Like a fairy tale 89





部屋の窓から出撃していくノルンを眺めていた。

「ん..」と唸り声が聞こえて振り返る。

体を起こそうとしているカインの姿があった。

「大丈夫ですか?」

イザークは銃を懐に入れてカインが起きる手伝いをする。

「ああ、すまない。あいつめ。父親に渾身の一撃を食らわせやがった」

言葉が雑になっている。イザークは少しだけ驚いたが、ホーキンス隊長と会話をしているときも何だか砕けた感じだったのを思い出す。

は?」

「出撃しました。私は、連れて行ってもらえませんでした」

イザークの言葉に「そうか」と返す。

から、これを預かっています」

そう言ってから渡された銃を渡した。

イザークも自分の銃に手を掛ける。

「最後は、潔く自分の手で死ねという事か...慈悲深い娘だ」

「そんなことは...!」

止めようと声を上げたがカインはこめかみに銃口を当てる。

引き金を引くために指に力を入れたが、銃を降ろした。

イザークは目を瞠る。何が起きている?

カインは銃倉を取り出した。

「まったく、火薬の詰まっていない銃弾を仕込むとはどういう了見だ?」

弾をひとつ取り出した。

「は?」とイザークが声を上げるとカインは弾を摘まんで、

「重さが違う。これだけ入っているのに、軽いんだ。はまったく...」

そして、銃弾を開けてみる。中から電子チップが出てきた。

眉を顰めてカインはそれをまじまじと見た。

「パソコン、あるか?」

カインに聞かれて少し離れた場所に置いていたパソコンを持ってきて渡す。

カインはチップを入れてみた。

圧縮されたファイルがいくつもある。動画、静止画、そして、テキスト。

一番日付の古い動画を開けてみた。

そこに流れる映像に、カインは呆然とした。





壮年の男が映っている。

「私を映してどうする」

彼が言う。

「あら、だって。お義父様が態々いらしてくださっているのですから。カインさんにもちゃんとお知らせしないと」

女性の声がした。の声によく似ている。

「しかし、それでの成長を記録すると意気込んでいたではないか。を映したらどうだ?」

彼が言うと

「だって、今は良い子でお昼寝をしているんですよ。子供の寝顔を見ているとこっちまで眠くなってしまいます。お義父様、残念でしたわね」

とカラカラと笑う。

遠くから赤ん坊の泣き声が聞こえる。

「大変!」

そう言ってカメラは彼に押し付けたようでパタパタと足音が遠ざかって行く。

「やれやれ...」

カメラが子供部屋へと向かった。

「ああ、もう。ごめんね、。はいはい、泣かないで」

子供をあやす母親の姿が映る。





...?」

カインと共に映像を見ていたイザークが思わず呟く。

「父には会っただろう?17年前は、まだ元気だった。これが、の母だよ。私の、妻だ」

涙を流しながらカインが言う。

優しくわが子を抱き、あやすその姿は理想の母と言ってもよい。が、本当ににそっくりだ。

ただ、髪の色が違う。綺麗な、白銀色をしていた。





「そういえば、お義父様。お義母様にはちゃんとこちらにいらっしゃてることをお話されているのですか?」

の母が自分の胸で眠るを抱きながら声を掛ける。

「言うわけないだろう。アレは私がカインと会うのを嫌っているのだから」

「そう、ですか...」

の母が俯く。

「すまないな。カインを本家に迎えてやれなくて。お陰でお前たちも式を挙げられなかった」

彼の言葉にの母は首を振る。

「何を仰ってるんですか。それでも、カインさんが居るのはお義父様のお陰でしょう?も居ますし。そうそう、お義父様。お願いがあるのですが」

「何だ?」

「この子の、対となる遺伝子を持つ人を探してください。どうせ近々婚姻統制が可決されると聞きました。だったら、早くても構わないでしょう?」

彼女の言葉に彼が「それにしても、早過ぎないか」と驚いた声を上げる。

「良いじゃないですか。えーと、急がば回れ!あ、あれ。これは違う。えーと...」

の母が一生懸命諺を探している。

「ははは」と笑い声が聞こえた。

「まあ、良い。探しておこう。だが、にそんなのが居るのかな?この子は、遺伝子操作をしなかっただろう」

「ええ、だって。最初から何でもかんでも子供のことが分かるなんて全くつまらないです。一緒に悩んで、沢山困って笑って。泣いて...この子は、嫌だったというかもしれませんが、一緒に苦労をしたいんです。でも、私とカインさんがコーディネーターだからこの子だってコーディネーターですよね?」

「まあ、そうだな。分かった、探してみよう。見つからなくても文句はいうなよ」

「言います」

の母の返答に声を上げて笑う。

「重要任務じゃないか」

「そうですよ。...お義父様。もう遅いですよ。お帰りになった方が...」

心配そうにの母が声を掛ける。

「ああ、もうこんな時間か。本家に居るよりも此処に居るほうがよほど心が休まるわい。ではな、ノルン。ちゃんと戸締りを忘れるなよ」

そう言ってカメラがテーブルの上に置かれた。

「大丈夫です、私にはお守りがあります」

の母、ノルンの言葉に苦笑が返る。

「我が息子ながら、その話を聞いたときには呆れたよ。自分の惚れた女に最初に贈ったプレゼントが拳銃だからな。それでよく、お前がアレを受け入れてくれたと驚いたよ。よほど、その彼女も変わり者だったのだなとな」

「あら、一生懸命悩んだ挙句、どういうのがいいか分からないから自分が貰って嬉しいものをプレゼントしてくださったんですよ。それって、凄く素敵なことじゃないですか。まあ、最初はリアクションに困りましたけど」

笑いを含んだ声で彼女が返す。

「君みたいなのが居てくれて、カインは幸せ者だな」

彼が言うと

「残念でした。私が幸せ者なんです。まあ、たまにしか帰って来ないのが、玉に瑕ですが...」

とノルンが返した。

「また来る」という声と共にノルンの声も遠ざかって行く。見送りに出たのだろう。





カインが停止を押した。

「ノルン、と仰るのですか」

墓標の前に立ったのに気付かなかったとイザークは反省する。

「ああ、運命の女神の名前らしいな。が自分の機体にそう名付けたのを聞いて驚いたが...」

「この拳銃は...」

「今笑いながら父が言っていただろう。ノルンに最初に贈ったものだ。目の前で大爆笑をされたときには流石に間違ったと気付いたがな」

微笑を浮かべながらカインは目を細める。昔を懐かしむように。

そして、「そうか、」と呟き別のチップを入れた。

日付から言ってが2つのときのものだ。









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桜風
08.7.7


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