Dear my friends 66





日差しが随分と優しくなってきた。

春になったんだなと何となく感慨にふける。

「珍しいじゃねぇか。ヘチャがサボりなんてよォ」

屋上で日向ぼっこをしていると声を掛けられて振り返る。

「ハル。どうしたの?サボリ?」

「お前と一緒だよ。つか、本当にどうしたんだよ」

「成績に関係ないからね。今の授業は」

の言葉に清春は「あー、ナルホドな」と納得した。

以前が勉強する理由を聞いたことがある。

それに基づいて行動をすれば確かに、今の授業は受ける必要はない。ついでに言えば、復習ばかりしているのだから、新たなことを学ぶことはない。

「ナギの奴、回復してんのか?」

あまり群れるのが得意ではない清春が聞く。

悟郎の話によるとハジメが退院して以降、清春はお見舞いに行ってないらしい。

「うん、何かもの凄くご飯食べてるから回復も早いんじゃないのかな?」

「まさか、お前が毎日作りに行ってんのか?!」

「まさか。お見舞いに行ったら作り置きしてるの。あとは非常食と言うか。栄養はないけどおなかが膨れるからインスタント食品を取り敢えず差し入れてる」

なるほど、と納得した。

「追いつかねぇだろう、それ」

キシシと笑いながら清春が言う。

「たぶんね。ハジメちゃんは何も言わないから」

そういえば、アレ以降は一の事をまた“ハジメちゃん”と呼ぶようになったな、と思った。

何か、よっぽどショックだったのか。

一って呼ぶのに飽きたのか。

どちらでもまあ、構わない。

「そういえば、ヘチャ。お前、オレ様のトラップにまだ掛かってないな。そろそろ1年だぞ!?」

「そういえばそうね。記念にわざと掛かってあげようか?」

がそう言ってニコリと微笑むと清春は面白くなさそうに舌打ちをする。

「ブチャは面白いくらいポコポコイタズラにかかってんのによ」

「伊達にヤンチャな弟を持ってませんよ〜」

からかうようにが言った。

そういえば、には弟が居たんだったなと思い出した。

「お前の弟もイタズラ好きか?」

「ハルみたいにタチの悪いものじゃないけどね」

「ほぉ...見込みがあるじゃねぇか」

ニヤリと笑って清春が言った。

「まだ小学生だよ。そういう年頃でしょ?って言っても、今年で卒業だけどね」

「こっちに帰ってくるのか?オレ様がイタズラの伝言をしてやるぞ」

「...伝授かしらねー。この場合に使う言葉は」

「じゃあ、ソレ」

は天を仰いだ。

青空がもの凄く爽やかだ。

「ダイジョーブだって。合格してるに決まってんだろう?」

「ホントに?」

「このオレ様を誰と心得る。天才仙道清春様だぞ」

自称天才って碌なのが居ない気がする...

そう思いながら「ソウデスネー」と返しておいた。



放課後、バカサイユに居るとドアがノックされた。

悟郎が出てみるとそこに立っていたのは岡崎だった。

「何の用さ?!」

敵意を隠さずに悟郎が言うと「さんがここに居るだろう?」と言ってきた。

「どうしたの?」

ひょいと顔を出したに悟郎が奥にに行くように言ったがは聞かない。

「何?勇ちゃん」

勇ちゃん!?

部屋の中の全員がの言葉を心の中で繰り返した。

が、岡崎は一のサッカーの相棒としてずっとやってきたのだから岡崎ともそういう、幼馴染的な間柄だたのかもしれない。

「俺、学校辞めてきた」

「...は!?」

流石に岡崎のその言葉には頓狂な声で答えてしまう。

「どういうこと?」

ちゃん、坂下っていう下級生に怪我をさせられそうになったんだろう?結局、一が庇ってあいつが怪我したらしいけど」

よく知ってるな、と感心した。

「まあ、大筋そんな感じ」

「坂下は、学校から退学にされた。それは、君を怪我させようとして、結果的には一を怪我させたから。俺も、彼と同じ事をしている。それなのに、自分はのうのうと高校を卒業するなんて、筋が通らないと思ったから。ケジメだよ。一によろしく伝えてくれ」

そう言って岡崎はに手を差し出した。

握手を求められてはそれに応えるために手を差し出したが、岡崎はその手を引いてを引き寄せる。

そしてそのまま額に唇を落とした。

の後方、つまりバカサイユの室内でドサドサと何かが落ちてくる音がする。

「ぎゃーーー!ミズキ、落ち着いて!!」悟郎が叫ぶ。

「マダラ、いいから落ち着け。というか、岡崎!テメェ!!!」と清春。

「Shit!何て事をしてくれる!!」翼が毒づき、「草薙がいないんだぞ。これ、どうするんだ!?」と瞬が困惑しながら口に出した。

振り返っては苦笑した。

「俺は、B6の奴らが少し羨ましかった。他を気にせず、自分の進みたい道を自分の思うとおりに進んでいたから」

「分かる気がする。でも、彼らなりに悩みは持ってるんだよ」

は笑いながら頷いた。

「ねえ、ちゃん。今、俺が君のおでこにキスしたことも一に報告しておいてくれよ」

「まあ、いいけど...」

「じゃあ、またどこか出会えることを願ってる」

そう言って岡崎はバカサイユを後にした。


岡崎の背を見送っては爬虫類がうごめく室内に足を進める。

「あー、窓開けようよ。その方が早くいなくなるんじゃないかな?」

そう言いながら窓を開けると別の客人が見えた。

。草薙の容態は、どうだ?」

サッカー部の大住が窓の外から声をかけてくる。

「うん、自宅療養だけどかなり治ってる。卒業式にはちゃんと出席するって言ってる」

が返すと大住と引き連れているサッカー部員が安堵の息を吐いた。

「これ、凄い今更だけど」と言って大住がに袋を渡した。

「草薙に渡してくれないか。サッカー部全員の寄せ書きだ。引退した3年も入ってる」

「いいよ」と返したはハタと手を止めて「中、見てもいい?」と問う。

大住が頷くと急いでそれを開けて見る。

やはり...

は窓から体を乗り出して正門の方を見た。

まだ見える。

「武本君。あそこにいる岡崎君を足止めしてて」

「へ?」と武本が言い、「岡崎は草薙を嵌めたんだぞ!?」と大住が言う。

「先輩命令よ!ほら、行く!!」

そう武本に言うと彼は反射的に走り出した。

は自分の筆記用具から悟郎から貰ったショッキングピンクのペンを選び、それを手にして岡崎のあとを追った。

「岡崎君!」

さん。一体これはどういうことだ?!」

少し苛立たしげに岡崎が言った。

「これ、書いてよ」

そう言ってショッキングピンクのペンを握らせて寄せ書き色紙を渡した。

「待ってくれ。俺は草薙に...」

「でも、草薙君の今までのサッカー人生にあなたは欠かせないチームメイトとしていたはずよ。ウチのサッカー部員で最も長く彼の相棒を務めたのは誰?」

岡崎は何かを言おうとして言葉が見つからず、結局ペンのふたを取って色紙に一言「悪かった」と書いた。

「じゃあ、今度こそ。...武本、悪かった。お前を巻き込んですまない。懐いてた先輩を陥れる片棒を担がせた」

深く頭を下げて岡崎はそう言い、背筋を伸ばして正門に向けて足を進める。

武本は岡崎の背中に向かって深く頭を下げた。









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桜風
08.11.28


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