| ホールから一度外に出る。空が重い。もしかしたら雪が降るかもしれない。 はぁ、と吐く息が白い。 「ちゃん」 振り返るとそこに岡崎がいた。 「あらあら。パートナーを放ったらかしにしてたら怒られるよ、勇ちゃん」 普通に言葉を返されて岡崎は意外そうな表情を浮かべた。 「俺の事、嫌いじゃなかったのか?」 「ハジメちゃんを陥れたことに関しては大嫌い」 冷たい声でが言うと岡崎の表情が強張った。 「何で、いつも君はあいつの味方でいるんだよ。昔から、そうだったよな」 「それは僻みですよ、岡崎勇次さん?」 岡崎の目に剣が差す。 「どうして、いつもあいつばかり評価される!?俺は、生徒会長だった。品行方正で、成績も優秀で...!」 「品行方正も成績優秀も結局他人が貼るレッテルよ。自分でその価値を決められない。世渡りには、まあ..あったらいいものかもね」 「俺はいつも努力をしていた。それなのに、同じだけ努力をしていた一がどんどん俺の先を行く。それが、許せなかった」 は深く息を吐いた。 「何故他人と比べたがる?何故、自分は自分だと胸を張れないの?勇ちゃんには勇ちゃんのいいところがあった。何故そこで勝負をしようとしないの?」 「黙れ!」と岡崎が怒鳴る。 「俺は、一に勝ちたかった。あいつの前を行きたかったんだ」 苦しそうに岡崎が言う。 「聞いた話によると、ハジメちゃんはあの通りバカみたいに体力有るし運動量も半端じゃない。だから、ハジメちゃんの練習量に合わせてみんなが練習をしたら潰れてた。違う?」 の言葉に岡崎は首を振る。 「サッカーの事に関しては、本当に手加減を知らなかったからな」 「でも、そのハジメちゃんに意見が出来て、ブレーキを掛けることが出来たのはあなただけだったと思うよ。チームワークを必要とするものに於いては結局ナンバー2が大抵鍵を握ってるのよ。どんなにトップが素晴らしくてもバランスが必要でしょ?B6がいい例えよ」 岡崎が視線で話を促した。 「翼は確かにカリスマ性もあるし、変に行動力もある。でも、協調性と言うものが空の彼方。対してハジメちゃん。協調性はある程度あるし、日常生活では相手にあわせることも多少出来る。だから、ハジメちゃんが皆を纏めている。牽引力を必要とするところは翼がリーダー。そのブレーキはハジメちゃん。いいバランスなのよ。絶妙」 そう言って笑う。 協調性に関しては一を以ってしても微妙だが... 「もし、ちゃんが去年転校してきたら、俺の事を止めてくれたかもしれないね」 岡崎はそう言って俯いた。 「過去は何を言っても変わらない。変われるのは未来だけよ。でもね、勇ちゃん。高校を卒業するまであなたはそれを貫く責任があると思う。卒後したら、巻き込んだ後輩の人には謝ったほうがいいとは思うけどね」 の言葉に「厳しいな...」と呟く。 「俺、悔しかった。この間..俺のクラスの奴がちゃんのお父さんの事を侮蔑したとき、一は君のために怒れた。俺には、そんな資格はなかったから」 は苦笑する。 「気にしなくていいよ」とが笑う。 「俺が、あいつに話した。一の味方ばかりするちゃんが嫌で、腹いせに。でも、結局自分の首を絞めた」 「事実と過去はどうしたって変わらない。勇ちゃんが言わなくたって、ウチの父親があんなだってのは変わらない。良いよ、事実だし」 ホールから音がもれて聞こえる。 岡崎は膝をついてに手を差し出した。 「俺と踊っていただけませんか?」 「もう曲が終わっちゃうよ?」 「少しだけでいいんだ」 岡崎のその言葉には微笑み、その手に自分の手を重ねた。 「さっき、七瀬と踊っていただろう?上手だった。何処で習ったんだい?」 「本から学びました」 岡崎は難しい表情を浮かべた。 「瞬と同じ表情ですよ、それ」とが笑う。 曲が終わり、2人は礼をした。 「なあ、ちゃん。あの時の、答え聞いても良いかい?」 あの時。遠い昔のような気がする。 引っ越す1週間前、岡崎から手紙を貰った。人生初のラブレターだった。 「ごめんね。勇ちゃんはどこまで行っても友達だわ」 「正直に、答えてほしい。一の事は?」 搾り出すように岡崎が言った。 「一ちゃんが猫や犬を好きなような、そんな感覚の“好き”かな?」 岡崎の眉間に皺が寄る。どういうレベルか分からない。判断つかない。 パチパチと瞬きを繰り返す岡崎に苦笑した。 「異性として意識していないレベルの好き。“Love”ではなく、“Like”って感じかな?」 が分かりやすく解説すると納得した。 「ああ、そうか。俺は、一には負けていないって解釈でいいんだよね?」 「うん。そういう意味では誰にも負けないよ。勇ちゃんの知っている通り、うちの親ってああだから。恋とか愛とかって世の中で一番信じられないもの。友情までだね。というか、勇ちゃんはハジメちゃんを意識しすぎ」 笑って言うと岡崎はムッとした。 「一を特別扱いしてるのはちゃんだろう?」 はきょとんとして首をかしげた。 「じゃあ、勇ちゃんには特別教えてあげよう。わたし、卒業したらアメリカに行くんだ。これはB6のみんなも知らないし、うちのクラスで知ってるのは担任の南先生だけ。だから、誰にも言ったらダメだからね」 「何で、あいつらに言わないんだ?」 「勉強の邪魔できないでしょ?今、みんなの成績は綱渡りっての見てて分かるでしょう?」 はぁ、と深く息を吐く。 「俺の成績の方は気にしてくれないって事だよな」 「心配要らないってことでしょう?」 の言葉を聞いて岡崎は苦笑した。 「じゃあ。ありがとう、ちゃん」 そう言って岡崎が手を差し出した。 はその手をとって握手を交わす。 「、どこにいるー?!」 ホールから声が聞こえてきた。一だ。 岡崎はいつもどおりの表情を作り、ホールに向かう。 岡崎の存在に気づいた一は厳しい表情をしたが、その先にがいたため駆け出した。 「、勇次に何か酷いこと言われなかったか?」 はふふふと笑う。 「昔話に花を咲かせてただけ。大丈夫だよ。一応、本日は紳士淑女の集まる場なんでしょ?紳士が淑女に何か酷いことをするはずがないでしょ?」 一はほぅ、と息を吐いた。 「瞬のライブが始まるぞ。お前の頑張りがあったから実現できたって先生が言ってたぞ。だから、ちゃんと聞いてやれって」 そう言って一はの手を引いてホールへと向かう。 「やれやれ、何事もなくて良かったですね」 二階堂が呟く。 見回りをしていたらと岡崎の存在に気づき、その様子を見守っていた。あの2人がいつも一の事で対立しているのは周知の事実だ。 だが、実際はそんな深刻な対立ではなかった。 「そうですね。何だか、生徒たちの恋模様を見てしまうのは気が引けましたけどね」 衣笠が同意した。 「衣笠先生は、さんの渡米の件はご存知でしたか?」 「保護者ですから。でも...」 そう言って言葉を切った。 に恋心はないらしい。 「色々と苦労しそうですね」 衣笠の見立てでは彼女に対して友情以上の何かを抱いている者だっている。 彼らの苦労を思い浮かべて溜息を吐いた。 でも、何か少し楽しそうだなとか思ったがそれは口にしなかった。 |
桜風
08.10.3
ブラウザを閉じてお戻りください