Like a fairy tale 67





シンは重い足取りでドックへと向かった。

メカニックたちは遠慮してか、シンに声を掛けてこない。

それはもの凄く助かる。

此処へ来るのに意外と時間がかかった。

レストルームで温かいドリンクを購入したが、それはすでに冷たくなっている。

ハッチが開いているノルンのコックピットへと足を進めた。

...?」

顔を覗き込んできた人物には少し驚いた。

「どうかした?」

が聞くとシンは視線を逸らすので、まあ良いか、とモニタに顔を向けて自分の作業を続けることにした。

暫くしてやっとシンが口を開く。

「あの、さ」

「何?」

「...ごめん」

間を置いてシンが呟いた。

は肩を竦める。

「それは、何に対しての謝罪かしら?」

「ノルンを、落とそうとしたこと」

「それだけ?」

の言葉にシンは視線を彷徨わせる。


ちょっと待ってみたが、言葉がない。彼は本当にノルンの事しか思っていないようだ。

まあ、それなら仕方ない。

「で。私に謝って、次は何?」

はノルンのコックピットから出てきた。

「これ、..随分ぬるくなったけど」と言って彼がドリンクを差し出してきた。

受け取ったは絶句した。

二度と手に取らないはずだった“おしるこ”がの手にある。

「参考までに。なんでこれをチョイス?」

「だって、前に買ってたじゃん。珍しいのが好きなんだなって思って...」

確かに買った。

しかし、シンは知らない。あれはは飲まなかった。説教と同時にヨウランに押し付けたのだ。

「シン、誤解をしているようだから解いておくわ。私、おしるこは好きじゃないの」

「え、だって...!」

シンは驚いて声を上げる。

「ええ、買ったわ。けど、アレは買おうと思って買ったんじゃないの。ユニウスセブンが地球に降下しているというのを聞いてボタンを押し間違えたのよ。結構動揺してたみたい」

「え、じゃあ...」

そう言って自分の買ってきた缶を見つめた。シンもおしるこは飲みたいと思わない。少なくとも、缶ジュースの類としては。

「ま、貰っておきましょう。シンの謝罪の気持ちだもんね。持って帰ったら誰か飲んでくれるかもしれないし」

イザークは甘いものをそう好んで口にするタイプではないが、嫌いでもないだろうし。確か、ディアッカはあんこが好きだったような...押し付けよう。

ちなみに、は小豆が好きではないため、おしるこも好みではない。もちは好きだが、このドリンクに入っているか些か疑問だし、あったとしてもこれでは出てきそうにない。

そんなことを思いながら賞味期限を確認していた。


「ねえ。に、お願いがあるんだけど...いい?」

缶に視線を落としていたが顔を上げる。

「何?」

「ちょと、付き合ってほしいんだ」

は首を傾げた。

「急ぎ?」

「なるべく」

「じゃあ、ちょっと待ってて」

そう言いながらはノルンのコックピットに戻っていく。

「あ、それを終わらせたらオレの部屋に来て」

シンの言葉には軽く手を上げてノルンから遠ざかっていった。


言われたとおりシンの部屋に向かった。

ブザーを押して部屋に入ると電気もつけないでシンとレイがパソコンのモニタを覗いていた。

これは、入っても良いのだろうか...?

何となく、いかがわしいものを見ていたらどうしようとかそんな気持ちになった。

ディアッカのせいだ。きっとそうだ。自分がそういうことに考えた至ったのは昔ディアッカがそういう雑誌を平気で自室で見ていたからだ。

「あ、もういいんだ?」

椅子に座ったままに振り返ってシンが言う。は瞬間びっくりした。

「急ぎって言ってたし。ノルンは、一応調整は済んでいるから」

レイをチラリと見た。何を見ているのかと視線で問う。

「フリーダムの、映像だ」

は首を傾げた。

「...フリーダム?」

「ああ」とシンがしっかり頷く。

はシンの後方、レイの隣に立ってその映像を見た。

「フリーダムのこの動き、どう思う?」

シンがに意見を求める。

「その前に、ひとつ聞いても良いかしら?」

「何?」と不機嫌に彼が応える。

「あなたは、何故フリーダムを討ちたいの?」

の言葉にシンが一瞬言葉を失った。しかし、彼はまっすぐを見上げて口を開いた。

「敵だから。それ以外に何があるって言うんだよ」

昏い目をしてを睨む。人を憎む目。まだ、彼の中の憎悪は消えていないようだ。

「じゃあ、シンの“敵”って何?フリーダムを倒したら、今度は何が敵になるの?」

「地球軍に決まっているだろ?」

「地球軍って、何?どこからどこまでが地球軍?」

の質問は続く。

「な、何でそんな事を聞くんだよ。じゃあ、は何が敵だよ」

「私の描く未来を壊そうとする人たち。例えそれが友人や、仲間でもね」

間髪入れずにが応えた。さすがにシンもそんなに簡単に答えが返ってくるとは思っていなかったため、少し怯んだ。

「覚えておきなさい。何かが憎くて、憎いだけで引き金を引いて殺しても何も残らない。虚しいだけだし、何も得るものは無い。それを分かった上でシンはフリーダムを、地球軍を討つというのよね?」

が確認する。

「そうだよ!あいつらが居なくなれば、世界は平和になるんだ。だから、オレはあいつらと戦うんだ」

シンがまっすぐとの目を見て言った。

きっと分かっていない。けど、そういうものなのだろう。人は自分が痛い目を見なければきっと分からない。痛い目に遭って初めて気づくことがたくさんある。

先の戦争でもそうだった。

それに、一度痛い目にあったはずの人間でさえ、悩んで迷うくらいなのだから。

「分かった。シンがそれを分かった上でフリーダムを討つというなら、力を貸しましょう。

その前に、コーヒーが飲みたい。ちょっと買ってくるわ」

の言葉にシンが半眼になって視線で抗議する。

「仕方ないでしょ。のどが渇いてるんだから。シンとレイは?ついでだし買ってくるよ」

「じゃ、オレはオレンジジュース」

「オレは、いい...」

シンとレイがそれぞれ応える。

「了解」とは返してシンたちの部屋を後にした。









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桜風
09.5.4


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