Like a fairy tale 104





レイはから聞いたとおり、21時に国防副委員長室へと向かった。

ドアをノックしてみるが返事がない。

返事を待つべきかと悩んだが、時間がないとも聞いているので「失礼します」と声を掛けて入った。

部屋の中を見渡すとホーキンスがソファに掛けて腕を組んで俯いていた。

「ホーキンス副委員長」

声を掛けたが返事がない。

レイは静かに近づいてみた。


突然ホーキンスが顔を上げて振り返る。

レイは驚いて足を止めた。

「...ああ、悪い。何時だ?」

部屋の中をきょろきょろ見渡した。時計がある場所をまだ覚えていない。

「21時3分です」

「ああ、そうか。悪い。寝てたな」

そう言ってホーキンスはレイに目の前のソファに座るように促して自分は立ち上がる。

「レイ、コーヒーと紅茶。どっちが好きだ?」

「いえ、私は...」

「どっちが、好きだ?」

「紅茶、です」

有無を言わさないその雰囲気にレイは素直に答えた。

「お、奇遇。オレも今は紅茶」

そう言いながらホーキンスが紅茶を淹れ始めた。

「私が、」というレイに「座ってろ」とホーキンスが言うものだから何となく所在がないと思いつつもレイはソファに腰を下ろしたままホーキンスが戻ってくるのを待った。

「あ、ソーサー要ったか?」と言いながらカップだけを持ってホーキンスが戻ってくる。

「いえ」と小さく首を振ってレイは応えた。

「熱いから気をつけろよー」と言いながらホーキンスは自分のカップを口に運ぶ。

口をつけた途端、顔をゆがめた。自分がやけどをしたようだ。舌を出している。

レイはそれを見て自分はゆっくりと口に持っていった。


「ホーキンス副委員長閣下。それで、あの。私を此処に呼ばれたとから聞きました」

「副委員長閣下、って...慣れないしむず痒いな。ホーキンス隊長、って言われるのが一番しっくりくる。まあ、いいか。あのメサイヤでオレが言ったこと、覚えてるな?」

レイは頷いた。

「生きたい、と思ったんだよな?」

「はい」

レイははっきりと返事をした。

ホーキンスは嬉しそうに顔を綻ばせる。

「よし。まあ、デュランダルの言ったことは気にするな。お前が希望すればそうしても構わんが、イヤなら別に態々オレの子になる必要はない。手ぐらいは貸せる」

レイはその言葉に戸惑った。

その様子を察してホーキンスが促す。とりあえず、思ったことを言ってみろ、と。

レイは自分の出生の事を話した。

自分が何者で、どうしてここに居るのか。

何を考えてザフトに居て、何をしていたのか。

ポツポツと懺悔を口にする。

ホーキンスはそれに口を挟むこともなく、ただ聞いていた。

レイが話し終わったときには時計は随分進んでおり、それについてレイが謝るとホーキンスが怒った。

「今は、お前のために取ってる時間だ。変に気を遣って謝んな」

そう言われてレイは驚いて、俯いた。何だか、嬉しかった。

「まあ、レイがうちの子になっても良いけど。一応、フレイにも許可を得ないと、とは思ってるんだよな。ああ、あとミーアも。あいつはどうするんだろう?」

レイは驚いた。

「ミーアとは、ミーア・キャンベルのことですか?」

「あ、知ってるか。そうそう、そのミーア。だと思う。ラクスの身代わりを演じてた」

ホーキンスの言葉にレイが頷く。そのミーアのことだ。

「どこで..元々お知り合いだったのですか?」

「んにゃ。流石にそこまで抜けてねぇだろう?お前の尊敬するデュランダルは」

そう言って彼は苦笑した。

確かに、色々と交友関係も洗っているはずだ。そうでなければ、ラクスの代わりなんてものをさせるのに不用意すぎる。

「そう。月の、コペルニクスで拾って。今はフレイと一緒に居る。デュランダルが殺しかねなかったからな」

レイは辛そうに俯いた。

「仕方ないさ、あいつも自分の信じる道を進んでああなったんだ。...パトリックと同じだよ。何かが、どこかできっとずれてしまったんだ。それを止められる者が近くに居なかったのが不幸だよな」

