| 2月14日。 バカサイユ前はもの凄くごった返していた。 というか、耳が痛くなるほどの黄色い声援が絶え間なく続いている。 この人ごみを掻き分けてあそこにいくなんて嫌だなー、というか、もう面倒くさいなー... がそう思いながらその光景を見ていると「さん」と声を掛けられて振り返った。 「これ、凄いわね...」 「そうですね。先生、わたしの作った分を先生にお預けして帰ってもいいですか?」 の言葉に悠里は驚き、の手をぎゅっと握ってはなさい。 「一緒に、頑張りましょう!」 悠里の言葉を聞いては深く息を吐き「はーい」と既に疲れきった声を出した。 「おじゃましおまーす」 人ごみを潜り抜けてやっとバカサイユ建物の中に入った。 流石に中にまで押し入る人物はいないらしく、バカサイユの中は静かなものだった。 違うといえば、部屋の中の匂い。 もの凄く甘ったるい。 「担任、。よれよれだぞ。外の人ごみをよく掻き分けて来れたな」 「瞬のライブのほうがまだ息できた...」 ソファに凭れながらが呟いた。 瞬のヴィスコンティは人気のあるバンドだから、ライブハウスはいつも満員だったが、それでももう少し余裕はあると思う。 「でも、皆さすがね」 悠里はそう言って心底感心したように呟いた。 「クラスAの子も沢山居ましたよね。やっぱり皆女の子ですねぇ...」 結局は美形に弱いんだ。 「で?えー...」 チラチラと翼が悠里とを見ている。 「あー、何かしら?」 楽しそうだとばかりにが翼に言葉を促す。 「な!?Shit!悟郎が言っていたぞ。昨日お泊り会をして今日に備えていたんだろうが。仕方ないからこの俺自ら受け取ってやろうと言っているんだ!」 「そうなのよ。昨日悟郎君とさんの家に泊まって作ったのよ。ちゃんとみんなの分あるからね」 そう言いながら悠里は自分の作成したものを取り出した。 が見ていたなら悠里だって殺人的なものは作らないだろう。 そう思っていた。 そう思って彼らは安心しきっていた。 「はいはいはーい!ゴロちゃんのも皆食べてね!」 そう言いながら悟郎がB6の皆に自分の作った菓子を配る。 それに続いて悠里が「メッセージ付きよ」と言いながら皆に面白いチョコを配っていく。 最後に「どーぞ」と言いながらが配る。 はキッチンの方にも向かい、山田に渡しに行った。永田は、と思って周囲を見渡すと姿を見つけることが出来て彼にも渡した。 「ーーーー!!!」 瞬の怒声が響く。何か怒られるようなことをしてしまったのだろうか? 「何?」 「こ、これは何だ!!???」 そう言いながら悠里の作成した面白チョコを突き出して瞬が言う。 「愛で食べちゃいな」 さらりと言うに「あ、愛!?」と言葉に詰まりながらも、コホンと咳払いをして「食えるかぁ!!こんなのをチョコと認めて食べたらチョコの神様に祟られるぞ!!」と訴える。 その言葉を聞いて悠里がへそを曲げるが、誰もそれをフォローしようとしない。 とりあえず、こんな未知なる物を突きつけられて混乱しているみたいだ。 「でも、昨日わたしも食べたよ」 そのの一言で皆の目の色が変わった。というか、に向ける視線に尊敬の念が込められている。 「おい..それで、ヘチャ。お前の腹は壊れなかったのか?」 恐る恐る聞く清春。いくら自分でもこんなイタズラは出来ないと言うか、不可能だといっていた。 「うん、ここに居るのが何よりの証拠」 平然として言うに皆は見た目よりも味は酷くないのだろうかと思い、自分たちの手の中にあるウニもどきを見る。 が、やはり視覚的に受付けられない。 「もー!!皆ゴロちゃんのも!センセの食べられないんならゴロちゃんの食べてよ!!」 悟郎の主張にそれもひとつの手だなと思い、皆が今度は悟郎の作ってきたそれを手にした。 「悟郎...?」 翼が問う。 何か、やばそうだぞ? 「んー?美味しいよ、ダイジョブダイジョブ」 「......、味見は?」 瑞希が問う。 「ううん、ゴロちゃんのはしてない」 笑顔で爽やかに応えるに瑞希が最初に放棄した。 というか、自分はB6の毒見係か?! そう思いながら事の次第を見守っていると悟郎が清春に自分の作った菓子を無理やり食べさせた。 それを口にしてしまった清春は壊れて意識を失った。 皆はそっと悟郎作成の菓子をその場に置いた。 「命に関わるなら、無理には食べられんな...勿体無いが、仕方ない」 瞬がそう言う。 「ああ、そうだな。これは..そう!成功防衛というやつだ」 「正当防衛」 すかさずが訂正を入れる。 あと数日で本試験だというのに... 「では、最後。のだな」 尤も、の作ったもので自分たちが口にできないものがあるとは思えない。 正月のお節は大変美味だった。洋食派の翼が美味しいと舌鼓を打ったくらいだ。 何より、翼がお土産として持ってきた鰤は彼女が捌いた。そこまで出来る人物が菓子作りを失敗するはずがない。 家事歴3歳からだと言っていたし。 ダウンした清春を放っておいて皆はの作ったものを手にした。 「何だ、これは?」 「お煎餅」 「バレンタインにか?!」 「甘いものが欲しかったら自分たちの後ろに積んであるでしょう?」 がいい、皆は思わず振り返って自分たちの貰った菓子類の数々を見る。 「確かに...」 「しょっぱいのが欲しくなるかもしれないと思いまして」 の言葉に皆は頷いた。 「では、これは家に帰っていただくとしよう」 そう言ったのは瞬だ。綺麗に元あったとおりにラッピングしなおしている。 「オレは今食う」 バリバリといい音を立てて一が食べ始めた。 そんな一の様子を悠里が少し羨ましそうに見ている。この部屋の甘ったるい匂いのお陰で少し口の中が甘く感じてしまっていたのだ。 「先生も、どうぞ」とが悠里に渡した。 「私にも!?」 「まあ、わたしにとってバレンタインって外に居る人たちのような意味を持っていませんので。日ごろの感謝を込めて」 の言葉に悠里は嬉しそうに微笑み、「ありがとう」と言って受け取る。 「お茶を入れますねー」 はいい加減かって知りたるバカサイユと言った感じに濃いめの茶を淹れた。 結局、その日の下校時刻まで清春は気を失ったままだった。 |
桜風
08.11.14
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