Like a fairy tale 112





行政府で食事会らしきものが開かれ、そして用意された部屋で休むことになった。

カガリに申し訳ないが部屋をあらためさせてもらう、と言って了承を得る。

一人一部屋だったが、イザークととノルンは同室になっていた。

どういう配慮だ、とイザークは眉を顰める。

が、は喜んでいた。イザークはともかく、ノルンと同室だと言いながら。



夜中、イザークは肩を揺すられて目を薄く開けた。

「何だ、

髪の色がと同じだからそう思ってしまったのだが、目を開けると物凄い至近距離にある顔はではなく、ノルンだった。

イザークは目を大きく見開く。

「パパ。ママがいないの」

イザークはノルンを抱えあげて上半身を起こし、ノルンを自分の膝の上に置いた。

見てみると、確かにの姿がない。

ベッドから落ちたか、と思って見たが姿はない。

テラスへ出るガラス戸が開いている。

「ったく、無用心な」とぶつくさ言ってまた寝転ぶ。

「ママは?」

「散歩だろう」

「おさんぽ?」

物凄く不安げにノルンが繰り返す。

また居なくなるのかと言いたげな表情だ。そして、ノルンが目に涙を浮かべ始めたため、イザークが慌てる。

こんな時間に泣かれたら近所迷惑だろうし、何より、あやしきる自信がない。

体を起こして「じゃあ、探しに行くか?」と声を掛けるとノルンの目に浮かんだ涙が引いていく。

「うん!」と元気よく返事をしたノルンにイザークは胸を撫で下ろした。


服を着替えさせてテラスに出る。

テラスからは海岸に降りられるようになっていた。

「ママ、どこ?」

イザークに抱っこされたノルンがキョロキョロと周囲を見渡た。

「たぶん、こっちだな」

そう言ってイザークが足を進める。

は意外と繊細な神経の持ち主らしい。

自分のテリトリー以外では寝られないという。

だから、艦が変わると数日はまともに寝ない。

慣れたら慣れたで朝起きなくなる。そんな性格だった。

だから、彼女がジュール邸に住むようになった当初は余り寝ておらず、夜中に庭を散歩していたと聞いた。

そいういうわけで、今回も眠れずに散歩にでも出たのだろう。

の腕なら自分の身くらいは守れるはずだし、とイザークは心配していなかったのだが、ノルンが心配するのだから仕方ない。

「パパはママがどこにいるのかわかるの?」

「まあ、何となくな」

答えながら足を進めた。

ノルンは「パパ、すごいねぇ」と感心していた。


浜辺の一角の岩場に人影がある。

「ママだ!」と言いながらノルンはイザークの顔をぺちぺちと叩いた。

痛い、と思いながらイザークはノルンの小さな手で顔を叩かれながら足を進めた。

」と声を掛けると彼女は振り返る。

「あら、どうしたの?」

そう返してきた。

「ノルンが心配してるぞ」

ノルンを抱えたままイザークはその岩場を歩く。

の傍までやって来て彼女の隣に腰を下ろした。

ノルンがに向かって体を乗り出したのでノルンを渡した。は受け取ってそのまま星空を眺める。

「ママ、おほしさまがふってくるよ」

そう言ってノルンが手を空に向かって伸ばした。

「似たような言葉を聞いたな」

小さく笑ってイザークが呟き、がきょとんとした。

「そうなの?」

「お前が言ったんだろうが。カーペンタリアで」

は首を傾げて記憶を掘り起こす。

「ああ、格納庫の屋上?」

イザークが頷く。

「そっか」と呟いては天を見上げた。

「ノルン、あれがプラントだよ」と指差す。今日は空気が澄んでいるからぼんやりと見える。

「ぷらんと?」

「明日、あそこに帰るの。ノルンはあそこから此処に降りてきたんだよ」

興味深そうにノルンは星空に浮かぶプラントを見つめた。


腕の中のノルンが突然重くなった。

が覗き込むとノルンは規則正しい寝息を立てている。

その顔を覗きこんだイザークの顔も穏やかなものになる。



「何か、あったのか?」

不意に聞かれては驚いた。

「何で?」

「見れば分かると言わなかったか?それに、此処に降りると決まってからドックにいる時間が格段に増えただろう?戦闘中でもないのに。メカニックたちが心配して俺に言ってきたんだ」

は俯いた。

「あのね、イザーク。シルバーレイ、壊すことにしたの」

イザークは驚いての顔をまじまじと見る。

そして「そうか」と一言言った。

「『何故?』とか、『待て!』とか言わないの?」

が首を傾げながら言う。

「言わない。決めたんだろう?の頑固さは嫌ってほど知っている。身を以ってな。けど、寂しくは..なるな」

イザークはそう言っての肩を抱き寄せた。

「あの子も、もう休みたいだろうから」

「ああ」

「私が叩き起こして巻き添えにして。たくさん、討ったから」

「そうだな」

「もう、ゆっくり休んでほしいの。誰にも、利用されることなく。ザフトの、戦争の象徴に担ぎ上げられて。ずっと戦っていたもの」

イザークは頷く。

「でも、やっぱり寂しいの。ずっと一緒に戦って、頑張って。守ってくれてたから...」

の瞳から雫が零れた。

イザークはそれに唇を寄せて掬う。

「泣くな。ノルンがまた泣くぞ。俺は2人一辺にはあやせない」

自分に向かって“あやす”って何だ?と思いながらはゴシッと涙をぬぐった。

「うん」

「カイン殿、というか。国防委員長には?」

「言った。私が除隊するまでには何とかしてくれるって」

「そうか...」

そう言ってイザークは涙が浮かんでいるの目じりに唇を寄せて涙を掬い、そのままキスをした。

久しぶりに合わせた唇は涙の味がした。









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桜風
09.8.17


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