Like a fairy tale 31





ドッグ内のキャットウォークの柵に腕を乗せて体重を掛けながら自身が成り行きで持って帰った機体を眺める。

今は整備班が忙しくての機体に手を回せないそうだ。使える機体の方から整備をしていくということだ。

「何だ、此処にいたのか」

声を掛けられて振り返ると目の前にドリンクボトルが迫って来ていた。

それを手にとって降ろすとイザークがふわりとこちらにやって来る。

は、「ん」と短く返事をする。

そして、先ほどと同じように自身の機体を見上げた。

「少しは休んだらどうだ?」

最近のは訓練プログラムと食事はきちんとこなしているが、それ以外の時間は全てこのドックで過ごしている。

流石のイザークも心配になる。

「うん」と返ってくる生返事にイザークは盛大に溜息を吐いた。

「明日、ガモフに移送するんだって?」

不意に声を掛けられてイザークはの機体の隣のハンガーにある、自身の機体を見た。

「ああ。挟み撃ちするって話だからな。は出ないんだったな」

イザークに言われて頷く。

「あの子、私以外受け付けないからね。解析をするのが先だって。MSももう無いからさ、あのジン以外」

そう言って視線を移した。

がヘリオポリスで乗っていたジンは、ミゲルが搭乗することになっている。


「ねえ、イザーク」

口にストローを咥えたままがイザークに声を掛ける。

「何だ?」

「変なコト、聞いていい?」

の言葉に少し驚いたように眉を上げたいザークは目を眇めた。

「貴様の“変”には慣れたつもりだ」

イザークの返事には半眼になって無言の抗議をした。

しかし、気を取り直して

「もし、仮に。私がイザークと袂を別つことがあったら、どうする?」

と聞く。

イザークはきょとんとした。

そして首を傾げる。

「想像できんな」

「いいからして」

の言葉にイザークは肩を竦めて言われたとおりに想像してみた。

「想像したぞ。で?」

『で?』と聞かれたは膨れる。

「どうする?私が、ザフトの敵として現れたら」

イザークは眉を顰めての瞳をじっと見つめる。

何を考えているのか探るように。

暫くその状態は続いたが、の真意は見えず、溜息を吐いた。

「そうだな」と言葉を区切って。

「連れ戻すか。たぶん」

「それが出来なかったら?」

の言葉に溜息を吐く。

「まだ続くのか、この話」

「続くの。続けて」

子供みたいにわがままを言うに内心呆れながらも

「じゃあ、はどうなんだ?」

とマナー違反だと分かってはいたが、質問を返す。

「私?」というにイザークは頷く。

「私は、イザークが私に銃口を向けたら撃つけど」

とあっさり言われて飲みかけていたドリンクで咽る。

ひとしきり咽て「あっさり言うんだな...」と何だか複雑な心境に陥った。

「まあ、実際そういうことになったら別なのかもしれないけど。お父様に、言われてるから」

「カイン殿に?」

に聞き返すと頷く。

「自分にとって敵とは何か。それを決めていれば心が揺らぐことはない、って」

なるほど、と思った。

「それで、は自分に銃口を向けた者が敵か?」

「全部が全部にはならない、かな?“兵士で”ってのがつく。一応、これは命を奪う、っていう基準で言えばなんだけどね」

「でも、そうだよね、やっぱり迷うよね...」とはブツブツと続ける。


何だか本当におかしなことを言う。

これは、今抱えてでもを部屋に強制送還して休ませたほうが良いのではないかとイザークは悩み始めた。

、少し休め。やっぱりおかしいぞ」

イザークの言葉に「いやぁよ」とは軽く返す。

これは、やはり強制送還かと思っていたが「ノルンの解析、あとちょっとで再開する時間だし」とが言う。

「“ノルン”?北欧神話か。運命の女神...ああ、だからパスワードをスクルドにしたのか?」

「パスワードは私が考えたわけじゃないわよ。ちなみに、あの子の格納庫のパスワードが“norn”だったの。だから、もう名前もノルンでいっかなーって思って」

の言葉に溜息を吐く。

「態々MSに名前をつけなくても良いだろう」

「いやよ。“あの白銀色の”とか可愛くないじゃない。イザークのだって“デュエル”って言うんでしょ?私のも名前あっても良いじゃない」

「それにしても、入れ込んでるな」

感心してしまう。

最初は勘弁してくれ、といった表情を浮かべていたのに今のの表情といったら...

「うん。この子凄いの。シュミレートシステムにつなげて動きを確認してはみてるのよね。これは知ってるでしょう?」

イザークが頷く。直接MSにシュミレートシステムを接続して、その機体を使ってコックピット内でシュミレーションをしていくシステムだ。

「でね。この子、私の動きを覚えていくの。」

の言葉にイザークは首を傾げて「どういうことだ?」と返す。

「うーん、例えば。ジンってもう動きの限界とか決まってるでしょ?だから、それを最大限に引き出すにはパイロットが成長するしかない。けどノルンはちょっと違うのよね。ノルンは私の動きを覚えてくれるの」

「悪い、意味が...」

何となく漠然と分かりそうな、そうでないような...

「うーん。なんていうか、クセを覚えてくれるって言うのかな?やっぱり人の動きにはクセはあるものだと思うのね」

それは分かる。イザークは頷いた。

「だから、そのクセが分かっていたら動きってスムースになると思うの。機体がクセを覚えてくれると、コックピットの中で操作して、MSが動くっていう流れが、より早く、正確になると思うのよね」

イザークは首を左右に振った。やはり分からない。

「まあ、とにかく学習してるっていう感じがするのね。だから、きっとパイロットを固定する必要があったのよ。沢山の人が乗るような者だったらこの学習機能は逆にマイナスだわ」

既にまともに言葉を返すのが面倒くさくなったイザークは溜息を吐いた。

「イザーク、さっきから溜息ばかりじゃない。疲れてるのはイザークの方でしょ。休みなさいよ、いつ出撃命令が出るか分かんないんだから」

丁度もチーフに声を掛けられた。

も程々にして体を休めておけよ。何があるか分からんからな」

イザークはそう言って地を蹴り、ドックを後にした。









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桜風
08.2.25


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