Like a fairy tale 36





カーペンタリアに着いた。

宿舎へと入る。

さん」と事務官に呼び止められ、振り返るとが以前の戦争時に話をしたことのある事務官だ。

彼女は凄く懐かしそうにに話しかける。

「何、かしら?」

の声音と雰囲気に彼女は驚いた。

以前は全く軍人らしからぬ振る舞いをしていて一緒に居た婚約者にしょっちゅう怒られていた。

それは意外とカーペンタリアでも有名な光景だった。でも、今の彼女は軍人そのものの厳格な雰囲気を纏っている。

「あの、お手紙が届いています」

そう言って差し出されたそれらをは「ありがとう」と義務的に言って手に取った。


宿舎で宛がわれた部屋に入り、パサリと手紙をデスクの上に投げた。

どうせ議長から送られてきた娘の成長記録という名の脅しだ。

検閲に通されている手紙が2通と、1通だけ検閲に通されていないものがある。

隊長格以上の出す手紙には検閲がされない。きっとそれが議長からの手紙だと思った。

しかし、そうではなく差出人の名前を見ては自然と笑みが零れた。

ゆっくりと丁寧にその封を開けた。

あて先は、最初は『アーモリーワン』だったようだ。確かに、はミネルバに配属されているのだからアーモリーワンに送れば届くもののはずだった。

けど、もろもろの事情で届かなかったようで一度イザークの元に戻ったのだろう。

そして、その『アーモリーワン』をボールペンで適当に訂正線を引き、『カーペンタリア基地』と殴り書きしてあった。

中には指輪と1枚の手紙と書類の写しが入っていた。

折りたたんである手紙を広げると、マジックか何かで書いたらしい。太い字で

『持っていろ、馬鹿!』

と書いてある。

同封されていた指輪はが家出をする際に置いていった結婚指輪だ。

持っていたら未練になると思って、置いてきた。

家の者には持っていくように説得されたが、『離縁状を叩きつけられたときに未練になるといけないから』と言っていたのを彼女たちがイザークに説明をしたのかもしれない。

そして、書類の写しを見ては思わずそれを抱きしめた。慌てて皺になったその紙を伸ばす。

それは結婚誓約書の写しだった。

のサインのところにイザークの字で『此処にサインしたのは誰だか忘れたのか、馬鹿!』と赤い字で書いてあった。

は指輪を自分の指にはめた。

「やば...」

どうやらやせたらしい。指輪が少々大きく感じる。

だが、抜けるほどではない。

「これ以上痩せなきゃ良いのよね」

自分に言い聞かせるようにしては呟いた。

残りの手紙を開ける。

ひとつはニコルからだ。

「地球に降下したと聞きましたから」と添えてあり、ディスクが入っていた。彼がのために弾いてくれたピアノの演奏だ。

手紙には娘のノルンの近況も書いてあった。

ニコルはが妊娠したときからよく遊びに来てくれていた。クラシック音楽は胎教にいいという話を耳にしたといって、時間を見つけては生演奏を聞かせてくれていたのだ。

本来なら埃に塗れているであろうジュール家のピアノは、ニコルのために調律と整備が必ずしてある状態になっていた。

何故かラスティもよく遊びに来てくれていたことを思い出す。「今、イザークいないよな?」と言いながら。

もう1通は、昔自分の部隊に居たパイロットからだ。

何でもの復隊の噂を聞いたから、という挨拶文だった。懐かしく思う。

全然面倒を見られなかった自分の隊に所属していた部下からの手紙というのは、何だか居心地が悪い気もするが、それでもは思わず笑っていた。

「...イザークってば凄いな」

気持ちが軽くなったことを実感した。このタイミングで届いた手紙に感謝する。返事は書かない。検閲されるのは嫌だから。それは、イザークもきっと分かってくれる。

自分の考えに思わず苦笑した。

ああ、本当に彼に甘えているな...

は射撃演習場へと向かった。とりあえず、ストレス発散するにはこれが一番だ。




数日後、見知らぬ機体がミネルバに着艦した。

しかし、はそんな事を知らずに、訓練規定に沿ったカリキュラムをこなしていたところだった。

MSのシュミレーションだ。

「もっと負荷を掛けたほうが良いかな...」

は呟き設定を変えることにした。









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桜風
09.2.23


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