Like a fairy tale 76





はポツポツと墓標に向かって話をする。

今、ザフトに居ること。

沢山死んだ仲間がいること。

そして、それと同じ数だけ奪った命があること。

「ねえ、ママ。最初は私、嫌だったんだよ」

イザークとのこと。

最初はイザークと婚約者なんて嫌だった。

嫌いじゃないけど、それは友人としてだ。イザークの方ものことを嫌ってはいなかったと思う。

けれど、婚約者ともなると話は別だ。

そう思って反発もしていた。

父が決めたことだからきっと避けることは出来ない。しかも、婚姻統制の下での婚約だ。逃れられるはずがない。

だから、諦めて婚約者であることにした。

態度はいつもと変わらなかったと思う。けど、彼が婚約者だということはなるべく意識した。

そして、今まで見ていなかったイザークの内面に触れるうちに惹かれていった。ちゃんと、好きになれると思った。

凄く、安心した。

だから、ラスティにイザークのことを好きかと聞かれて微笑むことが出来た。

同じ隊で一緒に居て、なるべく彼のフォローに回っていた。


初めて撃墜されて、1日艦に戻れなかったことがあった。

そして、帰ったらイザークに抱き締められた。

泣きながら震えながら抱き締められた。

もう大丈夫だと思った。

自分は、彼を愛せる。

沢山母に聞いてほしいことはあった。

そして、一緒に笑って、困って、怒って。

そんな時間を共有したかったけど、それは叶わなかった。でも、今は幸せだ。

少しだけ寂しいけど、不幸ではない。だって、にはちゃんと未来がある。沢山苦労をするだろうけど、それはまあ、仕方がない。

「ねえ、ママ。お父様を、守ってね」

昨日から嫌な予感が胸で燻り続けている。

母にそうお願いして、墓標を後にした。


駐車場に戻るとイザークが車に背を預けて立っていた。

「もういいのか」

の姿を見つけてそう声を掛けてくる。

は頷いて車のドアを開けようとしたらイザークがドアを開けてくれた。

「ありがとう...」

調子が狂う。

イザークはフッと笑って運転席へと向かった。

「どこか行くか?」

イザークが時計を見て声を掛ける。

まだ昼少し前だ。

「うーん、どうしよう。今朝ご飯が遅かったからな」

が応えると

「じゃあ、少しドライブでもするか」

イザークが提案してが頷いた。


「聞いてもいいか?」

イザークが口を開く。

「何?」

の母上は、何故亡くなったんだ?」

イザークに聞かれて驚いた。

そういえば、話していなかった。

イザークも聞いていいものか悩んでいたまま、今の今まで聞けなかった。

「事故、だよ...」

意外そうな表情を浮かべてイザークはを見る。

睫毛を伏せたは少し寂しそうな表情を浮かべていた。

「病院で3日は生きてたの。殆ど昏睡状態だったけど、時々意識が浮上してきてた感じ。目を明けて『カインさん』ってお父様の名前を呼んで返事がなかったからまた目を瞑って...」

「カイン殿は、ザフトで?」

聞いていいものか悩んだが、此処まで聞いて遠慮するのはどうだろうと思い、重ねて聞いてみた。

「うん。地球軍と緊張状態のど真ん中だったんだって。お祖父様は、ザフトに連絡をしたんだけど、それが伝えられることは無かった。お父様はママが亡くなって1年後に、帰ってきた。部下を助けに行って負傷したから。療養しなさいって言われて」

帰ってきたら、愛する妻が1年も前に亡くなっていた。連絡がすぐに行けばもしかしたら妻と最後の別れを、言葉を交わすことが出来たかもしれないのに...

それは、彼にとってどんなに悲しいことだっただろうか。

ふと思い当たった。

「まさか。だから、カイン殿は国防委員会からの就任要請を拒否されているのか?」

「それは私には分からない。聞いてないからね。けど、お父様はザフトが嫌いよ。たぶん」

イザークはまた驚く。

は、それなのにザフトなのか?」

「言われると思った」と呟く。

「お父様、私に自分の持っている戦闘技術を教え込むのよ。お祖父様も、色々教えてくださった。私にとって、ザフトに入る事はごく当たり前の事だった。お父様のことも知ってる。それでも、私は選んだの」

「そうか」というイザークに

「ねえ、イザークは何でザフトに入ったの?」

が聞いてみた。

いつだったか、アスランがニコルに聞き、にも向けた疑問だ。

「許せなかったからだ。血のバレンタインが」

「そっか」

は呟く。

は、“”だからなのか?さっき選んだと言っていたが...」

は首を振る。

「守りたかったから」

「守る?」

イザークは眉間皺を寄せる。

「そ。前も言った事があると思うけど自分の未来を守りたかったから。自分の描いた未来を、ね。きっかけはイザークと同じく血のバレンタインだけどね」

「...その割には、コックピットを狙わないな」

イザークが言うと

「殺したら、その家族が、友人が、恋人がまた復讐を誓うよ。そして、この先もずっと戦争は無くならない。と、私は思ってる。ナチュラル全部を滅ぼすって、現実的ではない気もするし」

「そんなこと!」

イザークが否定するが

「どうやるの?ニュートロンジャマーを無効化する何かを作って核を持ち出してドッカンいく?ユニウスセブンのように。それでも地球は壊れないよ、たぶん。だから、ナチュラルは生き残るだろうし、そうなったら今度は生き残った人たちがプラントを破壊しに来るよ」

が言う。

イザークは俯いた。

「だったら、どうすればいいんだ」

「わからない」

の応えにイザークはキッと睨む。

「はい、前を向いて」

運転中というコトを忘れていたイザークにはそう促した。

「本当に、何が正しくて、何が間違いなのか分からないの。だから、自分の信じた道を進むしかないんじゃないの?私は、そうするつもり」

の言葉にイザークは言葉を返さず、ただ前向いてハンドルを握っていた。

外は快晴だというのに、車内は少し空気が重かった。









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桜風
08.6.9


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