Dear my friends 56





朝起きると隣にいたはずのがいなくなっていた。

悠里は慌てて飛び起き、ドアを開けた。

漂ってくる香りに空腹を自覚した。

「おはよう」と小声で声をかけた。

は振り返り、「おはようございます」と同じく小声で返した。

「先生、足元に気をつけてくださいね」

に言われて足元を見ると男子高校生が雑魚寝と言うか、ある程度折り重なって寝ている。

足元を選ばなければ彼らの足とか手とか、顔とかを踏んづけてしまいそうだ。

ゆっくり足を進めての元へとたどり着いた。

「何か飲みます?みんなまだ起きそうもないんですけど...」

苦笑しながらが言い、「ありがとう」と悠里が答えた。

「シャワーとかは...?」

「いいわ。気を遣ってくれてありがとう」

そう言った悠里にがコーヒーを淹れる準備をしはじめた。

「ねえ、さん」

「はいはい?」

「アルバム、とかってある?」

目を輝かせていった。

今は家庭訪問ではなく、生徒の家に遊びに来ているだけなのだ。

あれ?それってまずくないか??

「ありますよ。ちょっと待っててくださいね」

そう言ってが自室に帰っていく。

ケトルが鳴る寸前で火を止めて悠里はコーヒーを自分との分を淹れる。

少しして重そうなアルバム数冊と、自分たちが使っていた毛布を持ってきた。

とりあえず、6人も居れば毛布を奪われて寒い思いをしている人物だって出てくる。瞬と一だ。

何だか、微妙に貧乏くじをいつも引いている2人だ。

アルバムを床に置いて一と瞬に改めて毛布をかけた。


「どうぞー」

悠里にアルバムを渡しては悠里の淹れてくれたコーヒーを「いただきます」と言って口をつけた。

「これ、小学校の卒業アルバム?」

「そうです、同じクラスに草薙くんが居ますよ」

の言葉に興味津々な様子でページを捲り始める。

「え、これが一君!?というか、さん小さい!」

「まあ、昔は140くらいだったかな?小学校卒業したときがそれくらいでしたよ。草薙くんは伸びていくのわたしが伸びないからもの凄く理不尽に拗ねてましたね。草薙くん、それでいつも困ってました」

が思い出して笑う。

が背の事を言うといつも一は困ったように「いつかお前も伸びるって」と言いながら頭を撫で回していた。

ああ、そうか。

頭を撫でられてたから伸びなかったのだ。

そう思って抗議しようと思ったが、自分の頭を撫でてくれてた他人は一しかいなかった。だから、撫でられるのは少しだけ嬉しかった。

さん、こっち見ても良い?」

小学校の卒業アルバムを見終わった悠里が問う。

「どうぞ」

そう言いながらは思い出して自分の部屋に向かった。

小学校の卒業文集。

それを取り出して悠里の元へと持っていく。

「ねえ、さん。これ...」

そう言って開いたままのページには一とと岡崎がいた。

「...ああ、ええ。先生もなんか聞いたことあるんじゃないですか?」

岡崎と一の事は悠里も心を痛めている。

どうやら概要は色々と教えてもらっているらしい。

だから、こういう表情をするんだな...

「えっと、さんは2人と幼馴染なのよね?その..えっと...」

そう言いよどむ。

は無言で文集を悠里に渡した。

「え、っと。文集?」

「草薙くんのところ、読んでみてください」

そう言われて悠里はページを捲った。

一のところで手を止めた。テーマは将来の夢のようだ。もの凄く読みにくい字ではあるが一生懸命さに思わず笑みがこぼれる。

一はそのときには既にサッカーをしていたが、そのことには触れていない。

彼の将来の夢は『弱い人を守れる大人』だと言っている。一生懸命そのことについて語っている。

読み終わった悠里は顔を上げた。

「ま、そういうわけです」

ニコリと笑ってはそう言った。

「そうね、うん。やっぱり、一君がそんなことするはずないものね!」

どこか明るい声で悠里が言う。

「こっちの薄いのは?」

「斑目くんです」

その言葉を聞いてまた嬉しそうにページを捲る。

は寝ている一を見てクスリと笑う。

起きればよかったのにねぇ...

自分の小学校のときの文集なんて年を重ねれば重ねるほど恥ずかしいはずだ。因みに、自分は全く恥ずかしくない。

今と変わらないから。

の携帯が鳴り始める。

慌てて玄関から外に出た。ベランダに行きたかったが、その場合B6という障害物を乗り越えないといけない。

踏んでもいいけど、後が面倒くさい。


「そういえば、さんの文集...」

「読まないほうが良いと思うけど?ちょっと寂しくなると思うぜ」

寝ていると思っていた一がそう言ったため、悠里は小さく声を漏らした。

「起きてたの?」

「んー、まあ。目が覚めた」

が毛布を掛けてくれたときに目が覚めた。

が、何となく寝たフリをしていた方が良いだろうと思って狸寝入りを決め込んでいたのだ。

「そう。でも、読まないほうが良いって...」

「読みたかったら読んでもいいけど。まあ、好きにしたら?オレのもちゃっかり読んだし」

寝転んだまま一が言い、悠里は恐る恐るのページを開いた。

彼女の将来の夢は、『独りで生きていく大人』だった。

このとき、既にの学力は高かったのか文章も子供が書いたものとは思えないくらい論理的であり、文章構成もしっかりしている。

「あいつ、独りが良いって言ってんだぜ?オレ、それ読んだときどう反応したらいいんだろうって分かんなかった。昔からバカだったし、言葉を知らなかったし。、引っ越したし。結局、あいつ、ずっと独りだったんだろうなーって」

ガチャリとドアの開く音がして一も体を起こした。そのまま悠里に向かって人差し指を口に宛ててナイショだと告げる。

複雑そうな表情を浮かべて悠里は頷いた。

「おはよ、一。シャワーを浴びたきゃどうぞ」

「おー、んじゃ」

そんな会話を目の前に、悠里は複雑に思っていた。

何らかの理由で暴力沙汰を起こしたとされた一。

いろいろな理由が重なって独りでいることを選んだ

2人ともとても優しくて、友達想いだというのに...

「やっぱり、このままではダメよ」

悠里は呟き、決心を新たにした。









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桜風
08.10.24


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