Dear my friends 70





「忘れ物はない?」

「大丈夫?その、お友達とのお別れとか」

2人の声を掛けられては苦笑した。

「大丈夫。子供じゃないんだから忘れ物はない。友達とのお別れは、衣笠先生に手紙を預けたので、今頃渡してくれているはずです」

時計を見てそう言った。自分は駅のロッカーに今朝この荷物を置いていたので、卒業式が終わって直行した。

今から翼がヘリを用意してこちらに向かっても彼らがついたころには飛行機は空に上がっているはずだ。

「一君とか、翼君とか。他にも友達いたんでしょう?」

母がそう声をかけてくる。

「いいの。ちゃんとお別れしたもん」

まあ、あの手紙を見て二重に怒っているだろうが...

英語だったら瑞希と翼が簡単に読んでしまう。それでは面白くない。

だったら、漢文。

瑞希は授業で聞いていたら覚えていると思うけど、漢文は黒板も見ないと分かりにくい科目だと思う。

我ながらナイスチョイス。

「それより、こっちに置いている荷物はちゃんと向こうに送ってよ。重いものとか荷造りが面倒くさいの置いてるからね。鍵はこれ」

はそう言って目の前の女性の一人に鍵を渡した。

「正次郎が、迷惑掛けなかった?」

「衣笠先生には、もの凄くお世話になりましたよ」

「それならいいんだけど」と言いながら衣笠そっくりな女性は眉を寄せている。

「あの、さん。本当に、役に立てなくてごめんなさいね。...やっぱり、私さんを放っておけないわ」

「何言ってんのよ!またあなたの貴重な人生を無駄に送るの!?ダメダメ。せっかく再婚が決まったんでしょ?それに、私のほうがよっぽど役立たずよ。衣笠ちゃんの方がの役に立ってるわ。ね?」

「そうだね。衣笠さんの方がよっぽど母親らしかったですよ。でも、人生での大きな選択は慎重に行うべきです」

さらりと肯定されてちょっと傷ついた...

でも、自業自得。

そう思って母は何とか気持ちを立て直した。


!!」

名前を呼ばれ、驚いて振り返るとサッカーボールが飛んできた。

思わず手に持っていた荷物を落としてそれをキャッチする。

遠くから見慣れた8人と衣笠がこちらに来ていた。

「...衣笠先生」

唸るようにが呟く。

これでは早すぎる。つまり、衣笠は昨日お願いした時間よりも前に彼らに手紙を渡したのだ。

「んもー!バカバカバカ!ちゃんのバカ!!」

そう言いながら突進してきた悟郎は男子の制服を着ていた。

「ゴロちゃん!?」

いつものようにそれを受け止めて尻餅をつく。ああ、結構この構図は慣れたな...

「えへへ。似合うでしょ?ボク、高校生活の間は絶対にポリシーを貫くって決めてたんだ。でも、もう卒業したからね?」

!」

怒鳴ったのは瑞希だ。

皆も流石にこんな大きな声を出した瑞希に驚きの表情を向けた。

「何で、アメリカに行くって話してくれなかったんだよ。それを知ってたら僕は...」

「わたしがアメリカに行くから瑞希も行くって変だよ。瑞希が何か目的を持っていくならいいことだと思うけど。あの時、わたしがそれを話してたらたぶん、瑞希もアメリカに行くって言っただろうね。それはおかしいと思ったの。だから、言わなかった。自分の進路は自分で決める。これって基本だよ」

さらりと言うに瑞希は怒ったままでじっと見ている。

「っつうか、。お前、最後までオレ様のイタズラから逃げ切ったなァ?」

屈んでの視線に自分の視線を合わせた清春が悔しそうに言う。

はピースサインを見せてニッと笑った。

「わたしの勝ちね?」

そう言ってはあれ?と首を傾げた。今、清春は名前で呼んだか?

