Like a fairy tale 43





あのインド洋沖での戦闘以外の出撃はなかった。

マハムール基地へと、入港する。

パイロットそれぞれが機体のメンテナンスのため、ドックに居た。

メカニックに調整してもらえないは他のパイロットよりも時間がかかるため、居残りをすることになる。

「何か手伝えることあるか」

コックピットのハッチを開けたまま調整をしているとアスランが顔を覗かせてきた。

「私以外の人にOS触られたらこの子、恥ずかしくてダウンしちゃうからねぇ。その気持ちだけで十分です」

そう言って笑いながらはキーボードをタイプしていた。

「戦闘のデータをまとめるのだろう。それはノルンでなくても出来るだろうからオレがやろう。これに移してくれ」

そう言って自分の持っているファイルを差し出してきた。

断ってもこのまま居座る気満々のアスランに苦笑してデータを移す。

「シンとは上手くいかないね」

の呟きにアスランは息を吐いた。

「昔から、オレがこういうのが苦手って知ってるだろう?イザークやディアッカにだって...」

何となくコンプレックスを感じている様子だ。

「イザークとディアッカの事に関しては、同意できないなぁ。だって、ちゃんと分かり合ってるでしょ?けど...シンは、どうもね。アスランもシンもお互い人に心を開かないから。って、私も中々本音を口にしませんから?誤解されやすいようですけどねぇ」

と言っては笑う。

くらい、気楽に考えられれば。もう少し上手くできそうな気がするよ」

「ちょっと、人を能天気みたいな表現しないでよね。失礼だな。こう見えても結構シリアスなんだからね、私の境遇は」

何せ、娘が人質に取られているのだから。しかも、最高評議会議長に。

その言葉を呑んでにこりと笑うに「まあ、人にはそれぞれあるだろうな」とアスランは返していた。

「じゃあ、あとでまとめたものを返すから」

「助かりまーす。ノルンの調整が終わったら声かけるわ。まとめ切れてなくても返してね」

「わかった」と返しながらアスランはノルンから離れていった。



入港が完了し、アスランがブリッジに呼び出される。

「アスラン。ブリッジに行く前にデータ、返して」

駆け寄ってきたに「もう終わったのか」と驚きつつも全く整理できなかったデータを渡す。

「すまないな、全く手がつけられなかった」

いいよ、と笑ってはノルンのコックピットへと戻っていった。



暫くしてノルンのコックピットに珍しい客人が来た。

「何、どうしたの?」

笑いながらが問う。

「この前、ってか。随分前だけど、オレのコックピット見せてあげたのにの見せてもらってないから...」

そう言ったのはシンだ。何だ居心地が悪いのか、視線をさまよわせている。

「いいけど、ノルンは私以外の人がOSを起動させようとしたらダウンしちゃうからね」

そう言った後、「ちょっと待って」と声を掛けてとりあえず今まとめたデータを保存した。

「良いよ、どうぞ。けど、インパルスとは全然違うよ。新型はシートも良いしね。いい加減、シートくらいは交換してもらおうかと考えてるの」

ノルンのコックピットから出てシンにそこを譲る。

「ホントだ。シート硬いや。けど、こんなのであんな動きって凄いよな、やっぱりは」

「機体の性能ではなくてパイロットの腕ですよ」と笑う。

シンがムッとむくれたので「うそうそ」と返して笑った。

「ノルンだからだよ。2年もMSに乗ってなくて。最初は感覚が取り戻せなくて苦労したわ。これでも、夜中にシュミレーションルームに入り浸りだったのよ。何せ、落とされるわけにはいかないからね」

「あいつ、さ」

「アスラン?」

の言葉にシンが渋々頷く。

「どういうやつだった...?」

「あのまま。変わってないよ。クルーゼ隊にいたときもまあ、色々と反発食らってたね。今のシンみたいに」

シンは俯く。自分でも上手く感情をコントロールできないだけなのかもしれない。

「まあ、あのときのメンバーはアカデミーが一緒だったし、私以外のメンバーは親の関係でみんな顔馴染みだった様だし、付き合いはそれなりに長かったみたい。お互い、実力は認め合ってたの。ただ、考え方が違うだけで。苦労してたわ、本当に」

