Dear my friends 53





が蕎麦を温めながら出汁を作っていると彼女の携帯が鳴る。

「携帯鳴ってるぞー」

「誰から?」

にそう言われて一が覗き込むと、“天体バカ”と表示されていた。

「親父さん」

「じゃあ、一出てよ」

に言われて「えー...!?」とちょっと抗議したが、は撤回しない。

仕方ないと思って通話ボタンを押す。

「もしもし」

『...間違えました』

「あ、はい。どうも」

一もの携帯を畳む。

「何て?」

「間違えましたって...」

よく分かんないけど、と一が言う。

「横文字のお姉さんに掛けるつもりだったんじゃないの?」

冷たい声でが言う。

何か、自分は全く悪くないのに、責めてられている気がするのは彼女の父親と同じ男だからだろうか...

するとまた携帯が鳴る。

やはり“天体バカ”からだ。

再びは視線で一に出るように促した。

一は肩を竦めて通話ボタンを押した。

「もしもし」

『誰だ、お前は!お前はの何なんだ!!』

突然怒鳴られてびっくりした。

「えー、あの...」

「いっちょ前に自分の娘の彼氏とかの心配しないでいただけませんかー?こういうときだけ父親面するのやめてくださると嬉しいのですがー」

一の持っていた自分の携帯をスッと取ってが冷ややかにそう言った。

『あ、いや...えーと。Happy new year』

「あけましておめでとう。って、そっちはまだでしょ?あ、お蕎麦できたよ。悪いけどキッチンで食べて。こっちじゃ無理でしょ」

父と電話をしながら一と瑞希にそうやって声を掛ける。

『と、いうか...さっきの声の主は、その..誰だい?』

「...ハジメちゃん。瑞希もいるよ」

娘の返答を聞いて父は安堵の息を吐いた。

『ああ、草薙さんのところの一君と、瑞希君か。えーと...ちゃんと食事は摂ってるのか?』

「お陰様で家事全般に苦は感じませんので」

『あ、ああ...』

父の声がションボリとなる。

「ってか、何処にいるの?」

父の後方では何だかにぎやかと言うか、煌びやかな雰囲気が漂っている気がする。

『んー?キャバレーだ。美人さん揃いだぞー』

「豆腐の角で頭を打って死ね」

は温度のない声で言った。

の言葉だけが耳に届いた一と瑞希はぎょっとした。

人の気配で瞬が起きる。

「瞬、冷蔵庫にお蕎麦が入ってるから食べたかったらどうぞ。ってか、星太は?」

『一緒だぞ。ちゃんと面倒を見てる。というか、瞬って誰だ?』

「...いい年こいたおじさん。未成年をそんなところに連れて行かないでいただけますか?いい加減常識ってものを頭に叩き込んでくださると助かります。今度そちらの宇宙センターから発射されるロケットに括りつけて宇宙に上げてもらっては如何ですか?そのまま宇宙の藻屑になってはどうでしょう。本望でしょう?」

バカ丁寧に言うが怖い。

やはり声に温度が全く感じられないのだ。

瞬はキッチンに行ってに言われたとおり冷蔵庫の中の蕎麦を取り出して温め始める。

は誰と電話をしているんだ?」

「あー、親父さん...」

一は丼の中の出汁を飲み干して苦笑しながらそう言った。


その後、の温度のない声による父との交信が暫く続いた。

その間に悟郎と清春、翼も目を覚ました。

通話を切ったときには皆が起きていた。

「何か、凄い会話だったな」

一が苦笑しながら感想を述べる。

「未成年を綺麗なお姉さんが沢山要るキャバレーに連れて行く非常識な天体バカに説教して何が悪い」

そう言って深く溜息を吐く。

翼と清春と悟郎の蕎麦は瞬が温めてくれたため、は何もせずに済んだ。



点けっぱなしにしていたテレビに初詣の様子が流れる。

「初詣なー...」

一が呟く。

「神頼みは性に合わんな」

と瞬が言う。

そんな感じだな、とは納得した。

「でもさ、せっかくだからこれから皆で行かないか?」

一が言う。

はすぐに瑞希を見た。

「あー、わたしはお留守番しとくよ。てか、皆そのまま帰る?」

笑顔で追い出そうとしている。

「えー!行こうよー。ゴロちゃんポペラ賛成だよ。こうやって皆でお泊り会するなんてこの先どれだけあるかわかんないし。いいじゃん、行こうよ」

瑞希はの手を握る。

「行く」

「大丈夫?」

は小声で瑞希に問う。彼は他人の体温が嫌いだ。過去色々経験したせいでそうなってしまった。

それを知っているのはこの中ではだけだ。

「大丈夫」

「翼は?無駄に人が多くて揉みくちゃにされるけど」

が言うと「何事も経験だ」とどこか諦めたように言った。

瞬を見ると「わかった。付き合えばいいんだろう」と溜息交じりにそう言った。

「じゃあ、皆で初詣だー!」

それぞれが出かけるためにコートを羽織る。

実は、は初詣は初めてだ。

初詣と言うのは一般的には三が日の間に行くものだと聞く。

しかし、その期間は人が多いし、小さな弟を連れて行っても自分が面倒を見る自信がなかったから、冬休みが開ける前日にいつも弟と近所の神社に行っていた。

元旦の初詣というのには多少興味もあった。

だから、ちょっとだけワクワクしている。









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桜風
08.10.17


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