格のようだったからね。そして、父に話をしにいった。病床についているんだ、あの人はああ見えて。だけど、のことはずっと心配しているから無理を押して出て来てくださった。
やっと本家の七光りのガキと勝負が出来る場が整った。そして、は大差をつけて勝った」

ここでも自分は十二分に利用されていたらしい。

イザークの表情を見て「つまりは、そういうことだったのだよ」とカインはイタズラっぽく笑いながら言った。








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桜風
08.1.1


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