Like a fairy tale 37





ミネルバに着艦した見知らぬ機体は復隊したアスランのものだった。

艦長の所在を聞かれてルナマリアが案内すると申し出てアスランはそれをお願いすることにした。

パイロットスーツから赤い制服に着替えてエレベータに乗る。

そこでミネルバがいつオーブを後にしたのかということを聞いた。

彼はミネルバの出航を知らなかったため、オーブに行き、スクランブルを掛けられたという。

ルナマリアはオーブ脱出の際の経緯を話した。

とシンの活躍を含めて。

そして、カガリが誰かと結婚したと話したときには、アスランが鞄を落とした。それほど、彼にとっては衝撃的な出来事だったようだ。

しかし、それは不確かな情報であり、式の途中だか後だかで彼女はさらわれて行方不明になっているとフォローを入れたら余計にアスランが驚いた。


艦長室で書類と彼女へのFAITHの勲章を渡す。

受け取った書類を見ながら彼女は議長の真意とアスランの真意はどうなっているのだか、という。

そして、受け取った書類の内容を知っているのかとアスランに問う。

アスランはそれを預かっただけで、内容までは知らないという。

グラディスが読み上げる。

「ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルに向かい、現在スエズ攻略を行っている駐留軍を支援せよ」

それに驚いたのは副長だった。

今度の作戦の地は、今とてもデリケートな場所だ。手を出しづらく、何よりプラントは積極的自衛権の行使をしているのであって、領土的野心があるわけではないという姿勢で居る。そんなときに、行かなければならないというものだ。

しかも、“FAITH”が2人居るこの艦が。


艦長室を後にしようとしたところで、グラディスに止められた。

「何でしょう?」

、の事なのだけど」

アスランは分からない、と言った表情で頷いた。

「彼女、どういうパイロットだったのかしら」

益々分からない。

「申し訳ありません。『どういう』とは...?」

アスランが聞いてみた。

「オーブから脱出する際に彼女が活躍してくれたことは、知っているかしら?」

「先ほど、ルナマリアから軽く聞きました。とシンのお陰で、脱出できたようなものだ、と」

グラディスは頷く。

またあの光景を思い出したのかアーサーが興奮気味に話し始めたが、それは艦長に止められた。

「それで、叙勲の申請を行うと話したの。でもね、」

「それは当然ですよ!あんな凄い活躍をしたんですから!」

副長の興奮っぷりにアスランは少し怯みながらもグラディスの言葉を待つ。

「彼女、要らないというのよ」

「はあ!?」

やはりアーサーのリアクションは大きい。

「な、何でですか!!??」

「知らないわよ。要らないから、申請はしないでくれって。ただ、シンは欲しいだろうかシンのは申請してみてはどうですか、なんて言ったのよ」

今までそんな人を知らない。周囲の兵士たちはの言ったとおりに勲章を欲しがる。勲章はその働きに対しての名誉だ。その働きの価値を示すものだ。

「そう、ですか。元々、そういうのにはあまり興味がない性格だとは思います。ただ、断ったというのには、私も驚きました。けど、もしかしたら、彼女の父親の事があるのかもしれません」

「教えてもらえるかしら?」

「私も彼女から直接聞いたわけではないのですが」と断って話し出す。

の父、カイン・はザフトの英雄だった。そして、その功績を称えてたくさんの勲章を戴いていたという。

だが、勲章が多ければ多いほど、その責務や周囲からの期待と重圧。それらが比例して大きくなった。

彼は、ザフトに繋がれていたという感じだった。

妻が瀕死の状態であり、家族が帰るように連絡を送っても、それが平気でもみ消される。

あの時は、確かに地球軍とのにらみ合いの真っ只中だった。

けれど、別の人物だったらあるいは帰れたかもしれなかった。

彼は、カイン・であるがために、妻の死を隠し通されて1年以上経って負傷してザフトの英雄として使えなくなったときに知ることになった。

「彼女の父親は、これをきっかけにブルーコスモスとプラントを同時に憎んだと聞いております。ですから、勲章はその父親の姿に結びついてしまうのではないでしょうか」

アスランの話を聞き終わった副長がぷはー、と息を吐いた。

何だか、息の詰まる話だ。

「なるほどね。まあ、勲章は無理に与えるものではないと思っているから、がそういうなら私も叙勲の申請はしないつもりでいるけど」

艦長がそう言った。

アスランもその方が良いと思った。望まない勲章はただの枷だ。

しかし、がそんな甘いことを言うとは思っていなかった。艦長は気づかれないように溜息を吐く。

軍人である以上、近しい人物の死に立ち会えないことはままある。それに、カイン・は当時は既に隊長だったはずだ。勿論、シルバーレイの名を冠していた。

そんな責任のある立場の人間がその場を放って家族に会いに行くなど、ありえるはずがない。

気を取り直してもうひとつアスランに聞く。

「それと、の事。もうひとつ良いかしら?」

「はい。私に分かるかどうか...」

は、昔から食事は摂らないの?」

「食事、ですか...?ノルンの調整中ということでしょうか?」

艦長は頷いた。

「ええ、まあ。忘れるみたいです。しょっちゅうイザークに..現在はボルテールを旗艦としているジュール隊長のことなのですが、彼に怒鳴られながら食堂に引きずられていっている姿を見ていましたから。寝る時間も物凄く削るみたいです。戦闘のあとは特に」

「いつも、そうだったの?」

「...私も、ずっと一緒に居たわけではありませんから何とも言えませんが。ノルンの調整を放っておくことも『それなりに』はあったみたいですね」

「放って、おく...?」

「ええ。小さな戦闘や、ノルンに損傷等がなかったらあまり触らない。いや、触らせないように監視していた人物が居ましたからね」

アスランは思わずその光景を思い出す。

艦の中でかくれんぼや鬼ごっこ状態になっていたとイザークの姿だ。

必死にノルンの元に行こうとするにそれを阻止するイザーク。

イザークの方が、一枚上手だったと思う。だから、彼は時々の無茶を見逃してやっていたようだ。

「また、そういう状態になったんですか?が、食事を摂らないとか、寝ないとか」

「この基地に入るまでそうだったの。心配してはいたのだけれど、彼女のペースがあるのだろうし、体調を崩すほどには至らないと思っていたのだけれど」

「崩すことはあり得ると思います。だから、イザークが目を光らせていたのでしょうし。ノルンに対するの思い入れは少し強すぎるという印象を受けることもしばしばありました。食事だけは、声を掛けた方が良いかと思います。私も、気に掛けるようにします」

「たすかるわ」と艦長に言われてアスランは艦長室を後にしようとした。

が、足を止めて振り返った。

「あ、あの。オーブの事、艦長は何かご存知でしょうか。自分は何も知らなかったものですから」

アスランが目を伏せてそういう。

グラディスの口から聞かされたことにアスランは目を見開く。

オーブ政府は隠したがっているようだが、代表を攫ったのは、フリーダムとアークエンジェルということらしい。

「何がどうなってるのかしら。こっちが聞きたいくらいだけれど」

苦笑しながらグラディスが言い、アスランが頭を下げて部屋を後にした。









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桜風
09.2.23


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