Like a fairy tale 35





「レイ機、ルナマリア機収容完了。インパルス、ノルン帰投しました」

ブリッジでメイリンが報告をする。

「もうこれ以上の追撃はないと考えたいところだけど...わからないわね。パイロットはとにかく休ませて」

艦長がそう指示を出し、メイリンがそれを伝える。

「でも、こうして切り抜けられたのは。間違いなく、とシンのお陰ね」

艦長の言葉に副長が振り返って興奮気味に同意した。

彼女たちの功績は副長も聞いたことはない。

「あの地球軍の新型のMAに対してのの動きも、噂に名高い“シルバーレイ”のその姿を見た気がしましたよ。さすが、プラントを救った英雄ですね」

尚も興奮気味に言葉を重ねる副長に艦長は頷いた。

本当に、この大気圏内で信じられない動きを見せてくれた。

「2人とも、勲章ものですよ!」

「でも、アレがインパルス、というか。あの子の力なのね」

艦長が口を開いた。

なぜレイではなく、シンにあの機体が預けられたのかずっと、ちょっと不思議だったと続ける。まさか、デュランダル議長がここまで分かっていたのかとも言った。

副長はその言葉に同意して「噂に聞くヤキンデューエのフリーダムだって、ここまでじゃないでしょう」ともはや興奮冷めやらぬ状態だ。

カーペンタリアに着いたら叙勲の申請を行うと艦長が言った。軍本部も驚くことだろうが、と。



インパルスに抱えられて帰投したノルンは満身創痍だ。父と戦ったときに比べればまあ、まだましかもしれないが、またいつ戦闘が展開されるかがわからないこの状況でノルンのこんな状態に不安すら覚える。

やはり、大気圏内であんな動きは機体にも負担が大きかったのだ。エンジンの出力が大きくなったから何とかできた芸当だと今更ながらに反省をする。


ハンガーにノルンを収容した。

コックピットを開けたらメカニックたちがノルンの足元に群がって手を振っていた。

降りてきたに色々と言葉を掛ける。

だが、掛けられたは何だか気分が優れない。振り返ってノルンを見上げた。

「ごめんね」と心の中で呟き、声を掛けてくるクルーに適当に言葉を返してはドックを後にした。

あまり反応を示さないに対して笑顔で応じているシンのほうに皆は集まっていく。

ドックを出るところでメカニックのチーフを呼び止めた。

「何です?」

「ノルンの整備、お願いします。整備が終わり次第ご連絡いただけますか。調整をしておきたいので」

の言葉にチーフは「わかりました。任せてください」と頷いた。


は着替えて自室に戻る。

シャワーを浴びてそのままベッドにダイブした。

しかし、どうにも眠れない。

「何で...?」

さっきからずっと落ち着かなかった。

心が落ち着かない。だから、眠れない。

今までこんなことはなかった。

どれほど激しい戦闘の後でも普通に睡眠をとることができていた。

それなのに、なぜだ?

以前の戦争の時だってこれくらいの戦闘はあったはずだ。ここまで追い詰められたことはなかった気もするが。

何故...?どうして?

それが頭の中で繰り返されていた。

そして、気がついた。

信じられる人物が、頼れる存在が傍にいない。

先の大戦のときはイザークが傍にいた。

ヴェサリウスが墜ちてからは隊が別だったが、それでも近い距離に居た。

それ以前は同じクルーゼ隊で。同期の仲間が居なくなっていく中でもイザークはずっとの隣で不機嫌な表情を浮かべながら、心配しながらも許してくれていた。

守っているつもりだったのに、守られていたんだ。

気づいてしまった。気づいたらもう遅い。

以前の自分ではいられない。



は着替えてドックに向かった。

「おい、まだ整備しきれていないぞ」

メカニックに声を掛けられた。

「どこまで出来ていますか?」

の問いにメカニックの一人が答えた。

「じゃあ、それの調整だけをしておきます。他の部分が出来たら教えてください」

ノルンのコックピットに収まった。

ハッチを閉める。

先ほどの戦闘のデータをまとめてノルンのOSに組み込んでく。




カーペンタリアへの進路をとって2日が過ぎた。

本来のミネルバならもっと早く着くことはできるが、艦の損害が大きく、思ったようにスピードが出ない。

そんな中、艦長は食堂で信じられないことを聞いた。

まず聞いたのが、食堂のクルーの話。

あの戦闘以降の姿を見ていない、と。以前強奪された機体を追ってこの艦が戦闘に出ていたときも1日来ないときがあったが、夕飯だけは摂っていたようで空のトレイが置いてあったから1食はまともに食べたということもありそのときは報告しなかったらしい。

そして、もうひとつの噂はメカニックによるものだが、がノルンから殆ど出てこないということだった。

メカニックも交代制だから、もしかしたら自分の居ないときに部屋に帰って休んでいるのかもしれないとそれぞれが思っていたが、話を合わせてみるとはどうやらずっとノルンの調整にかかりっきりになっていたようだ。

それに誰も気づかず、気づいてもあのシルバーレイだからと言って何も言わないでいるという。

その話を聞いて、少し彼女と話したほうが良いと思い艦長はを呼び出すことにした。

艦長室に呼び出されたの表情にグラディスは驚く。

今まで彼女が見せていたその表情とは違うものだった。

細かいところは分からない、ただ雰囲気が変わっていた。

今までの彼女には歴戦の兵士という雰囲気は皆無だった。今はその纏っている空気はそんなぬるいものではない。

、その。何かあったのかしら?」

聞かずにはいられなかった。

けれど、彼女の応えは

「別に。これと言って特に何もありませんが...?」

その一言だけだった。

「食事は、摂っているの?食堂のクルーに聞いたら、姿を見ていないって」

「ああ、食堂には言ってませんが、栄養は摂取しています。ちゃんと、出撃できますよ」

そんなことを気にして言ったわけではない。

だが、それ以上は話が出来なかった。

「お話が以上でしたらノルンの調整に戻りたいと思っておりますので」

と言ったため、「もうひとつ」と言ってをとどめる。

「先日の地球軍艦隊との戦闘のことで、叙勲の申請を行おうと思うの。シンと、あなたの」

グラディスの言葉には一瞬眉をひそめた。

「それは、受けなければなりませんか?」

の言葉に彼女が驚く。

「勲章を、という話なのよ」

「勲章に興味はないんです。自分の出来ることをただするだけです。勲章がほしくて、軍に居るわけではありませんので。けど、大抵の軍人はそれが欲しいのでしょ?シンは、喜ぶと思いますよ」

そう言い終わっては艦長室を後にした。

残されたグラディスは呆然とが出て行ったドアを眺めていた。









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桜風
09.2.16


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