| 職員室に向かって日誌を取りに行った。 「おはようございます。日誌を取りに来ました」 悠里に声を掛けると机の上に用意していたそれを渡される。 「あら?今日はさんが日直だったかしら?」 「はい。草薙君と一緒です」 ああ、幼馴染コンビか。が一緒だったら絶対に草薙はサボらないな... 周囲の教師たちはそんな事を思っていた。 「何だ、呼び出しか。さすが、クラスXだな。やはりクズの集まるクラスはどんなに成績が良くてもクラスAのように素行のよさは見習えないってことだな」 は声を掛けてきた男子生徒を一瞥してそのまま黙殺し、「じゃあ、失礼します」と少しムッとした表情を浮かべている悠里に一言声を掛けてドアに向かっていった。 「おい、無視をするのか。クラスXごときが、クラスAを無視していいと思っているのか!?」 はこれ見よがしの溜息を吐いて面倒くさそうに「名前は?」と聞く。 彼は胸を張って“クラスAの”という言葉を態々つけて名乗った。 数秒悩んだがぽん、と手を叩く。 「ああ、1学期の中間以降ずっと36位のクラスAの人ね。わたしがもしクラスAに編入させられていたらクラス落ちしていた人ね。はいはい」 そう言った。 彼は激昂してに掴みかからんとしたが、「やめろ」と声を掛けられて手を止めた。 「ちゃん、彼を苛めるのはやめてくれないか」 岡崎の登場だ。 「話がしたいって言うから応えただけだけど。でも、苛めてしまったと言うなら謝るわ。本当の事を言ってごめんなさい」 の言葉にまたしても男子生徒は怒鳴りつける。 「やめろといっている。ねえ、ちゃん。君みたいな優秀な生徒が何でこうもクラスメイトを庇うんだい?あんなおちこぼれの集団」 「勉強が出来なかったら価値がないなんて狭い視野の話をしたいのなら、この部屋の中の先生たちとお話してね。わたしはそんな物差しで図った“優秀”に全く興味ないから」 「お前、岡崎さんに向かってなんて事を言うんだ!」 「...なんで同級生に“さん”を付けられてるの?」 クラス証を見たらクラスAの生徒で、同学年と分かる。 「ああ、ま。それだけ慕われているってことだろうね。何処かの暴力沙汰を起こした男と違って」 「へー、ふーん。そーなんだー。すごいねー」 全く感情を込めていないの返しにいい加減岡崎もイライラを募らせてくる。 「君は、昔はもっと素直だったと記憶しているが?やはり草薙なんかと一緒に居るからこうも頭の悪そうな口の利き方になったのかな?」 岡崎の言葉にはついと目を眇める。 「頭が悪いのはどちらかしら?」と返して職員室のドアを開けようとしたら先に別の人物がドアを開けた。 「あー、ああ。何だ。教室に鞄がなかったから休みかと思ったぞ」 教室に行く前に職員室に寄ったのだから、当たり前だ。 「日誌、取りに来たの?」 「おう。今日、オレも日直だって黒板に書いてあったからな」 そう言ってが持っている日誌を受け取った。 職員室の中を見て岡崎がいることに気づいた一は彼を睨んだが、それ以上なにもしなかった。 「早く教室行こうぜ。悟郎が騒いでたぞ、お見舞い行くって」 「早い!まだ予鈴も鳴ってないんだから」 笑いながらは応え、そのまま「失礼します」と職員室をでた。 「聞いたことがあるぞ。お前の父親は女をとっかえ引返しているそうだな。血は争えないってことだな」 の肩がビクンと揺れた。 岡崎の取り巻きのひとりがそう言った。下卑た笑いもおまけに付けている。 「へー、だから娘も男に取り入るのが得意なんだなー」 先ほどにバカにされた生徒もここぞとばかりに加わる。 「てめぇら!!」 一が激昂して職員室の中に向かおうとしたが、に腕を捕まれた。 振り返るとは首を振って「行こう」と言う。 「でも、こいつら!」 「いいから。わたしは世界中の人間に自分を理解してもらいたいなんて思ってない。自分の好きな人たちが理解してくれていたらそれで十分。だから、いいの」 ポトリ、と何かが落ちてくる音がした。 「あ、瑞希。おはよう」 「......鞄」 「トゲー!」 単語だけ言われてワケの分からないは一を見上げた。 「ああ、鞄がなかったから。職員室かと思ったんだってさ」 「おお!正解!!」 そう言ってが笑う。和やかな雰囲気がその場に漂う。 が、対照的に職員室の中は阿鼻叫喚地獄絵図だ。 悲鳴が聞こえて職員室の中を見ると爬虫類が所狭しとうねっていた。 「あ!コモドオオトカゲ!!」 が嬉しそうに指差した。 「アオダイショウもいるぞ!あっちはイグアナだー!!うわ、ちょー可愛い!!ちょー飼いたい!!」 爬虫類全く平気なと動物全般大好きな一がキャッキャと浮かれながら職員室の中に現れた爬虫類を指差して大喜びを始める。 「斑目!ふん!お前はそうやって爬虫類なんぞ連れ歩いて。学校の規律を乱している。公害だ!!そのトカゲは捨ててしまえ」 岡崎が八つ当たりを始め、それを受けて「クケー!!」とトゲーが威嚇する。 「岡崎君だって、いつも連れているじゃない」 が言った。 「こいつらは人間だ!トカゲなんかと一緒にしないでもらいたい」 「爬虫類と哺乳類の違いでしょ?いつも大勢で移動されてちょっと廊下が狭いんですけどー?しかも、あなたはもうなくなる生徒会長の権限を振りかざして。たちが悪いのはどちらかしら?生徒会長の権限がなくなった先にどれだけの人があなたの後ろを、あなたの言うところの“慕って”歩いてくれるのかな?ギャーギャー喚くだけあなたたちのほうが迷惑だと思うんだけど?」 はそう言って「瑞希、行こう」と促した。 「......うん」 阿鼻叫喚の職員室をそのままに、と瑞希は教室に向かった。 「ちょっと、さん!?」 助けを求めるように悠里が彼女の名を呼ぶ。 「あー。瑞希がいなくなるとこいつらも帰っていくと思うから先生たちもあんまり刺激しないようになー。気の荒いのも混ざってるから、いなくなるのを大人しく待ってるほうが安全だぜ」 一がそう言ってと瑞希の後を追って駆けた。 やがて、一の言ったとおり爬虫類たちはどこかに去っていった。 「ところで、君たち?」 ニコニコと笑顔で衣笠が職員室内にいるクラスAのメンバーに声を掛けてきた。 「成績がよければ誰の尊厳すら傷つけてもいいと思っているのですか?」 いつもと同じ笑顔だが、その背後にはなにやらどす黒い何かが渦巻いているように見える。 「確かに、彼女に学校での成績及び口で勝てないからと言って家庭の事情を持ち出すのは些か感心しませんね」 二階堂が援護射撃を加える。 「さあ、少しあなたたちは僕とお話しましょうね」 そう言って生徒指導室に衣笠が彼らを促した。 暫くたってそこから出てきた少年たちはどんな恐怖を体験したのか、魂が抜けたような表情をしていたという。 |
桜風
08.9.26
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