。ヴィスコンティがメジャーデビューしてライブが決まったら連絡を入れるからこっちに戻って来いよ。特別に招待してやる。タダだ」

「瞬ってば太っ腹!」

は笑いながら言う。

「まあ、アメリカなんぞこの真壁財閥の特別ジェットでひとっ飛びだ。暇なときには仕方がないから遊びに行ってやろう」

「ううん、遠慮する」

翼の言葉にがさらりと言った。

「What!?、今何と言った??」

「遠慮しまーす」

「Shit!お前は本当に俺の思い通りにならん」

「ホントにね」

笑顔を作っていたが最後の人物に目を向けた。

彼は怒ったままずっとを見ていた。

「何で黙って行こうとしたんだ」

「...手紙、書いたじゃん」

呟くようにが言った。

「あれじゃオレたちがお前に何も言えないだろうが」

怒った表情を崩すことなく一が言った。

「ホントだよ。ボク、ちゃんと沢山お話したかったって朝言ったでしょ?沢山お話して、沢山お礼を言って、沢山約束したいんだよ?」

「だよなー。お前、ホンッとに何考えてんのかわかんねェ。一応、オレ様もお前に感謝のひとつくらいしてんだぞ」

照れくさそうに顔を背けて清春が言った。

「僕も、が居なかったら変われなかったと思う。受験とか、そういうの絶対にしなかった。うん、絶対」

そう言いながら瑞希はの頭を撫でる。

「まあ、そうだな。が来て、俺たちB6が少しずつ変わった気がする。勿論、先生の力も小さくはなかったが...」

翼がそう言って悠里を振り返った。

「そうだな。くらいだったぞ。あの学校で俺と節約術やおばあちゃんの知恵袋の情報交換が出来た人間なんて。話が合う奴がいて、楽しかった」

瞬がそういうとの瞳から雫がこぼれて「ごめんなさい」と言う。

「な!?待て、!!これでは俺が泣かしたことになる!!」

「なァにやってんだよ、ナナ!!」

「黙れ仙道、殺すぞ!」

「殺されねぇよ!!」

二人がいつものように言い合いを始める。

「あーあ。本当にあの2人はポペラ仲がいいよね」

呆れたように悟郎がいい、を見る。

はコクリと頷いた。

「おい、清春、瞬。そろそろやめておけ。時間がないんだぞ」

翼が止めて珍しく2人が止まった。

ずっとの上に載っていた悟郎もから離れる。

「先生、。これを見てくれ」

そう言って6人はポケットに仕舞っていた紙を取り出した。

「え、まさか...!」

それが何か先に気づいたのは悠里だった。

「全員、合格だ」

翼が幾分柔らかい声でそう言った。

は目を丸くした。流れていた涙も止まってしまった。

「ホントに?」

「ここでドッキリできるほど神経図太くねぇよ。悟郎以外はまた皆同じ学校だぜ」

一が苦笑しながらそう応えて自分の持っている合格通知をに見せた。悟郎は芸術大学だが、あとの5人は都内トップレベルの大学だ。学部はそれぞれ違うが、それでも同じ字キャンパスに通うこととなる。

「これで、またサッカー出来るんだぜ?さっきもちゃんと狙ったところにボールを蹴れたし。足も、もう完治した」

「でも、朝はまだ松葉杖ついてた...」

「あー...それはドッキリ企画だったの。逆にオレのほうがドッキリ掛けられたけどな」

そう言っての頭をくしゃくしゃと撫で回す。

「わたし、今までずっと友達が居なかったから。どうやってお別れしたらいいか分からなかったから...」

俯いてが言うと「バカだな」と一が笑う。

「ふん、そんなのは『さよなら』ではなく『またな』と言えばいいんだ。勿論、smileでな。一般常識だ」

翼に一般常識を説かれるとなんでこんなにムカつくんだろう...

はそう思いながらも頷いた。

何だ、案外簡単なことだ。

「おばちゃん。シャッター切って」

そう言って一はの母にデジカメを投げる。

受け取ったの母は「おっけー」と構える。

「ほら、皆で写真。あとでデータを送るからパソコンのメアド教えろよ」

そう言ってまだ床にへたっているの手を引いて立ち上がらせる。

「おー、眼福眼福」と言いながらの母がカメラを向ける。

「恥ずかしいからそういうことは心の中で思っていただけませんかねぇ」

が言うと「オッケー。心の中で叫んでおくわ」と返された。尚恥ずかしい。

そしての母がシャッターを切る。

の乗る飛行機のフライトについてアナウンスが流れる。

「じゃあ、な」と誰かが言った。

俯いたが中々顔を上げなかった。心配に思って一が手を伸ばすとは顔を上げて胸を張る。

「...翼、一、瞬、ゴロちゃん、ハル、瑞希。ありがとう。そして、南先生、永田さん。お世話になりました。またね!衣笠先生も、ホントにお世話になりました」

先ほど翼に教えてもらったとおりは一人ひとりの顔をしっかり見ながらそう言った。笑顔で、といわれていたが自分はどういう顔をしているだろう?

「おう、またな!」

皆は笑ってそれぞれそう応えた。


の乗った飛行機を見送って空を見上げていた彼らに向かって「さて、」との母が言う。

「一君、翼君。夏の約束、覚えているかしら?」

が泣きながら俺たちとの別れを惜しんだら教えてくれるってアレか?」

翼の言葉にの母は頷いた。









Next


桜風
08.12.26


ブラウザを閉じてお戻りください