Like a fairy tale 86





たちが戻ってきた。

ディアッカは時計を見る。きっちり20分。

心なしか、の動きが足を庇っているようだ。しかも、片方だけ。

さっきブリッジを後にするときにはそんなことなかったのに...

何となく分かったディアッカはニヤッとした。

はイザークの肩を押してブリッジの中に入ってきた。

ディアッカは手を伸ばしてそれを受け取り、が重そうにしている方の足を突いた。

「ディ、!アッカ!!」

はその足を押さえて唸る。

イザークは床を蹴ってブリッジに入った。

「グラディス艦長。お言葉に甘えて席を外して申し訳ありませんでした」

「いいえ、私が言い出したことですし。エルスマン副官からお話は聞きました。ブリーフィングの事以外も」

艦長の言葉には勢いよくディアッカを見上げる。

ディアッカはにこりと笑った。

「何を言ったのかしら?」

「大丈夫だって。お前が寝起きが悪いのなんて言ってないから」

「酷ッ!!何でそんな余計なことを言うの!今まで頑張って隠してたのに...」

が項垂れる。

そんなの様子をイザークは苦笑いを浮かべて眺めていたが、「ディアッカ、時間だ」と促した。

「では、艦長。貴艦の健闘を祈っております」

「ありがとうございます。ジュール隊にも期待しております」

敬礼を交わした。

「んじゃ、な」とディアッカはの肩を使ってその場を離れる。その際、の足に触れた。

声に鳴らない悲鳴を上げるを見て笑う。まだ痺れが残っていたようだ。

何とか耐えたが立ち上がるとイザークもの肩に触れた。

「死ぬなよ」とにだけ聞こえる声で囁き、の肩を押す際、イザークの唇がの頬を掠めた。

その様子を見ていたミネルバクルーたちは「あれ?」といった表情を浮かべている。

「今、キスした?」

「わかんないよ」

ルナマリアとシンがこそこそと言葉を交わしている。

は内心「イザーク...」と半眼を向けていたが、浮かべている表情はいつもと変わらない。

「アーサー」と艦長に促されて副長が慌てて2人を送るために艦長と一緒にブリッジを後にする。

一度に視線を向けた。来るか、と言ったように。

しかし、はイザークとディアッカに敬礼を向けただけだった。

2人もそれを返す。

「気をつけてな、

「ディアッカも。手のかかる隊長だろうけど...お願いね」

の言葉に「貴様は一言多い!」とイザークが叱る。しかし、すぐに表情を緩めた。

ブリッジのドアが閉まり、その姿は見えなくなる。

「じゃ、私たちもひとまず解散ね」

そう言ってもブリッジを後にした。



、来ませんでしたね」

グラディスが気遣ってそう言った。

「来ませんよ、彼女は」

イザークは苦笑して応える。ディアッカは肩を竦め、アーサーは首を傾げている。グラディスは「そう...」と返しただけだった。

「何故、彼女は復隊したのかしら」

呟くようにグラディスが言う。

「私も、それを教えてもらっていないのです。自分に出来ることがあるから、とか。自分にしか出来ないことがあるから、という話は聞きましたが。具体的には何ひとつ」

イザークの言葉にグラディスが驚く。

「え、それって...」

「彼女は私を説得することを諦めて家出という形で復隊しましたから」

「だから、さっきジュール隊長が説教と共に理由を問いただしてみたんですよ」

「見事に失敗ですけどね」とディアッカの言葉にイザークが続けた。

「ええ!?」とアーサーが驚いていた。

「そうだったの...まあ、あなたが来ると直感で分かったらしいは思い切り逃げようとしていたから、何かあるのかしらとは思ったけど」

と艦長が溜息混じりに言った。

「そういえば、ジュール隊長は議長からご息女の写真を受け取ったりしているの?」

艦長の言葉にイザークは一瞬眉間に皺を寄せた。何だ、それは?

「いえ。...は、受け取っていたんですか?」

「ええ」と頷いてあのディオキアの基地で聞いた話をした。

イザークはパズルのピースがひとつ埋まった気がした。それはディアッカも同じようだ。

「彼女は、母親で。元々娘とずっと一緒だったので議長がそう配慮してくださったんだと思います」

イザークの言葉に「そう?」と艦長が返した。

「でも、この戦争が終わったらゆっくりと話ができるようになるんじゃないですかね」

とアーサーが言い、

「そのつもりです。そのときにはじっくり吐かせます」

とイザークが笑顔で頷いた。



「見送りに行かなくて良いの?」

振り返るとシンがいた。

「見送るよ。けど、ドックはちょっとね...」

寂しくなってしまうから、という言葉を呑んでは進む。

シンは何故かついてきた。

「どうしたの?」

「いや、なんか。ってこの艦に居るときと、ジュール隊長と一緒に居るときって全然違うから。何か、違和感って言うか...」

「向こうも同じことを思ってるかもね。『俺と居るときはほけほけしおって!ミネルバに居るときのようにしっかりしろ!』って感じで」

そう言いながらは笑う。

暫く進んでいくと展望デッキに出た。

「来た」とが呟く。

ダークグレーのブレイズウィザードザクファントムとホワイトのグフイグナイテッドが目に映る。

は手を振ってみた。


「イザーク、ミネルバ」

気づいたディアッカがイザークに通信を送る。

「ああ」とイザークは返した。彼も気づいていた。

「あそこで見送るならドック来れば良かったのに」

「いいや、来なくて正解だったよ」

イザークの言葉にディアッカが「何で?」と意外そうな声を上げた。

「そのまま連れて帰りたくなるだろう?」

「...なるほどな」

ディアッカはザクを動かす。右腕を上げて人差し指と中指を立てて額の傍に持っていき、前方に動かした。

イザークは少しだけ振り返っただけでそのままボルテールへと向かっていく。

は手を振り続けた。

「もう行ったよ」と声を掛けようとを見てシンは口を噤んだ。

は、とても寂しそうな表情を浮かべていた。今まで見たことの無いその表情は、自分が見てはいけないもののように思えた。

「先、戻るから」

シンはそう声を掛けてその場を去る。

は暫くその場を動かなかった。



「忘れるな、俺がいること。お前を愛していること。俺だけじゃない。沢山の人間がお前の事を愛している。“”も、“シルバーレイ”も気にするな。言いたい奴には言わせておけ。俺にとってはどちらも必要ない。は、だ」

部屋を出る前にイザークがそう言った。

ずっと燻っていた想いが見透かされた気がした。

あのジブリールを逃したのは自分のせいだと思っていた。フリーダムにノルンが傷つけられたから発進できなかった。

ノルンが出ていたらあるいは、あのシャトルを落とせたかもしれなかった。

が驚いてイザークを見上げていると彼は微笑んで優しくキスをする。

その笑顔が穏やか過ぎて泣きそうになった。

今、自分の抱えているものを吐き出して訴えたくなった。

しかし、それは寸でのところで飲み込んだ。

「ありがとう」

そう返してもイザークにキスをした。

その行動があまりにも意外でイザークは目をぱちくりとしたが、そんなイザークを放っては部屋を出て行き、イザークもそれに続いた。









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桜風
09.6.15


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