Like a fairy tale 70





シンの部屋をあとにしてはまたドックへと向かった。

アスランとルナマリアが何か話している。

2人とも機体がどうしようもない状態になっている。それでも、気になるのだろう。

先ほどシンによって中断された作業を再開した。



ノルンのコックピットで作業をしていると艦内に聞きたくない声が響き渡る。

メカニックたちが話をしていた。これは、議長の緊急メッセージだという。

はノルンのモニタを操作してその映像を出した。

それには先日の地球軍のMSとの戦闘が映し出されていた。あのステラが乗っていた巨大MSの大量虐殺の映像だ。

は眉間に皺を寄せる。

「プロパガンダ...お上手ですこと」

都合の悪いものを映像から消している。フリーダムが居ないのだ。

熱く語る議長を止めるように出て来たのはラクス・クラインだ。

は、彼女をあの先の戦争でエターナルに居た彼女と同一人物とは思っていない。

アスランは彼女との婚約は破棄になった。フリーダムを何者かに渡した、当時の反逆者だからだ。

それをそのままあのパトリック・ザラが許すはずもないし、そうなればアスランが彼女と婚約者というのはありえない。

居なくなった人間とずっと婚約をしているというもの現実的ではないし、一応、政治の事は一時期政治家をしている夫を持ったお陰で色々と裏も知ることが出来ている。

では、何故ラクス・クラインが居るのか。

それは、必要だから。

何故必要か。

彼女のカリスマ性は、人々を誘導するのに非常に都合が良い。似ていれば本人でなくても良いのだ。民衆が騙されさえすれば、議長の思うとおりに動けばそれで良いのだ。

ラクスの言葉を継いでまた議長が演説する。

その内容にはも驚いた。

ロゴスの存在を示し、そして、その映像まで流した。

人類、ナチュラルもコーディネーターも同じ敵が居ると示したのだ。そうやって、両者の共通の敵を示すことでザフトへの非難の方向を変え、自分を指示する者を増やそうというのか。

そして、彼は対ロゴスを宣言した。

「全く、大変なことをしてくれたわねぇ...」

は呟いてモニタを消した。

再びノルンの調整を再開する。






議長の演説を聞いていたイザークたちも暫く言葉が出なかった。

「これは、大変なことになる...」

ディアッカが呟き、イザークを見た。

イザークはまだモニタをじっと見ている。

不意に踵を返した。

ディアッカが慌ててその後を追った。

「イザーク」

「何だ?」

振り返らずにイザークが返す。

「今の...」

「ああ」

ディアッカの言いたい事は分かる。

「何がしたいんだろうな、議長は」と呟くディアッカに「さあ、な」とイザークが返した。

何がしたいかは分からない。

だが、世界が大変なことになるのは確かだ。

きっと大々的なロゴス狩りのようなものが繰り広げられるだろう。ただの、虐殺が。

議長はそれを煽動した。あの演説はそういうものだ。

あれを聞いた人間がロゴスを前に命を奪わないなんて事はしないだろう。少なくともそれに共感した市民たちは手加減をすることはない。

「...、無事だったな」

ディアッカが話を変えた。

「そうだな」

イザークの声が意外にも冷たくてディアッカはこっそりとその顔を覗きこんだ。

怒っている。相変わらず物凄く怒っている。

あの議長の流した映像にもノルンの姿があった。

しかし、は得意の射撃ではなくサーベルで接近戦を行っていたのだ。

もう1機味方のMSがいたのだからあれが囮になればもう少しノルンも楽な動きが出来たはずだ。少なくとも、態々接近戦を好んですることはなかった。

「何だって、あいつは!いつもいつも...!」

ああ、本当に怒っている。

でもそれはきっと、に対してではなく、自分に対してだ。

ディアッカも感じているのだが自分の今の力が歯がゆいのだろう。イザークだったら尚更、それを強く感じているはずだ。

前の戦争のときも、今も。手が届かない。





「おーおー、やってくれるねタヌキ」

映像を見ながら楽しそうに言うのは、ホーキンスだ。

「お父さん!そんな楽しそうに!!」とフレイに叱られた。

「偽者のラクス・クラインを担ぎ出して、今度はプラント以外に目を向けさせた上で自分の地位を守ったってところか。回りくどいが、成功しているんだろうな。今のところ」

「...よく分からんが。あの映像の中にアークエンジェルが居ないってのが変だな。正義の大天使なら居てもおかしくないだろう?自由の翼と共に」

フレイが驚く。

「でも、居なかったじゃない」

「消したんだろう。それくらい出来る。あの男は情報戦が好きなようだからな」

カインが応えた。

は相変わらず元気そうだったし。そうだな、その姿を見せてくれたことに関してのみ、あのタヌキに感謝しよう。ありがとう」

そんな飄々としたホーキンスの態度にフレイが「もう!」と文句を言う。

「でも、これからどうします?」

ニコルが聞いた。

偶々ノルンの元に遊びに来ていてカインたちとタイミングが合ったという設定のニコルだ。

「こちらが動くのはまだ早い。あのミネルバには上がって来てもらわんとな。こっちの準備もまだ整っていないし」

「そうですね」とカインの言葉に彼は頷いた。

「けど。たぶん、評議会は今慌てていますね」

「え、どうして?」

フレイが問う。最高評議会議長が演説をしているのだ。それはプラントの決定を論じるものだろうと思っていた。だから、評議会には議題として通しているのではないかと。

「きっとこんな放送、評議会では可決しませんよ。議長と言っても評議員の一人ですし、彼がそこまで強行に採決できません。色々と思惑が絡んでいるのは評議会も一緒なんですよ」

元、評議員を親に持つ彼が静かに言った。

「そういや、議会の方での情勢は?」

ホーキンスが問う。

「そうですね」とニコルが話し始めた。

今日、会うまでに集めた情報を提供する。

「明日、ハイネからの情報も入るしな。そろそろ、本格的に忙しくなるか?」

「まあ、まだ当分動けんだろうがな」

頷きながらカインはそう返した。









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桜風
09.5.11


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