| 「あ?何だ、ありゃ...」 清春が夏休みの午後、本日は補習をサボってストリートバスケに興じていたその帰り、人通りの多い歩道の真ん中に何かを見つけた。 人々は奇妙な目でそれを見ていたが声を掛けることもなく、ただ、避けてその傍をすり抜けていく。 「何してんだよ...」 溜息交じりに清春はその塊、というか四つんばいになっている人物に声をかけた。 「おい、ヘチャ」 彼女は気だるそうに顔を上げて目を細めた。逆光でよく見えないが、 「仙道、くん?」 声は聞いたことのある人物のそれだった。 「そうだよ。仙道清春様だ。で、お前は何してんだ?ヘーチャ?」 「うん、ゴロちゃんと約束してて。一緒にイラスト販売に勤しむって約束したから...」 息も絶え絶えにが言う。 清春は深く溜息を吐いた。 そして、の腕を引いて路肩の街路樹の下まで連れて行く。 「お前、調子悪いんだろうが。携帯でいけなくなったって一言入れりゃいいだろうが」 面倒くさそうに言ったが、「携帯忘れた」というの言葉にまた深く息を吐く。 「なぁにやってんだよ。時間は?」 「えーと、..もう過ぎちゃった...」 力なく言うに清春は溜息を吐いて自分の携帯を取り出してダイヤルする。 「おい、今日ヘチャと何か約束してたな?ヘチャ、行けそうにないってよ。携帯忘れたって言ってるから連絡入れるのが遅くなったみたいだぜェ?」 はぼんやりと清春を見上げる。 暫く会話をしていたが、通話を切ってを見下ろす。 「救急車いるか?」 「やだ!絶対にやだ!!」 親切心で言った言葉を思い切り拒否された。 流石に清春もそれは意外だったらしく、一瞬目を丸くしたが、 「んじゃ、どうするつもりだよ」 と面倒くさそうに言った。 「日陰に連れてきてもらったから。此処で休んでたらきっと良くなるよ」 がそう言った。 清春は心底呆れた表情をに向けた。 そして、何処からともなく出した水鉄砲から水を出して撒く。 何をしているんだろう、とが清春を見ると 「水掛け論ってあるだろうが」 と言う。 「...打ち水?」 「それだ、それ。涼しくなるんだろ?」 よく知んねぇけど、どこかで聞いたと呟いている。 「...ありがとう」 本当はこんな昼間にしてもあまり効果はないのだが、それでも気持ちが嬉しい。 「仙道くんって、お兄ちゃんとかお姉ちゃんとかいるでしょ?」 「何で知ってんだよ」 あの奔放な性格からいってそうだと思った。 「でも、下も居るでしょ?弟とか、妹とか」 「...いるぜ?聖帝に双子だけどなァ。あいつはクラスAだ」 そう言った清春には苦笑した。 「嘘だ」 「んでだよ!」 「もし、仙道くんの弟があのクラスに居たら、絶対にB6に因縁をつけるときに比較対象として出すはずだもの。先生は騙されてるみたいだけどね。ハジメちゃんも苦笑してるだけでそれは訂正しないんだもん」 笑いながらが言う。 チッと清春は舌打ちをした。 その様子を見ては笑う。 すると清春はすっくと立ち上がった。 「あ。ありがとうね、此処まで連れてきてくれて。夕方になったら何とか帰れると思うから」 そう言ったを見下ろしてそのまま去っていった。 いやはや、清春も意外と優しいなと思っていると意識が段々遠のいていく。 こんな大都会のど真ん中でこれはまずいだろう。 どうしたものかと回らない頭で考えていると目の前に人が立った。 「ったくよー。オレ様も優しいよなー」 そう言って屈んできたのは帰ったと思った清春だった。 おでこに何かひんやりとしたものが貼られる。 「とりあえず、これ貼っとけ。ヘチャは頭がいいってところしか長所がないんだからよ」 風邪などを引いたときにおでこに貼る冷却剤を貼られたようだ。 「ありがとう」 「あと、水分摂っとけ。もしかしたら熱中症って奴じゃないのか?」 そう言ってペットボトルのスポーツドリンクを渡してくる。 「うわ、優しいね」 「うっせぇ!つか、お前はオレ様が仕掛けたトラップ全部回避してるんだからな。一度くらい掛かってから死ね」 そう言ってそっぽを向き、の隣に腰掛けてまた水鉄砲を発射させ始めた。 「ナギに連絡入れてやったからな。あいつならお前を負ぶって家まで帰れるだろうしよ」 「ありがとう、仙道くん」 「...清春って呼べ。いつまでも“仙道くん”って何か気持ち悪いんだよ。ブチャだってオレ様の事を名前で呼んでんだからよ」 「ありがとう、ハル?」 が言うとフンと鼻を鳴らした。 「ったく...おせーなナギの奴」 清春の呟きを聞きながらはそのまま意識を手放した。 |
桜風
08.7.18
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