Like a fairy tale 70





パナマからカーペンタリアへの帰投する途中、オーブへと進路が変更になった。

数日で取り敢えずこの狭い艦内とおさらばという所だったのに、は進路変更にガックリと肩を落とした。

今度はオーブか...

中立国オーブは地球軍から圧力を受けている。

地球軍に協力しない場合は、ザフト援助国とみなして攻撃を加える、と。

そして、ザフト側からも会談を申し込んでいるという。

確かに、オーブの軍事力はどちらにとっても魅力的だ。

以前潜入した時の国の様子を思い出す。

ニコルは「正にヒツジの皮を被ったオオカミですね」と言っていたが、確かにそんな感じだった。

取り敢えず、オーブは地球軍にもザフトにもつくつもりが無いというから、オーブ近海でオーブと地球軍との戦闘の様子を偵察といったところが今回の作戦内容だ。

正直、偵察なのでとイザーク、MSパイロットは出番がない。

イザークは手持ち無沙汰に艦内を歩く。

のノルンみたいに手が掛かればこういうときは時間を持て余すことはないのだが。


イザークが艦内を歩いていると見慣れた赤い髪を目にする。

放っておこうと思ったが、意外と面倒見のいいイザークは困ったように周囲を見渡している彼女を見て見ぬフリができずに声を掛けてしまった。

「何をしている、こんなところで」

イザークの突然の声に彼女は驚いたようだ。

「あ、あの...」

何か言おうとして俯く。

イザークはちょっとだけイラッとした。

「迷ったのか」

思い当たることを口にすると彼女は頷く。

「まったく、何をやってるんだ。自分の乗る艦の構造くらい覚えておけ」

イザークが鋭い口調で言う。

「ごめんなさい...」

項垂れてフレイが謝る。

「で、何処に行きたいんだ」

イザークの言葉に驚いたように顔を上げる。

「何処に行きたいんだ、と聞いているんだがな?」

「あ、部屋に...」

「自分の部屋にも帰れないのか。オイオイ...」

フレイにはクルーゼの権限で個室を手配した。

しかし、イザークは興味の欠片もない他人の部屋までは覚えていない。

どうせの部屋の近くだろうと適当に辺りをつけて歩き出した。

フレイは慌ててイザークの後を歩く。

「お?イザーク。お前、女の子を連れて歩いてるとに『イザークの浮気者!もう知らない!!』って怒られるぞ」

擦れ違ったクルーが言う。

イザークは面倒くさそうな表情を向けて

「残念ながら、はそんな可愛いことは言わないんでね」

と応えると、彼はからかうようにピュ〜と口笛を吹いて去っていく。

「あの...」

今の話が気になってフレイがイザークに勇気を振り絞って声を掛ける。

「何だ」と短く冷たい声が返ってきた。

とは、恋人なの?」

イザークはチラリと振り返る。

「婚約者だ」

「え!?」

フレイは頓狂な声を上げる。

そんな彼女の反応にイザークは不機嫌に「何だ」と聞く。

「え、いえ。あの。あんまり、そんな感じに見えなかったから。仲がいいな、とは思っていましたけど」

イザークは溜息を吐き、

があの性格だからな」

と返した。

しかし、それは本当にの性格だけによるものだろうか?とフレイの胸には何となくそんな疑問が浮かんだが、口に出すことはしなかった。

なぜなら、口に出すと怒鳴られそうだから。

が怒鳴られるのを見るのは何とか慣れたが、自分ひとりのときに怒鳴られると怖くて仕方ないと思うだろう。



暫く歩いてイザークが足を止める。

「お前の部屋はの部屋の近くだろう。此処まで来れば分かるんじゃないか?」

イザークに言われて周囲を見渡す。

確かに、何となく分かる。

分からなかったら、このの部屋の前に立っていれば彼女が案内してくれるだろう。

そう思ってフレイは頷き、「ありがとう」と礼を言った。

「いや」とイザークが返事をすると

「イザークの浮気者!もう知らない!!」

という声が耳に届く。

ぎょっとしてそちらを見るとが立っていた。

「な!?、誤解だ。これは、コイツが自分の部屋が分からないというから...」

慌てたイザークが慣れない言い訳をする。

が、は声を上げて笑い出す。

イザークは眉間に深い皺を刻んだ。

?」

イザークが促す。

「ごめん、ごめん。あのね、さっき事務官の人に会ったの。それで、イザークが女の子、まあ、フレイだって分かったんだけど。『女の子を連れていたから“浮気者って怒られるぞ”って言ったら“そんな可愛いことは言わない”って言われたぞ』って教えてもらったから。言ってみようかと思って、可愛いこと」

がにこりと微笑みながら応える。

あの擦れ違ったクルーに対して舌打ちをして、を睨む。

確信犯のはわざとらしくイザークから視線を外して鼻歌を歌い始める。

、貴様ぁ...」

唸るイザーク。


フレイは咄嗟に耳を塞いだ。

そんな自分の行動に驚く。

何だ、意外と慣れてきたようだ。

全く婚約者同士には見えないこの2人のやり取りを眺めながら、何となく自分に感心した。









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桜風
08.5.26


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