Like a fairy tale 119





ノルンを破壊したその翌日。

は本部の国防委員長執務室に居た。

「これが、除隊許可証だ」

そう言ってカインが1枚の紙を渡す。

「まあ、お前は2回目だな」

そう言って笑った。

「昨日はご苦労だったな。大丈夫だったか?冷血漢の親父を持つと大変だな」

ホーキンスがそう言ってきた。

は笑う。

カインは居心地が悪そうにそっぽを向いた。

「カイン・は自身が軍服を着ているときは、軍服を着ている相手に容赦ないって以前教えていただいていましたので」

の言葉にカインが驚き、はホーキンスを見た。

「余計なことを...!」

「今更娘に好かれようなんざ甘いんだよ。『おじちゃん、だあれ?』だもんな」

「人の古傷を抉るな!」

そんな仲の良い言葉の応酬を見ながらは笑う。

「まだ時間あるだろう?コーヒーくらい飲んでけ」

そう言ってホーキンスはをソファに座らせて席を外した。

カインはの正面に座る。


「ミーア・キャンベルとレイ・ザ・バレルはホーキンスが面倒見ることになったらしい。養子だと」

「いきなり3人の子持ちですか?」

が笑う。懐の広い人だ。

「八方美人なんだよ」とカインは苦笑しながら言う。

「...イザーク君が心配してたんだぞ。ノルンの破壊の事を知ってから。OSだけではダメかと聞かれた。お前のたっての願いだと言ったら引いてくれたがな」

は頷く。

カインは溜息を吐いた。

「まあ、これで彼の心配事もひとつ減ると言うわけだな」

それを聞いては笑った。イザークは元々心配性だから目の届かないところに居たら居たで心配をすると思う。

「笑い事じゃないだろう」とカインは困ったように眉をしかめた。

本当に、イザークが気の毒だ。

妻の希望で婚約させた。結婚したのは2人の意思だ。

だが、最初に婚約なんてものをさせたからそうなったのだろうし。

「心配できる相手が居て、その相手が心配されていることを自覚しているならそれは幸せなことだろうが」

とコーヒーカップを器用に3個持ってきたホーキンスが話に入る。

は慌ててそのカップを受け取った。

「“心配”ってのは気を向けている、気にかけている相手が居てこそ初めてあるものだ。だから、心配する相手が居るのはいいことだぞ?だって気が気じゃなかっただろう。宇宙の様子が入ってこなかったからジュール隊は何してるんだろう、とか」

は苦笑をもって返事に代えた。

その様子を見てホーキンスが笑う。

「ま、安心して子育てに勤しめ。オレもカインも諦めた。というか、腹を括った。国防委員会にそのまま身を置くさ。議会から正式にその依頼が来たしな。誰かが馬鹿なことをしそうになったらぶん殴ってでも止める。約束しよう」

