| ギシ、とカインは椅子の背に体重を掛けて深く座る。 「私はあの子に戦闘術しか教えられなかった。だから、色々苦労しているところはあると思う。しかしね、何処に出しても恥ずかしくないとも思っている。確かに、母親が居ない事で足りない部分もあると思う。 だが、礼節はしっかり叩き込んでいる。礼儀を弁えることができる人間に、何か恥ずかしいことはあるかい?」 イザークは静かに首を振る。 カインはそれを見て満足そうに微笑んだ。 「親馬鹿だろう?」 カインの言葉にイザークは目を丸くし、やがて微笑む。 「愛されている証拠です」 イザークの言葉に、カインは満足そうに微笑んだ。 それからアカデミーの話をしていると書斎のドアがノックされる。 「どうした、」 父の返事があり、ドアを開ける。 「ゲストルームのベッド、整えたから。あと、お父様におやすみなさいを言いに」 そう言うがとても意外でイザークはきょとんとした。 が、 「俺には言ってくれないのか?」 とからかってみる。 は一瞬面食らったような表情を見せたが 「オヤスミナサイ!」 と全く感情を込めてない言葉を返してくる。 「」と父が窘めるがはプイ、とそっぽを向く。 イザークは苦笑を漏らした。 「では。申し訳ありませんが、私も休ませていただきます」 そう言って立ち上がる。 「ああ、すまないね。つまらない話に付き合ってもらって」 とカインは言葉を返した。 イザークは一礼をして書斎を後にする。 「お父様と何を話していたの?」 イザークをゲストルームに案内しながらが聞く。 案内と言っても書斎の隣の隣がゲストルームとして使っている部屋だ。 「まあ、色々とな」 自分とは出会う前から婚約が決まっていたらしい。この家の中だけでの話らしいが。 そう思うとなんだか感慨深い。 少し思い出してイザークが笑うとは口を尖らせて拗ねる。 その表情を見てまたしてもイザークは苦笑をする。 「まあ、がどれだけカイン殿に愛されているかが分かったよ」 イザークの言葉には首を傾げた。 「まあ、そう言う感じの話をしたってことだ。改めて思ったけど、カイン殿は素晴らしい方だな。人としても父親としても」 イザークがそう纏めるとは瞳を輝かせて頷く。 「私ね、小さい頃お父様に高らかに宣言したことがあるんだって」 興味を示したイザークが続きを促すと 「私、小さい頃はお父様と結婚すると言って聞かなかったんだって。それで、お父様にはお母様以外とは結婚できないって断られたの。だから、私はお父様みたいな人としか結婚しないって宣言したらしいの」 「ほう?」とイザークが反応する。 は優しい表情を浮かべて昔を思い出しているようだ。 「でね、この先結婚するときも自分で決めるってお父様に宣言したみたい。お父様みたいに優しくて、強い人が良いって。もの凄く小さかったのに」 「それは、申し訳ないな」 イザークのその言葉には驚いて顔を上げた。 別に怒った風でもない口調だが、何だか気になった。 「勝手に親に婚約者だと決められて、さぞかし落胆しだだろう」 からかうような口調でそう言われた。 は何かを言おうとして口を開いたが、それよりも先にイザークが次の言葉を重ねる。 「まあ、一応。カイン殿のようになれるように心掛けてはみるから、少し我慢してくれ。しかし、ライバルがカイン殿か...これは強敵だな」 楽しそうにそう言ってドアノブに手を掛ける。 「じゃあ、な。おやすみ」 の頬に唇を寄せた。 は目を見開いて固まったままそれを受け止める。 顔が離れたイザークはの表情を見て本日何回目かの苦笑をもらしてもう一度「おやすみ」と声を掛てドアを閉めた。 ばたりと閉まったドアの前では立ち尽くし、やがてぷぅ、と頬を膨らませた。 そういう意味ではない。そうではないのだ。 はドアの睨みながら小さく呟く。 「ばか...」 |
桜風
08.1.1
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