Dear my friends 62





はっきり言って、この補習に何の意味があるのか。

瑞希が趣味と言い切った補習時間。

本日は瑞希の番だ。

何故誰も突っ込まないのだろうか...

瑞希以外の5人の受験勉強を見ていて、まあ、何とか行くかなと思ってはいるが、それでも勉強が出来る瑞希は全く見る必要がないのだから他の5人の補習を行った方がいいと思う。

本当にもうあと数日で本試験だから。




「んー?」

でも、補習なんだから勉強を...

そう思って瑞希の理解しきっている高校レベルの勉強をしていると不意に瑞希が声をかけてきた。

「両親から、連絡が来たんだ」

瑞希の両親も忙しいから連絡が来ることはあまりないようだし、何より瑞希をそっとしておくという意味が強い距離の取り方だ。

両親と接点を持っているときっと昔の事を思い出すから。

はそのことを葉月から聞いていた。

「そう?珍しいね」

「うん。僕が、こっちで受験したのを聞いたらしいんだ」

ああ、なるほど。

は納得して頷いた。

「それで?」と話を促す。

「吹っ切れたのなら、アメリカに来ないかって。あっちの方が色々と施設が揃ってるし制度も整っているから」

確かに、飛び級なんてものもある。

実力があればそれが認められる社会だ。

日本は未だに年功序列。

それを悪いとは言わないが、一律平均ってのは窮屈に思う人も少なくないと思う。

「そうなんだ?」

のその返答に瑞希は少しムッとする。

「それだけ?」

「決めたの?どうするか」

逆にそう言われて言葉に詰まった。

「まだ、悩み中...」

「そう?」

がそう返した。

「どうしたら、いいのかな?」

「瑞希が決めることよ」

その言葉に瑞希は少し不満そうな表情を浮かべてを見詰めた。

「進路と言うのは自分で決めることでしょう?皆自分で決めたよ」

「......、冷たい」

「厳しさも優しさのうちよ」

笑いながらいうを恨めしげに見詰めた瑞希は机に突っ伏した。

「寝るの?」

の言葉に返事はなく、その代わりに寝息が聞こえ始める。

は肩を竦めて仕方なく、独りで勉強を続けた。


進路は自分で決めるもの。

自分が言っていい言葉だろうか...

自嘲気味には笑った。

結局、今まで自分は自分の進路を決めていない。

親が勝手に決めたことも諦めてそれに従っている。

両親の離婚、度重なる父親の再婚。

そして、今度も。

「トゲー?」

の表情を見てトゲーが心配そうに声をかけてくる。

「大丈夫よ、トゲー」

そう言ってトゲーを撫でる。

「瑞希と一緒、楽しい?」

「トゲー!!」

の問いに嬉しそうにトゲーが応えた。

自分が決めたことは本当に些細なことしかない。

その中のひとつが、トゲーだ。

元々がトゲーを見つけてきた。

暫くはがトゲーを飼っていた。動物好きの母は爬虫類も好きだった。

そして、彼女は動物を研究対象としない。

ただ、動物を助けたくて獣医になったと言っていた。大学で教鞭を執っているのは、そのついでだ、と。

白いトカゲなんて実験対象にされるかと思って一生懸命かくして飼っていたが、母が偶然の留守の間に帰ってきてトゲーを見つけ、そして思い切り可愛がっていた。

鳴くトカゲなんて中々ないから大切に、他の誰にも見つからないようにしなさいといわれた。

凄く不思議だった。

こんな小さなトカゲをも大切に思うような人だったんだと、そのとき凄く驚いたし、もの凄く悔しかった。

それでも、小さいものは守るものだと幼馴染に教わっていたからトゲーを苛めることはしなかった。

今思えば、子供だった当時の自分を褒めてやりたい。よく、その嫉妬心を抑えたな、と。

そして、両親が離婚して家を出て行くときに瑞希に会いにいった。

白くて鳴くトカゲは珍しくて、下手をしたら実験対象になると聞いては瑞希を頼った。

瑞希はトゲーが自分のような目に遭うのは嫌だといって引き取ってくれた。

瑞希には守ってくれる家族が居たから、大丈夫だと思った。

悲しいことを知っているから、トゲーを大切にしてくれると思った。


?...なんで泣いてるの?」

「トゲー...」

目を覚ました瑞希とトゲーが心配そうに言う。

「へ?」

びっくりしては自分の頬を触ってみた。

本当だ、濡れている。

「僕が、必要ない補習を受けてみんなの勉強の邪魔をしたから?」

心配そうに瑞希が顔を覗きこんでそう言った。

「あ、いや...えっと、これは......そう!コンタクト。コンタクトがずれたのよ。別に瑞希のせいじゃないよ」

我ながらチープないいわけだ。

「......そう。もう、大丈夫?」

の頭を撫でながら瑞希が優しく問う。

「うん、大丈夫」

「じゃあ、帰ろうか」

「......補習は?」

「終わり」

瑞希はそう言って荷物を片付ける。

仕方ない、とは苦笑して同じく荷物を片付けた。

瑞希の強い希望により、手を繋いで帰る。

自分以外の体温が何だかもの凄く自分を落ち着けてくれた。









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桜風
08.11.14


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