Like a fairy tale 58





ハイネから預かった手紙のうち、イザーク宛ての物を出すために軍本部へと寄った。

確かに、他の者ならともかく、からの手紙は議長の指示により厳しく目を光らせているだろう。

ハイネの名前でそれを出してミゲルは本部を後にした。


約束があり、向かったのはそこそこ流行っているバーだ。

待ち人がやってきた。

既に没落されたと目されている“”。その一族で自分の同期だ。

大して仲が良いわけではない。どちらかといえば、気が合わないし、好きにはなれないタイプだった。

それでも、今ではしばしば連絡を取っている。

「お前、いつも遅刻だな」

「うるさい。こ見えて忙しいんだ」

そう言った彼に封筒を渡す。

「何だ?」

「ホーキンス隊長に渡してくれ。からだと」

そう応えたミゲルに彼は厳しい視線を向ける。

「誰からだ」

「ハイネ・ヴェステンフルス。知ってるだろう?あんたの親戚と同期だ」

彼は頷いてその封筒をジャケットの内ポケットに仕舞う。

「明日、会うだろう。ホーキンスには」

「直接渡すと万が一目撃されたときに色々面倒だろ。あんたたち一族がの事を嫌っているのはお陰様で有名だから助かってるけどな」

彼は鼻を鳴らして席を立つ。

「今でもあいつは大嫌いだ。英雄と謳われてのうのうとザフトにいてその力を利用されているのが腹立たしい。が、それ以上にあの狸ジジイが腹立たしいだけだ」

「それでいいよ。今更大好きとかお前らが言ってきたらあいつ本気で逃げるぞ、『気持ち悪い〜!』って」

笑いながら返したミゲルに彼は何も返さずそのまま去っていった。

ミゲルはグラスを傾けた。カラン、と氷がグラスを鳴らす。

「“FAITH”が帰ってきた、か」

とりあえず、明日会う予定のホーキンスに相談しなければ。

がイザークに手紙を書いていたことも気になる。もしかして、イザークに伝える気になったのだろうか。何故、自分が復隊したか。

「や、言わないな。うん...」

ひとり呟いてその店を後にした。




「ジュール隊長」

事務官に呼ばれて足を止めた。

振り返ると彼女が何かを持って近づいてくる。

「お手紙が来ています」と言いながら渡されたそれの差出人を見た。

“ハイネ・ヴェステンフルス”。聞いたことがあるが知らない...

だが、宛名のこの字は知っている。しかし、だったら何故差出人の名前が違うのだ?

「ハイネさんとお知り合いだったんですか?」

「いや、記憶にないが...知っているのか?」

「はい。私、以前はホーキンス隊にいたんです。そのとき、ご一緒しましたので。今はFAITHです」

“ホーキンス隊”という響きを懐かしく思った。以前の大戦では自分は部下の面倒を見切れなくて、結局見ていられないとホーキンス隊長が自分との部下を引き取ってくれ、更には色々と尽力をしてもらった。

そういえば、彼の副官がその名前だった気がする。

そして、彼がFAITHというなら何となくが彼に手紙を出すのを頼んだ理由が分かる。検閲をされる可能性がとても低い。

しかし、イザークは首をかしげながら自室に戻り、その封を開けた。

どういった経緯で彼にこれを頼むことが出来たのだろう?

中から出てきたのは、どこかの風景の絵葉書だった。

そしてその葉書には一言だけ書いてあった。

『見上げれば見上げるほど、空が遠く感じます』

イザークは深く息を吐く。

「駄目で元々、か」

呟いてドックへと向かった。




はハッチを閉めてノルンのコックピットの中にいた。

独りになりたいと思ったから。がノルンに篭ることは珍しいことではないから殆どの者が不審がって声を掛けるということがない。

今のミネルバのパイロットはしか居ない。

アスランは独自にアークエンジェルの動向を探りに行っているし、レイとシンは別の探索任務が与えられた。そして、ルナマリアも任務のために、出ているという。

色々と丁度良いと思っていた。

突然、ノルンの通信回路からノイズが聞こえ始める。

どうしたのだろう。先日の戦闘で自分の気づかないうちに損傷でもしていたのだろうか?

