Like a fairy tale 84





少し沈黙が訪れた。

危うく寝そうになっていたイザークの耳に微かなの笑い声が届く。

「何だ?」

「ん?」

「今、笑っただろう?どうした?」

「ああ、」とは納得してまた笑った。

「思い出してただけ」

の言葉にイザークは考えた。何を思い出したのだろう?

「何をだ?」

少し考えたが結局分からなくて聞いてみた。

「さっき、イザークにぎゅってされたでしょ?」

「ああ」と相槌を打つ。

「それで、思い出したの。ニコルを連れて帰ったときもイザークはぎゅってしたなーって」

言われて思い出した。

もしかしたら、を抱きしめたのなんてあのときが初めてだったような気がする。

「物凄く心配してたからな」

まったく、あの時と言い、今回と言い。は心臓に悪い。

「私、あの時やっとイザークを愛せるって思ったんだよ」

...予想外。

「どういうことだ?」

「分かんない。けど、泣きながら私の無事を喜んでくれたイザークを見て、愛しいって思ったの。だから、イザークを愛せるって」

「それまでは、思っていなかったのか?」

結構ショックだ。

「うん。好きだったけど。愛しているかと聞かれたら、答えられなかったと思うよ。でも、もう大丈夫だって思ったの」

イザークはわざと大仰に溜息を吐いた。

「酷いな。俺はずっとが愛しかったのに...」

少し試すような表情を浮かべてイザークが言う。

「まあ、良いじゃない。今はちゃんと愛してますよ」

そう言って腰を曲げてイザークの瞼にキスをした。

イザークは軽く溜息を吐いて彼女の左手を取った。

「だが。これを置いていったのは、誰だ?」

そう言いながら薬指に光る指輪にキスをした。

「けじめってやつよ。けど、送ってくれてありがとう。これが無かったら、私ここには居なかったかも」

の言葉にイザークは驚いた。

MSに関しては結構自信家だったはずだ。それなのに...

「私、随分とイザークに甘えていたんだって気づいたの。オーブから脱出したこと、知ってるでしょ?」

「ああ、地球連合と同盟を結ぶとあの国は決めたから。ちょうどタイミングが悪かったな。だが、戦果も届いている。信じられない数字だった」

は頷く。

「あのとき、ノルンがボロボロでね。凄く不安になったの。頼れる人が誰も居ないって気づいたら途端に怖くなって。ずっとノルンに篭りっきり。艦長に心配されたけど、それすら鬱陶しいとか思っちゃったもん。でも、カーペンタリアにイザークからの手紙が来てて。落ち着いた。ありがとう」

それは、相当だったのだな、とイザークは胸を撫で下ろした。

「じゃあ、そろそろ教えてもらえると嬉しいんだがな。復隊した具体的な理由を。本当に理由があるなら俺だってむやみやたらと反対はしない。だが、全然分からないのに、こんな戦場に送れると思うか?手放したはずの“”だったのだろう?」

その言葉にの眸が揺れた。イザークは溜息を吐く。まだ話すつもりは無いらしい。

「俺は、そんなに力が無いか?」

は首を振る。

イザークはまたしても溜息を吐いた。


ごろりと寝返りを打ってに背を向ける。

「イザーク...?」

少し不安げな声でが名前を呼んでくる。

「俺が、どれだけ心配していたと思ってる」

「ごめん...」

「ユニウスセブンのときも。オーブ脱出のときも。ベルリンもヘブンズベースのときも。俺はずっと歯痒い思いをしていたんだ。それに、お前がアスランを討ったと聞いて心臓が止まるかと思ったんだぞ」

「...うん」

が神妙に頷く。

「けど、それは映像を見て安心したんだがな」

「映像?」とが呟く。

「お前がアスランを討ったときの映像。議長が送ってくれたんだよ、正式発表の前に。偵察機か何かが撮ったものだったようだからあまり鮮明じゃなかったけど」

あの狸はまた余計なことを!

はそう思いながら眉間に皺を寄せる。

幸いなことにイザークは背中を向けているのでその表情を見ていない。

「けど、映像を見てとりあえずアスランを討ってはいないって分かった」

「...なんで?みんなきっと騙されてくれてたよ」

の言葉にイザークはまたしても寝返りを打つ。今度はの顔を見た。

「ノルンがあんな鈍い動きをするはずがない。あんな簡単にメインカメラを壊させるなんてありえないんだよ。相手がどんなに優秀なパイロットでもな」

自信満々にイザークが言う。表情も勿論自信たっぷりだ。

「そう?」

が笑いながら応えた。

「...けど、正解。アスラン、生きてたよ」

イザークは目を丸くした。

「どこに!?」

「オーブ。結局帰ってるの。何を馬鹿みたいに遠回りしてんだか」

が笑った。イザークは鼻を鳴らす。


「イザーク、少し寝たら?起こすよ」

の言葉にイザークは少し考えて「5分前に起こしてくれ」と言って目を瞑った。

「あとちょっとじゃない」とは呟き、イザークの頭を優しく撫でる。

自然と口から漏れるのは幼い頃に母に歌ってもらった子守唄だ。

記憶に無くても記録にあった。

だから、はそれを覚えて娘にも歌っていた。

そういえば、自分はもう宇宙に上がった。

父たちは動き始めているのだろうか。

それとも、間に合わなかっただろうか...

今度は守りたいものが近くにある。

開戦時のような歯痒い思いはしなくて済む。

目の前で穏やかな表情を浮かべているイザークを眺めては守りたい未来を改めて思い描いていた。









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桜風
09.6.15


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