Like a fairy tale 20





さすがにあの演説の後だと、カインに声を掛けてくるものは居ない。

実に快適だと思いながら壁に寄りかかってグラスを傾けていた。

「失礼、よろしいですか」

そう声を掛けてきたのは、先ほどホーキンスに教えられたの上司だった。

「これは、ラウ・ル・クルーゼ隊長」

壁に体重を掛けていた姿勢を正してカインはクルーゼに一礼をする。

「私の名前をご存知でしたか」

口元に笑みを浮かべてクルーゼが言う。

「先ほど、ホーキンス隊長に伺いましたので。貴方が娘の隊長だと。よろしくお願いします」

再び頭を下げる。

「いいえ。確かに、希望は出しましたが、まさか本当に彼女が私の隊に配属されるなどとは思っていませんでしたから。幸運です。あの、“シルバーレイ”と呼ばれたカイン・氏のご息女が我が隊に配属されるというのですから」

懐かしい名前だと思う。

カインのパーソナルカラーはシルバーだった。そして、彼の持ち味はそのスピードだ。

光と喩えられるほどのそのテクニックに地球軍は翻弄されていたという。

そして、彼は隊長でありながら先頭を切ってMSを駆っていた。故に、隊の士気は上がり、戦果もザフト一を誇っていた。

何より、彼は戦場で部下を死なせていない。

それは伝説並みの偉業だった。

「カイン・氏の噂は私も存じております。素晴らしい隊長でいらした、と。今でもザフトから色々と声を掛けられているのではありませんか?」

クルーゼの言葉にカインは首を振って

「それほどでもありませんよ。私はもう過去の人間。今は貴方たちがいるからザフトも心強く思っていることでしょう。その若さで隊長でいらっしゃるのですから」

カインの言葉にクルーゼは「ほう?」と言う。

「私が若い、ですか?」

「失礼。見た感じが27、8くらいと思いましたので」

カインの言葉にクルーゼは口元に愛想笑い以外の笑みを浮かべて

「いいえ。仰るとおりです。この通り仮面をしておりますので年齢の事を言われることが少なくて慣れていなかったもので。私の方こそ失礼致しました」

と返す。

「しかし、私は長生きが出来ないのですよ」

クルーゼがそう言う。口元には依然笑みが浮かんでいる。

「まあ、無茶はしないことですよ。と、言っても戦場でしてしまうのが、無茶ですけどね」

カインが言うとクルーゼは頷き、「心に刻んでおきます」と言って挨拶をしてカインから去っていく。



「クルーゼ、何だって?」

「先生と生徒の親みたいな会話をしただけだ。『娘をお願いします。』『彼女には期待していますよ』てな感じだよ」

戻ってきたホーキンスが開口一番にそう言う。カインは適当に先ほどの雰囲気を伝えた。

表面上の、見た感じの雰囲気を。自分が感じた奇妙なものは表現しづらくて結局伝えない。

ホーキンスにそんな労力と時間を割くのは面倒くさいから。

「そうだ、カイン。少し勝負をしないか?」

何を突然...

そう思いながらホーキンスを見る。

「射撃」

「却下」

ホーキンスの提案は0.1秒で却下された。

「何でだよ。お互い飲んでるし、条件は同じだろう?射撃場はすぐそこだぜ?」

ホーキンスは納得いかない表情で食い下がる。

「今日は銃を持ってない」

カインの言葉にホーキンスは目を丸くする。

「お前、銃を持ち歩かなくて平気なのか?」

気分的なものだが、昔はシャワールームにさえ銃を持ち込んでいたカインだ。

「そうは言われてもな。まだ買ってないんだ」

ホーキンスは眉を顰めた。

「娘に譲ったんだよ。アカデミーを卒業したしな」

カインの言葉にホーキンスは頷く。

「なら、が持ってるんじゃないのか?」

まさか、と思いながらカインはを呼んだ。

「何でしょう?」

、銃..は持って来ていないよな?」

カインの言葉には首を傾げて手にしているバッグを開ける。

「持って来てますよ」

確かに、今朝方に譲った自身の銃が入っている。

「何故、持ち歩くんだ?」

父の言葉にはきょとんとした。

「いつも持ち歩け、と仰ったじゃないですか」

の言葉にカインは笑う。

何故自分が笑われたのか分からないは少し不満げに頬を膨らませて父を見上げていた。

そんな父子の様子を見ながらホーキンスも苦笑する。

何だかもの凄く似た者親子だ。








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桜風
08.1.28


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