懐かしむようにが目を細めた。

「どうせ、オレはヤキンの生き残りでもなんでもないですよ」

疎外感を感じたのか、シンが呟く。

「ヤキンに出てた人が全員実力があるとは限らないでしょ?生き残るには運も必要なんだから。けどね、アスランは本当に不器用だけど、きっとあなたの事を心配していると思う。アスランは、あの血のバレンタインでお母様を亡くされたそうよ。彼も肉親を戦争で失っているの」

シンが少しだけ顔を上げる。

「そして、それがきっかけでザフトに入ったんだって。だから、もしかしたら、ご家族を戦争で亡くして、それがきっかけでザフトに入ったシンの事を他人事のように思えないんじゃないかな。これは、飽くまで私の推測」

「オレが、可哀想って事?」

「違うよ。...シンは自分が可哀想だと思っているの?自分を哀れむのはやめなさい。あと、もう分かってるだろうけど。言わせてね。上官の命令は絶対よ、軍人ならね。上官が死ねといったら死なないといけないのが、その制服の意味よ。
そして、この先MSで地球軍の誰かを殺して、その戦いに巻き込まれて死ぬ人も出てくるわ。私たちは、誰かの家族を奪っているの。あなたはアスハに家族を殺されたと言っていたけど。いつかあなたに同じ事を言う人が出てくるかもしれないわね。『インパルスに、殺された』、て。戦争って、そういうものなのよ」

はそう言った。

「アンタも、言われるってことだぞ」

「そうよ。私は前の戦争のときもノルンに乗ってたから既に言われてるはずよ。前の戦争でたくさんの艦を落としたし、この間のオーブ近海でもね。知ってるわよ。知ってて、それを覚悟の上で引き金を引いているわ。
...昔、“英雄”と呼ばれた男が居たの。物凄く優秀だと思われていた軍人。彼は戦場に出る前の兵士にこう言ったわ。
『君たちが引き金を引くのは、自分の未来を守るためだけにしておくといい。兵士は人ではない。が、ただ私怨のために人を殺せばただの殺人者だ。地球軍、ナチュラルも我々と同じく命を持って生まれて来ているんだ。命は全て、平等だ』
兵士っていうのはそういうものなのよ。力の使い方を間違えたらただの殺戮者に過ぎない」

シンの機嫌は悪くなる。

「...アンタも、死ねるのかよ。アスランに死ねって言われたら」

「アスランは言わない。生きることがどれだけの価値があるものか知っているから。この先、彼の命令に無茶だと思うことが出てくると思う。けど、死なせるために命令するのではなく、どうすれば成功する可能性が高いかを考えてアスランは配置や陣形を考えると思うよ。これは、以前の戦争でも彼の部下をやった経験者の言葉よ。司令官として、ブランクがあるしまだ未熟かもしれないけど、彼も頑張っているのよ。あなたと同じくね。
あ、でも思ってることはちゃんと彼に言いなさい。彼、他人の考えていることを推測するのが苦手な節があるから。態度だけで読み取れないのね、きっと。戦闘のときはそういうのも出来るけど、それ以外だとからっきしみたい」

はその場で伸びをした。

「さ、代わって。続きをしたいから。あなたは部屋で休みなさい」

に促されてシンはコックピットから出てくる。

「今の話、アスランに言うなよ」

憮然と言うシンに

「じゃあ、私の言ったことも絶対に口にしてはダメよ?約束」

と言ってが小指を差し出す。

シンは首を傾げた。

「ああ、知らない?私も詳しくは知らないんだけど、約束をするときに小指を絡ませるんだって。昔の人は、それを約束の印にしてたんだって。民俗学オタクからそう聞いたの」

「んじゃ、はい」

少し照れながらシンが小指を絡ませる。

「良いわね」

「分かってるよ」

2人の絡ませた指が離れていく。

「アンタも。ほどほどにしとけよ」

は笑顔で手を振ってノルンの中へと入っていった。









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桜風
09.3.9


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