Dear my friends 41





大型の乗用車のレンタカーで山中を走る。

車内は各自自由に過ごしていた。

ちゃん、何聞いてるの?」

の前の席に座っていた悟郎がひょいと顔を出して声をかけてきた。

は窓側に座っており、隣は瑞希でいつもどおり寝ている。の肩に瑞希の頭が載っている状態だ。

悟郎の声に反応して瞬もその答えに注目している。はイヤホンを外して「演歌」と短く応えた。

暫く車内に沈黙が訪れた。

「おい、。随分と渋いな...」

九影があきれたように呟いた。

皆は心の中で同意する。

「特に音楽のジャンルに拘りがあるわけではないんですよね。クラシックだって聞くし、ジャズのCDも持っていますよ」

「そういや、この間ゲームのサントラ貸してもらったよな」

一が呟いて苦笑した。

彼女は読んでいる本もジャンルに偏りがない。

前は国語辞典を読んでいたのを思い出した。


半日近く車を走らせてやがて隣県の衣笠所有の別荘に着いた。

この衣笠の別荘は和風だった。

「電気とガスは?」

「一応、通ってるって聞いたぞ。あと、水道も大丈夫だが、裏に井戸があるんだとさ」

九影に聞いては裏に回ってみる。

本当に井戸があった。

「すごーい」

思わずは呟く。

と裏に回ってきていた清春が思わずそう呟いたの顔を見た。

いつも“澄ましている”というイメージのあるの表情が珍しく年相応と言うか、目を輝かせているという表現が妥当だろうか。そういう顔をしている。

「んだよ...」

何だかいつもとちょっと違うに清春は少し困惑して呟いた。

「ハル?何か言った?」

「なァんにも。っつうか、あの井戸、使えるのか?」

「どうだろう」と呟きながらは井戸の傍の手押しポンプの元へと足を運ぶ。

清春もに続いてポンプの元へ向かった。

ためしにポンプを押してみる。

水が出ない。

「壊れてるんじゃねェの?」

清春が言うとは少しシュンとした。が、何かを思い出したように別荘に足を向ける。

どうしたんだろう、と思って清春はまたもやの後を歩いた。

は別荘内のキッチンで鍋に水を張って、それを持ってまたしても井戸に向かう。

「持ってやるよ。んで、これをどうすんだ?」

が重そうに鍋を持っているのを見かねた清春が彼女の手の鍋を持って井戸に足を向ける。

「昔、本で読んだことがあるから」

「お前、何かっつうと“本”だな」

「わたしの先生だもん」

はそう返して井戸のポンプの傍で足を止めた。

ポンプを上から覗き込もうとしたが、背が足りない。

一だったらをひょいと持ち上げてくれるだろうが、流石に清春にそれは期待していない。

「ここに、たぶん水を入れられるところがあると思うんだけど」

そう指差す先に、何となくだが、確かにある。

「ここに入れれば良いのかァ?」

「うん、たぶん。これでダメだったら諦めるわ」

肩を竦めて言うに、同じく清春も肩を竦めての言ったそこに水を流し込んでみる。

その間、はポンプを押した。

「あ、出るかも」

が呟いたと同時に水が出来た。

「おー、スゲーじゃねぇか」

清春も少し楽しそうに呟いた。

「でも、これって飲めるのか?」

「飲んでみてよ」

清春の問いにはさらりとそう返す。

「て、テメェ...!」

清春が絶句してを軽く睨むとは手を止めた。

「んじゃ、ハルが此処押してて。わたしが飲んでみる。大抵のものに免疫が出来てるはずだから」

そう言って清春と変わろうとしたに「あー、いい。オレ様が仕方ないから毒見してやる!」と清春がそれを制した。

がいう、大抵のものに免疫が出来た原因と言うのはきっと両親による育児放棄の結果だ。

それに、に毒見をさせたと知ったら幼馴染コンビがうるさいに決まっているし、悟郎や瞬、悠里にも怒られそうだ。

食あたりにあったらここに居合わせた、というか、の行動に興味を持って一緒にここに居た自分の不運を呪おう。

もしかしたら、悠里が付きっ切りで看病してくれるかもしれないし。

そんな事を思いながらが押すポンプから出てくる水を手で受けて口に運んだ。

「あ、うめぇ...」

素直な感想が口から漏れた。

「ホント?じゃあ、夕飯にこれ使おうか。ちょっと手間だけど」

「飲んでみろよ」

そう言って清春はポンプを押す役を変わってみる。

は言われたとおり、清春が押すポンプから出てくる水を手ですくって口元に持っていく。

「あ、ホント。ちょっと甘いね」

「おー、使えるんじゃね?」

そんな会話をしていると「清春ー!ー!」と一の声が届く。

「あ、呼んでる」

そう言っては清春を振り返った。

「仕方ねェな」と呟いて清春もポンプから手を離して一たちのいる表へと向かった。









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桜風
08.9.19


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