| 稼動しているコピー機の前で悠里は溜息を吐いていた。 「さすがさん...って、感心してちゃダメよ!」 「どうしたんだ、南」 不意に陰ができて、振り返ると九影が立っていた。 「あ、いえ...」 「ほぅ...これは」 コピーを終えたプリントを手にした九影が感嘆の声をあげる。 「これは、南が作ったのか?中々ポイントもしっかり押さえていていい問題じゃねぇか」 九影の言葉に悠里は少し口ごもり、やがて「さんです」と応えた。 「?」 眉間に皺を寄せて九影が問い返す。 何をしていなくともヤの付く自由業に見られがちの彼の眉間に皺が寄ればその迫力が増してしまう。 「さすがですね」 不意に加わった声に悠里は短く声を上げ、九影も眉を上げて驚きの表情を浮かべている。 「キヌさん!?」 「ああ、驚かせてしまいましたか?すみません」 言葉では謝っているが全く心がこもっていない。 「あの、衣笠先生」 悠里が衣笠の言う“さすが”の意味を知りたくて彼の名を呼んだ。 「さんは悠里先生と違って僕たちの授業に出ていますからね。授業中、僕の言ったポイントを押さえていますし、授業のペースが分かっているから次の授業の予習問題も入っていますね。 このプリントをやった子は次の授業では少し理解が出来て、少しは数学を楽しいと思うかもしれませんね。今日のさんの生徒は誰ですか?」 衣笠の問いに「瞬君と悟郎君です」と悠里が答えた。 「では、次の授業ではこの2人を当ててみましょうかね」 衣笠は楽しそうに言ってその場を去った。 悠里は衣笠の背中を見送り、九影は自分が手にしている理科のプリントを眺めている。 「は、親父さんが天文学者だって聞いたが...」 「ええ、そうみたいです。今はアメリカの大学にいるそうです」 応えた後、悠里は短く息を吐いた。疲れが顔に出ている。 4月から放課後は補習の毎日で、体も気も休まっていないのかもしれない。 押し付けたくせに妙にプレッシャーを与える校長や学年主任の存在も彼女を疲れさせている原因のひとつだろう。 が手伝っているとはいえ、悠里が責任者という立場は変わらない。 「南、課外授業ってのをしてみないか?」 九影の言葉に悠里はきょとんとした。 「課外授業、ですか?」 「ま、補習の課外授業ってことだがな」 そう言ってニッと笑う九影に「はぁ...」と悠里は曖昧に頷いた。 「課外授業!?」 5人の声が綺麗に揃う。 例によって瑞希は寝ている。 「どういうこと、キューちゃん!?」 悟郎が詳しい説明を求めると九影が言う。 「今、テレビや新聞のニュースとかで言ってるだろう、流星群がやって来るとか何とか。それが、丁度今度の連休がピークなんだ。それで、丁度いいから天体観測を兼ねて外で補習でもどうかと思ってよ。キヌさんが別荘を貸してくれるって話だしよ」 九影の話に興味を示したものも居るが、「俺は欠席する」と瞬が言った。 「おい、七瀬...」 九影が訴えるように名を呼ぶが「バイトがある」と短く瞬が返す。 彼には生活が掛かっている大問題だ。 しかし、この経験がヴィスコンティのレベルアップに繋がるのではないか、とかその間の生活費や光熱費がタダである等の言葉に結局負けてしまった。 「」 放課後の補習前の時間に出された提案であったため、の同席していたのだが、この話は自分には関係のないものだと思っていたため、突然九影に名前を呼ばれて驚きの表情を浮かべた。 「何でしょう?」 「お前も来いや」 「...は!?」 「この補習合宿は南も同行するんだが、1人部屋は嫌だと言うんだ。流石にこいつらの誰かと同室っていうわけにはいかねぇだろう?」 そりゃそうだ。 しかし、それが本当に理由か?と思っては悠里を見た。 彼女は手を合わせてお願いしている。 ひとり部屋云々はともかく九影が居るとはいえ、彼らの面倒を見るのは大変だろう。 まあ、別に用事があるわけでもないしなー... そんな事を思っていたが、 「その衣笠先生の別荘って言うのはもちろん、コックが居るんだろうな?」 と翼が言うが、 「居るわけねぇだろう。お前の家とは違って自分たちで作るに決まってるだろう」 と九影があきれたように返した。 「あの、私が頑張ってみんなのご飯作るから」 悠里がそう控えめに言った。 皆が一斉に息を飲む。 「!」 一が切羽詰ったようにの名前を呼ぶ。その目は必死だ。言いたいことははすんなり理解した。 B6全員の顔を眺める。彼らの気持ちは今ひとつになっている。 悠里の作った食事は口にしたくない。 は溜息を吐いて片手を上げて諦めたように数回頷いた。 仕方ない... 息を詰めての反応を見守っていた彼らは安心したように息を吐く。 6人の反応の意味が分からない教師2人は首を傾げた。 |
桜風
08.9.12
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