は微笑んで頭を下げた。

「よろしく、お願いします」

「いつ出て行くんだ?」

「今からです」

はそのままコーヒーを飲み干して立ち上がった。

「では、」と言って敬礼を向けてドアに向かう。



カインが呼ぶ。

振り返ると敬礼を向けられていた。

「今までの貴殿とノルンの戦いに感謝します。...ありがとう、

は目に涙を溜めて自分に敬礼を向けている2人に敬礼を返した。

「こちらこそ、ありがとうございました」

そう言っては足早に部屋を出て行く。

「お父様、反則...」

はドアに背を預けて俯いたままそう呟いた。




ボルテールに戻って隊長室へと向かった。

「除隊許可が下りたから、帰るね」

書類の整理をしていたディアッカも同じく部屋に居た。

「わかった」とイザークは書類に目を通しながらそのまま軽く返す。

「え、もうちょっと惜しもうぜ?」と言うディアッカを黙殺してイザークは顔を上げる。

「家で大人しくしておけよ」

「努力します!」

そう言ってイザークに敬礼を向けてディアッカに顔を向ける。

「イザーク、お願いね」

「はいはい。お願いされたよ」

ディアッカの返事を聞いては笑い、そのまま部屋を後にした。

「あっさりしてるな」

「見なかったのか?」

イザークの言葉に「は?」と返す。

「またどこかで泣いたんだ。少し目が赤かった。それに、此処に居たら昨日の事を思い出すだろう。家に帰って忙しい方が良いに決まってる」

「愛だねぇ」とディアッカは呟き、そのまま書類整理を続けた。




軍服を脱いで事務官に返却し、そのまま軍本部を後にした。

本部を出ると人影がある。

!」

「お疲れ様です」

ラスティとニコルだ。

「あれ、忙しいのにどうしたの?」

は2人に近づいた。

「たぶん、今日除隊するんだろうと思って。迎えに来ました」

「わ、バレバレ?」と言いながらは笑う。

「居たー!」

後方で聞きなれた声が聞こえた。

振り返るとルナマリアだ。シンを引っ張りながら走ってくる。後方にはレイも居る。

「もう!なんで挨拶に来ないわけ?」

怒られた。

「ご、ごめん...」とはとりあえず謝ってみる。

「まったく...」と不満そうにしていたルナマリアだったが、ニッと笑った。

「レイが、たぶん今日除隊してそのまま帰るんじゃないかって。本当にその通りなんだもの。驚いちゃった」

ルナマリアの言葉でがレイを見る。

「今まで、ありがとう。色々とすまなかった」

レイがそう言って握手を求めてくる。

はそれに応じた。

「気の強い女の子ばかりだけど。まあ、頑張って」

何のことか分かったレイは苦笑して「覚悟は出来たよ」と頷いた。

シンはルナマリアの後方でぶすくれている。

「シンも、元気でね」

「何で簡単に辞めるんだよ」

不満そうに言った。

「元々、戻りたくて戻ったわけじゃないから」

あっさりとそういうに益々機嫌を悪くさせる。

「オレ、あんたを尊敬してたのに」

「じゃあ、益々早く辞めないと。そうやって本性知らないうちが花よ」

が言うと後方でラスティが噴出す。

「自分で言うなよ、“本性”って」

振り返っても笑う。

「でも、ジュール隊長はの“本性”ってのを知ってるんでしょ?」

ルナマリアが聞いた。

「そりゃ、ね。今でも知らなかったとか言われたらどうして良いかわかんないよ、私」

が笑う。

「...ジュール隊長ってと居て疲れないのかしら?」

普通、そんな事を言われたら怒りそうなものなのに、は笑った。

「イザークってば、もう諦めてるから」

、ニコル、ラスティが三者三様の言葉でそう言う。

あまりにも揃ったタイミングで言った3人は顔を見合わせて笑った。


しかし、

「よく分かってるじゃないか...」

と言う声を聞いて息を飲む。

ゆっくり振り返ると噂の中心人物が居た。

「さっきさよならしたじゃない」

が言う。

「忘れ物だ、馬鹿!」

そう言ってに何か渡していた。時計だ。

「失くしたと思ってた」

「いつも決まったところに置いておかないからだ」

イザークの言葉には首を竦めた。

「何でお前ら居るの?」

ついてきたディアッカが聞くと

「今日、除隊して本部からも出て行くと思ったので。お迎えに」

と先ほどに説明した同じことをディアッカに説明した。

「へー、気が利くじゃん」と言いながらディアッカは笑った。

「じゃあね」と言ってが笑う。

「ね、今度家に遊びに行って良い?」

ルナマリアが聞いた。

「イザークに聞いてね」

がそう返すとルナマリアは眉間に皺を寄せているイザークを恐る恐る見上げる。

「別に、構わないが?」

イザークの返事に笑って「ありがとうございます」と頭を下げてを見た。

「と言うわけだから。休暇が取れたら遊びに行くね」

は頷き、ニコルがドアを開けて待ってくれている車へと向かった。


背を向けたにイザークとディアッカが敬礼を向ける。

それに続いてレイが敬礼し、ルナマリアとシンも倣って彼女に敬礼を向けた。

車の中に荷物を投げ込んで振り返ると、さっきよりも見送りに来ている人物が増えており、彼らはに敬礼を向けていた。

ミネルバのクルーは殆ど出てきているし、ジュール隊の面々もいる。元部下も居た。

は困ったように笑ったが、気を取り直して敬礼を向けて微笑んで車に乗り込んだ。

車が見えなくなるまでその場に居た人物たちは動かず、敬礼した手を下ろすことはしなかった。










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桜風
09.8.31


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