Like a fairy tale 121





天気が良いから、とテラスでティータイムを楽しんでいた。

「奥様、お客様がお見えです」

そう声を掛けられて振り返る。

「お邪魔します」

「こんにちは」

ルナマリアとシンだ。

「いらっしゃい」とは声を掛けてこちらに来るように促した。

「こんにちは、」とルナマリアがイザークに声を掛ける。

「ああ、よく来たな」

読んでいた本に栞を挟んでテーブルの上に置いた。

2人はが勧めるとおりに座った。

暫く話をしていてルナマリアが「あれ?」と言う。

「何?」

「ノルンちゃんとヴィンセントくんは?」

イザークとの間には子供が2人居る。

ノルンとヴィンセント。

名前を考えるのが面倒だったのでは...?と疑惑の眼差しを向けられたイザークだが、全く気にしていない。

大切な子に大切な人の名前を付けて何が悪い、と言い切った。



あの戦争から3年が経った。

評議会は条約を締結した後、ラクス・クラインに帰国要請を申し入れて彼女はそれに応じてプラントに戻ってきた。

そして、今は最高評議会議長に就任している。

ラクスから遅れてキラ・ヤマトもプラントに上がってきた。

そして、ザフトの中ではラクスを守る専属の部隊、親衛隊も編成されて、イザークはそれに組み込まれていた。



「ヴィンセントはジュール家で最も困難且つ重要な任務に就いてるのよ。今はね」

そう言っては笑い、自分が焼いたという菓子を勧めてきた。

「何だよ、それ」

シンは首を傾げながら勧められた菓子に手を伸ばした。

その言葉に笑っていたが「あ、」と呟く。

イザークが視線を向けると「降りてくるわ」と笑いながら返した。

足音が聞こえたのだろう。

皆で耳を澄ませると足音が2つ。

ひとつはすこし頼りない足取りだが、一定の間隔で聞こえる。

もうひとつは少し進んでは止まっているようだ。

少し待っていると「ははうえ」と声を駆けてきた子供が居る。

は膝をついて両手を広げた。

それを目にした子は走ってきてその胸に飛び込んだ。

そして、はたと気がついたようにから離れてぎこちなく敬礼を向ける。

「にんむ、かんりょうしました」

「ご苦労様です」

も敬礼を返した。

ヴィンセントはルナマリアたちに気づいて「こんにちは」と律儀に挨拶をする。

こちらはイザークにそっくりだとルナマリアは感心していた。

「ヴィンセントって、今いくつだっけ?」

シンが聞く。

「2さいです」

人差し指と中指を立ててそう応えた。

そしてに抱きついた。もう報告も終わったから甘えても良いのだ。


「あー...ヴィンセントずるい」

覇気のない声が届く。

顔を向けると“ザ・寝起き”という表情のノルンが立っていた。

先ほどのの言葉を思い出す。

「もしかして、ノルンちゃん。寝起き悪いんですか?」

「そうみたい」

が笑うと

「誰かさんにそっくりだからな」

とイザークがちくりと厭味を言った。

が、には通じないらしく「やっぱ親子よね」と言って笑っている。

イザークはこれ見よがしに溜息を吐いた。

「ほら、ノルン。ルナマリアたちも来てるのよ。顔を洗ってらっしゃい」

が促すとこくりと頷いて緩慢な動作で背を向ける。

「ぼくもついてく!」

に抱きついていたヴィンセントはぱっと離れてノルンの元へと駆けて行った。


少しして、目が覚めた表情のノルンがやってきた。

の頬にキスをしながら「おはよう、ママ」と声を掛け、イザークにも同じことをした。

ヴィンセントはまた一仕事を終えた、という表情での膝に載ってくる。

「もう少しでお昼だから、これ食べてなさい」

がそう言って焼き菓子を勧めた。

「はーい」と言って椅子に腰を下ろす。

「ノルンちゃんも、寝起き悪いのね」

ルナマリアが声を掛けた。

「そうなんです。これって絶対にママのせいだよ」

非難がましくノルンがを見る。

はからからと笑った。

「やぁねー。例えそうだとしても。私と同じ道となるならば、イザークみたいなしっかりした旦那さんが面倒見てくれるわよ。ちょっと口うるさいけど」

そんな事を言う。

イザークは溜息を吐いたが、

「そっか。ならいいや」

とノルンも納得した。

「まて、こら」

イザークは無駄だと知りながらも抗議の声を上げたが誰も拾わない。ただ、シンがどうしようと少しだけ困惑していた。

暫くしてまた来客を告げられた。

自分たち以外に招かれた人が居るとは知らなかったシンたちは驚き、そしてその人物を見て喜んだ。

「レイ!」

「どうしたの!?今日はホーキンス一家の大イベントでしょう?」

ルナマリアの言葉に苦笑する。

「まあ、そうだが。に声を掛けられていると言ったら、別行動で良いと言われたんだ」

ノルンが畳んである椅子を持ってきた。自分の椅子をレイに譲って自分はそれに座る。

レイは今、遺伝子関係の研究者をしている。

別に、デュランダルの遺志を継ぐとかそういうつもりはない。ただ、自分のような存在が生まれてこないように、そういうつもりでの研究者だ。

デュランダルから貰っていた薬は、今では自分で作っている。やはりそれがないと生きていく上で不便だった。

姦しい姉2人に囲まれているが、それなりに楽しい毎日を送っているそうだ。

「何で、レイが末っ子なの?」

「戸籍上は、誕生日順だが。父に声を掛けられた順で“きょうだい”になるのが妥当だろうと、フレイが。別に拘りはないからそれで良いと言ったんだが...」

そう言ってレイは遠い目をした。

それ以上、誰も何も聞けなかった。

は小さく笑う。レイもかなりの苦労人の様子だ。



暫くすると食事の用意が出来たと声を掛けられて場所を移す。

「レイは良く来てるの?」

「ルナマリアたちよりは、来てるかな?」

が応えた。

「この間、大変な目に遭ったんだよね?」

が言うと思い出したくもない、と言わんばかりの表情を浮かべた。

興味津々のルナマリアにレイは応えあぐねていた。

「...シンは、オーブ出身だから。“納豆”って知ってるか?」

レイが聞く。

「納豆?ああ、うん。食べてみたの?」

窺うようにシンが聞き返した。

レイは重く頷く。

「え、どうやって?」

「民俗学オタクが取り寄せてるの。アスランに頼んでね、送ってもらってる」

が笑いながら言う。イザークは彼女を軽く睨んでそのまま食事を続けた。

「腐った豆、凄いよね」

「発酵だ。それに、そういうなら、の好きなヨーグルトやチーズも腐った牛乳だぞ」

イザークが思わず口を挟む。

「そっか。豆と乳の違いか」

そう呟いたが、

「けど、私もアレはパスだな。糸が引いてるのが、どうも...」

と反対意見を出す。

「美味しいのに...」

シンは呟く。

イザークはその言葉を耳にして少しだけ心強いなんてことを考えていた。








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桜風
09.9.7


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