Like a fairy tale 29





プラントに上がったアスランが議長と面会できたのは、その戦闘のあとだった。

議長室でプラントが再び核の危機にさらされたことを知ってアスランは驚きを隠せない。

プラントではその戦闘の模様がニュースとなり、市民もまた、意見が二分される。

戦争を回避すべきだという声と、報復をと叫ぶ声。

その声がぶつかり、プラント市民の間でも暴動がおき始めていた。

アスランが議長に今後のプラントの姿勢を問う。

議長はアスランのまっすぐ見つめる視線から顔を逸らし、唸る。

このままプラントが報復行為に出れば、世界はまた泥沼の戦争状態に陥る。

だが、事態を隠すことはもう不可能で、知れば市民は許せないと叫ぶだろう。そして、その流れをどうして止められるのか。既に核を撃たれてしまったこの状況で、どうやって止めればいいのか。

議長の言葉にアスランは目を伏せる。

だが、怒りと憎しみだけで撃ち合うだけでは、世界はまたあの得るものの何もない戦うばかりのものになってしまう。

だから、それだけは。報復行為に出ることだけは、思い留まってほしいとアスランが訴える。

「...アレックス君」

議長が彼の名前を呼ぶ。

「オレは、オレはアスラン・ザラです!」

アスランの言葉に議長が少し驚いたように顔を上げた。

彼の言葉を聞きながら議長の口角が微かに上がる。

アスランは自分を責める言葉を並べて、感情を昂ぶらせていた。

「もう、絶対に繰り返してはいけないんだ。あんな...!」

「アスラン!」

議長がアスランを止める。

名前を呼ばれてアスランは正気を取り戻したようだ。

「ユニウスセブンの犯人のことは聞いている。シンと、からね。君もまた、つらい目に遭ってしまったな」

労うような視線をアスランに向けてそう言った。

思いがあっても、結果として間違ってしまった人はたくさん居る。その発せられた言葉がそれを聞く人にそのまま届くとも限らない。受け取る側もまた、自分なりに勝手に受け取るものだ。

今回のユニウスセブンの犯人たちは、行き場のない自分たちの思いを都合よくアスランの父親であるパトリック・ザラの言葉を利用しただけた。

だから、アスランもそんなものに振り回されてはいけない、とそう諭す。アスランは、アスランだと。

今、こうして再び起きかねない戦渦を心配してプラントに上がってきた人物が、アスラン・ザラだ。独りで背負い込むのは、やめなさい、と。

「だが、嬉しいことだよ、アスラン。こうして、君が来てくれたというのがね」

まっすぐにそう瞳を向けられてアスランは返答に困った。

「ひとりひとりのそういう気持ちが、必ずや世界を救う。夢想家と思われるかもしれないが、私はそう信じているよ」

微笑むデュランダルにアスランは頷いた。

「だから、そのためにも。我々は踏みこたえなければな」

そう言ってモニタに目を移した。

そこにはラクス・クラインが映りだされた。


ラクスは訴える。気持ちを鎮めるように。

プラントが再び核の危機に直面したことに対して憤る気持ちは自分も同じだ。

が、怒りに駆られ、思いを叫べばそれはまた新たなる戦争の火種となる。最悪の事態を避けるべく評議会が今も懸命な努力を続けている。だから、評議会を、議長を信じてほしい。

彼女はそう訴えていた。

市民たちはこの演説を聞いて少しずつ沈静化していった。

ラクス・クラインがそう言うなら、と。


モニタに映りだされた彼女がラクス・クラインではないことはアスランには分かった。

議長もそれを認める。

が、ラクスの力はそれほど大きなもので、彼は必要としていた。

アスランと、同じくらいに。




議長についてくるようにといわれて辿り着いたのはMSの開発ドックで、見せられた機体にアスランは声を漏らす。

カオス、アビス、ガイアとほぼ同時期に開発された機体だと議長が説明した。

そして、この機体をアスランに託したい、と言ったらどうするか挑発的にいう。

「どういうことですか。また、私にザフトにもどれと...?」

剣を孕んだその言葉に

「んー、そういうことではないが。ただ、言葉のとおりだよ。“君に、託したい”」

と議長は応えた。

「まあ、手続き上の立場では、そういうことになるのかもしれないが。今度のことに対する私の思いは先ほど私のラクス・クラインが言っていたとおりだ」

議長が続ける。

色々な思惑が絡み合う中では願うとおりに事が運ぶとは限らない。だから、思いを同じくする人には、共にたってもらいたいと思っている、と。

出来ることなら戦争は避けたい。だからと言って銃も取らずに一方的に滅ぼされるわけにもいかない。そんなときのために、アスランにも力のある存在で居てもらいたいのだ。

「君も知ってのとおり、だってプラントを守りたくて復隊した。彼女の父親のことは知っているだろう?」

アスランは頷く。

彼女の父親もまた、ナチュラルを憎み、滅ぼそうとして、更にプラントすら破壊しようとしていた。

「彼女もまた、“”として出来ることをするために、ザフトに戻ってきてくれたのだよ」

アスランは俯く。

確かに、は守りたいものがあるからザフトに居るといっていた。

「我らが誤った道に向かっているとしたら、君がそれを正してくれ。のノルンも、そのためのものだ。そうするのにも、力は必要だからね。残念ながら」

アスランに出来ること、アスランが望むこと。

それはアスラン自身が知っていることだ。

急な話だから心を決めることを急かすつもりはない。

そう言って議長はその場を去っていく。

残されたアスランはもう一度、自分に託したいと言われた機体、セイバーを見上げた。









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桜風
09.2.2


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