Like a fairy tale 38





港に着くと、クルーゼ隊のクルーがヴェサリウスに乗り込んでいる。

の姿を見つけて声を掛ける者も少なくない。

は、乗んないの?」

オペレーターに声を掛けられた。

「ええ、新しい機体の調整を本部ですることになってるから」

の言葉に、艦内で結構噂になっていた機体のことを思い出し、頷いて「早く合流しろよ」と声を掛けて乗艦する。


...?」

振り返って、浮かんでいるアスランを目にする。

アスランが手を伸ばしたので、その手を取り、止める。

「どうしたんだ、こんなところに」

が乗艦しないのは知っている。だから、余計に驚いた。

「ああ、うん。ま、見送りみたいなものかな?...心配だね」

の言葉に『何が心配』なのか気付いたアスランは頷く。

「だけど、何かの事件に巻き込まれたわけではないだろうし。もしかしたら、連絡が取れないだけじゃないのか?」

アスランがそう言い、は昼間にホーキンスから聞いた情報を口にしそうになって留まった。

ホーキンスが機密事項を軽々と口にしたとなれば、それなりに彼の立場が悪くなる。それは、の望むところではない。

「でも、きっとヴェサリウスは捜索に出るんじゃないの?」

の言葉にアスランは驚く。

「このヴェサリウスが?まさか!」

全くそのことは頭にないらしい。

はどちらかといえば政治的なことには興味ないが、こういうときはどう考えてもアスランが動いたほうがパフォーマンスになるだろうということくらいは想像つく。

「でも、ラクス嬢のニュースを受けて召集が早まったんでしょう?」

の言葉にアスランは頷くが、「偶々じゃないか?」と返す。

まあ、どちらにせよ、休暇が短くなった事実は変わりない。

は、ここに居るのか?」

「ん?うん。これ以上奥に行ったら受付が混乱しそうだから。乗艦のためのID、持って来てないし」

の言葉にアスランは納得した。

そして、は「あ、」と呟く。

「何だ?」

アスランが聞くと

「ミゲル、異動になったよ」

と今朝目の当たりにしたものを話した。

ミゲルの突然の異動に驚いたが、それがホーキンス隊だと知ってアスランは納得した。

「あそこは、最近出来たばかりの隊だからな。パイロットを充実させたいみたいだ。それに、プラントの守備隊だからザフトの方でもその方針に賛成しているみたいだし。特にウチはパイロットが揃っているから引き抜きやすかったのかもな。けど、お陰でこちらは少し大変になりそうだ」

アスランの言葉には感心した。

女心とか、政治的なものには鈍感のようだが、軍内部の人事には意外と敏い。

「まあ、パイロットが現時点で2人も抜けてるんだもんね。けど、ラコーニ隊とポルト隊が加わるから人数が増える分、少しは楽になるんじゃないの?」

なるほど、と納得したアスランと少し話をしてアスランは乗艦の手続きに向かう。

の手を借りて船に向かおうとしたが、ちょっと留まった。

「どうしたの?」

「いや。...イザークに、何か伝言とかあるか?」

人のことには何となく気を回そうとするんだ...

そんなことを思いながらは首を振る。

「いい。何を言っても拗ねちゃうと思うから」

が帰ってこないのは知っているだろうが、たぶん面白くないとか思うと思う。

これは、自惚れだろうか?

はそんなことを思い始めたが、それに気付くことなくアスランは了承しての手を借りてヴェサリウスに向かっていった。



ヴェサリウスの出港を見届けた後、はチーフに言われたとおりに大人しく実家へと向かった。

軍本部内でまたしても遭遇したホーキンスにディナーに誘われたが、実家に帰るといったらあっさり引いてくれた。


は実家の前に着いて始めて気がついた。

「あ、連絡入れてないや」

プラントに帰って来ていることを父に連絡してない。

まあ、いいかと思って家のドアを開ける。

丁度部屋から出てきた父と目が合った。

「ただいま」

「お帰り」

少し驚いた表情を見せた父だったが、すぐに笑顔になり挨拶を返してくる。

自分の家の匂いに少し安心感を抱きながらは足を踏み入れた。

「いつ帰ってきたんだ?」

「昨日。お父様、夕飯は?」

「まだだ。が、材料が無いぞ。外に出るのは面倒だ」

父の言葉には諸手を挙げた。

「ピザがいい!」

「はいはい」と父はデリバリーの注文を始めた。

その間には自室に戻って服を着替える。

あー、何て楽なんだ...

そして、自室に山となっている箱を見つけて首を傾げた。

何だろう?物置にでもされたか...?

そう思いながらリビングに戻る。

父がコーヒーを淹れる準備をしていた。

「私がするよ」

「じゃあ、久しぶりにの淹れてくれたコーヒーを味わせてもらおう」

そう言って父はリビングのソファに腰を下ろして新聞を広げた。

父も家事に慣れているため、自分が居なくても家の中は綺麗なものだ。まあ、アカデミーに通っていたときからそれは分かっていた事だが。

マグカップをふたつ持ってソファに向かう。

「どうぞ」と父の前にマグカップをおき、自分のものもテーブルの上に置く。


「どうだった?初の実戦は?」

父の言葉には頷いて機密事項以外話をする。

しかし、情報を取捨選択しながら話をするのがこんなにも大変なことかと少々驚いた。

「あ、そういえばお父様」

「何だ?」

「私、お母さんになっちゃったんですよ」

の言葉に父は驚いてそのまま視線を娘のおなかに向けた。

「違います」

「何だ、違うのか。むしろ、FAITHになるよりも遙かに困難で尊いことだぞ」

子を持つということはそれくらいの価値があると言いたいのだろうが。

「違います。MSです」

の言葉に父は無言でその話の続きを促す。

は自身の分析を父に聞かせてみた。これも、一応機密事項とされているものは全て伏せていたのだが。

「ノルン、というのだったな」

という父の言葉で全てが台無しになる。

「...知っててさっきの反応ですか?」

が半眼になって父に言うと

「まあ、そう怒るな。もしかしたら、とも思ったんだ。イザーク君とは同じ艦内にいるのだし、ない話でもないだろう?」

と全く悪びれることなく言われた。

「『ない話』ですよ。全く、何考えているんですか。第一、イザークはガモフで私はヴェサリウスです」

の言葉に父は「ん?」と首を傾げ、「何だ、一緒じゃないのか」とつまらなさそうに言う。

「ええ、違います。まあ、途中までは一緒にヴェサリウスでしたけど、イザークはガモフに移りました」

「何だ。気が利かんな、クルーゼ隊長は」

父の言葉にはこれ見よがしに深い溜息を吐いた。が、父はそんなの全く気になることはなく、まだ「何だ、残念」と呟いていた。


「しかし、。当分は本部に詰めるんだろう?」

「ええ、まあ。ノルンのことがありますから」

の返事に父は少し眉を顰めた。

「だったら、ホーキンスが煩いだろうな」

「ああ、ホーキンス隊長は今日も会いましたよ。お昼をご馳走していただいて、休憩時間はコーヒーをご馳走していただいて、今日はディナーに誘われましたが、実家に帰るのでとお断りして今此処に居るんです」

「悪い虫だな...」

苦い顔をして呟く父には「そうかな?」と首を傾げた。









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桜風
08.3.10


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