そう思って手を伸ばすとノイズに混じって声が聞こえた。

「聞こ....る、...!..。...しろ」

は慌ててチャンネルをあわせようと計器を調整してみる。

「イザーク!」

「ノイズが酷いな。映像もさすがに無理か。まあ、仕方ない。通信が出来るだけでもありがたいと思わないとな」

諦めたようなその声。けど、そんななんでもないイザークの呟きを耳にしただけでは涙が溢れた。

「どうした、手紙なんて。しかも、何故ハイネに?」

中々返事のない相手に「?」と名前を呼んで何か返すように促す。

だが、スピーカーから聞こえてくるのは鼻をすすっている音だった。

「何かあったのか」

「何も、ない」

イザークは盛大な溜息を吐いた。

「何もないのに泣くのか、は」

呆れたように言うイザークの声は優しくて。は乱暴に目をこすった。

「泣いてない」

のその言葉にイザークは苦笑した。

「それなら、助かる。今の俺はの涙を掬ってやれないからな。手の届かないところでが泣いていたらもどかしい」

言葉を区切ってもう一度イザークはに問う。「どうした?」と。

「私、偉そうなことを言ってたけど。結局ダメだった...」

暫く待った末にが発した言葉がそれだった。

「ダメって何がダメだったんだ?戦果はこっちまで届いているぞ。さすがシルバーレイとまた盛り上がっている。褒章ものだ。まあ、それも断ったらしいがな。最近まではその噂でも持ちきりだった」

その言葉を聞いてはまたしても黙り込む。

イザークは内心困ったな、と思いつつも言葉を捜していた。

「たくさん、殺したの」

が呟く。

その一言でが何を『ダメ』と言ったのか分かった。

「ダメじゃないだろう?、お前は何故その制服を着ている?」

の返答はない。イザークは構わずに続けた。

「守るためだろう?それがあって、その上でなるべく敵をも殺さない。そう思って戦っていたんじゃないか」

返事がない。

けど、きっと頷いた。

イザークは続ける。

「地球軍のパイロットたちだって、覚悟は出来ている。していないやつがいたとしたら、それはそいつが悪いってことだ。戦場に出るということは、そういうことじゃないのか。それは、俺が言うまでもないだろう?」

ん、とが頷いた。

は、何故その軍服をまた着ようと思った?」

「守りたいものがあるから。私にしか出来ないことがあるから」

「それを忘れて、ノルンに乗っていたのか?」

「忘れてない」

はっきりと返したにイザークは安心した。

戦場での迷いは、死を招く。

「なら、ダメじゃない。そうだろう?間違うな。は地球軍も殺さずに何かを守ろうなんて思ったことはないはずだ。殺さないに越したことはない。が、自分の描いた未来を守るためにはノルンに乗っている。その描いている未来にはちゃんとお前がいるんだろう?」

「うん」と今度ははっきりと返事がある。

「顔を上げろ。迷うな。何が敵になっても、俺はの味方だ。忘れるな」

震えた声で「うん」とまた声が返る。

「が、帰ってきたとき説教はさせてもらうからな。覚悟しろよ」

イザークがからかうように言うと

「じゃあ、ほとぼりが冷めるまで実家に帰らせていただきます」

が返す。

冗談が返せる。もう大丈夫だ。

「こっちのログは俺が何とかしておく。そっちは、ノルンのブラックボックスを開かない限り誰にも知られないだろう?だから、墜ちるなよ」

「大丈夫。もう、大丈夫だから。ありがとう、イザーク」

「...俺も、よく地球を見るようになった。本当に遠いな。時々、地球に降りてを攫いに行きたくなるよ」

イザークの言葉には一瞬絶句し、笑う。

「じゃあ、そんな好き勝手するにはFAITHくらいにならないとね。待ってるから」

「気軽に言ってくれるな」

2人は噴出し、笑いあう。

「愛している」というイザークに「私も」とがはっきりと返した。

「必ず、元気な姿で空に戻るから」

「待っている。必ず...」

2人は通信を切った。


は顔を上げる。

迷うな、恐れるな。今更だ。

初めてザフトへの道を決めたときから自分の胸に抱いているものは変わっていない。守りたいものは増えたが、向かう先には何ひとつ失いたくないものがある。

艦内アナウンスでミネルバの発進が伝えられる。

はコックピットを後にしてパイロットスーツに着替えるためにドックを駆けて行った。









Next


桜風
09.4.13


ブラウザを閉じてお戻りください