少しだけ、自嘲気味にそういう。

パトリック・ザラを止められなかったのは自分だ。親友だと思っていたし、向こうも渋々それを認めていたはずだ。

それでも、力が及ばなかった。


に、笑われました」

レイの言葉が耳に入って過去を悔いる思考を止める。

「何て?」

「ジュール隊長の捕縛を進言したのはオレだというと、終わったことだと」

らしい。思わず笑ってしまった。

が気にしてないなら良いじゃねぇか。イザークも、が気にしないといったら項垂れて『お前ってそういう奴だよな』とかって諦めるさ。気に病むことはない」

ホーキンスの言葉にレイは首を傾げる。

「昔から、そうだったんですか?」

「昔、ってほど長い知り合いでもないけどな。まあ、あいつの母親の性格を継いでいたら、そういう性格でもおかしくないってことだな。あいつの母親の、ノルンは。本当にあっけらかんとしていて時々こちらが反応に戸惑った」

思い出すようにホーキンスは目を細める。

「だから、見てみろ。今はイザークが戸惑っている」

いや、アレは戸惑いを通り越して諦めているというのだろうな...

「まあ、は守りたい未来があるから。ザフトに居たんだし。ボルテールを狙われたら、がその守備についてザフトを全滅させただけだろう?」

「可能、だと思われますか?」

「人の思いの強さ。お前は見てきただろう?ま、所謂“愛”ってやつだよ」

そう言って笑う。

こんなことを言ったと知ったらは怒るだろう。恥ずかしいことを言うな、と。



ホーキンスは紅茶を煽った。

「レイ、考えろ。時間はまだある。自分が何をしたいか。そのためにはどんな環境が良いか。オレを利用したきゃすれば良い。生きるってのは貪欲でなければ出来ないことだ。欲を出せ。多少のエゴにも付き合ってやるから。バカな真似をしそうになったら殴って止めてやる。安心しろ」

そう言ってホーキンスは立ち上がり、手を伸ばしてレイの頭をくしゃりと撫でた。

「あの!」レイが思わず声を出す。

ソファから離れていたホーキンスは「ん?」と振り返った。

「何故、ホーキンス隊長は。こんなにオレに良くしてくれるんですか?」

ホーキンスは笑った。“隊長”と呼ぶレイが可笑しい。そして、少し嬉しかった。

「急いで大人になろうとするやつは物凄く苦労するって知ってるからだ。ガキでいられるうちに、ゆっくり覚えれば良い。色々とな。子供を助けるのが、大人の仕事だ。これ、最低限の勤めだから覚えとけ」

そう言って笑うホーキンスにレイは思わず頭を下げた。

「ありがとう、ございます」

「おう!悩め、もがけ。変な方向に走っていたら首根っこひっ捕まえて方向修正してやるから、とりあえず走ってみろ」

ニッと笑ったホーキンスはカップを下げて洗い始める。

「レイ、もう戻って良いぞ。ゆっくり考えろ。こっちもフレイとミーアとゆっくり話が出来るまで何も出来ん状態だしな。ああ、でも。うちの子になりたいって言ったら、ちゃんとフレイを説得して、納得させるから安心しろ」

ホーキンスの言葉にレイは頷いた。

そして、敬礼を向けて部屋を後にする。

もっと話したいと思った。聞いてほしいことはまだある。

今まで人に話すの面倒だとか、どうでも良いとか思っていたことがある。

それを、誰かに聞いて欲しいと思った。

誰か、ではない。

きっとヴァン・ホーキンスという人物に聞いて欲しいんだ。

レイは退出したそのドアを振り返った。

とても不思議な人だと思う。自分がこんなに簡単に好意を抱く相手なんて今までいなかった。勿論、クルーゼとデュランダルは別だ。自分の過去にかかわりを持っていたし、ずっと守ってくれていた人物だったから。

「ギルが、苦手に思うわけだ」

何となく、そう思った。ホーキンスはそれほどに、魅力的な人物だった。









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桜風
09.7.27


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