どきどき湯煙何たら旅行 1





秋になり、聖帝学園に戻ってきた教師たちが居た。

その中には真奈美の恩師である南悠里の姿もある。

彼女がこの学園を紹介してくれたから憧れの教師となり、そして、素敵な生徒たちにも出会えることが出来た。


昼休憩に雑誌を広げ、今度の週末に一緒に買い物に行く算段をとっているとその雑誌にぬっと影が落ちる。

悠里と真奈美は顔を上げ、2人は同じ表情を浮かべた。

「お久しゅうございます、先生方」

そう言って礼をしたのはあの真壁翼の秘書の永田だった。

「な..永田さん!?」

「翼君もここに?!」

では、これから高笑いが始まるのか...

2人は構えたが一向に高笑いは聞こえない。

「いいえ。本日はお忙しい翼様の代わりに私が参りました故、翼様はこちらにはいらっしゃいません」

「そうですか...それで、何でしょうか?」

「これを、翼様が先生方に」

そう言って内ポケットから豪奢な封筒を2通取り出した。

「ああ、翼様からの伝言でございます。『拒否権はないぞ、担任、新任!ハーッハッハッハッハ!!』だ、そうです」

高笑いも見事な永田の伝言に圧倒された2人はしばらくきょとんとして、結局永田が去っていくまでぽかんとしたままだった。

「おやおや、さっきのは真壁君の秘書の永田さんですね?相変わらず年齢不詳で正体不明ですね」

衣笠がやんわりそう言いながら永田が出て行ったドアを見やる。

「あなたは人のことが言えないでしょ!!」

周囲は突っ込みたい気持ち満々だったが、それは無謀というか、わが身が可愛いので口には出さなかった。

「ところで、彼はなんだったんですか?」

衣笠に促されて悠里と真奈美は顔を見合わせてそれぞれ渡された封筒を開けた。

やはりキンキラな紙に印字がしてある。

チカチカするな、と思いながら文字を追って、「えーーーー!!!???」と2人は同時に声を上げた。

職員室内で注目の的だ。

内容は、冬休みに入ったら温泉旅行(1泊2日)に行くから用意しておくように、というお知らせだった。温泉宿で年越しを迎えるというものらしい。

確か、拒否権は無いとか言っていた...

悠里と真奈美は顔を見合わせた。

「あ、あの南先生」

「北森さん。私、昔さんに教えてもらったことがあるの」

あのが言った言葉だと知って、真奈美の聞く姿勢が変わる。

「彼女は、こう言ったの。
『何事も、諦めが肝心。特に、B6というか..翼みたいに話しても聞かない相手には妥協できることなら妥協して、出来なかったら全力で説得。それがダメなら雲隠れ。まあ、永田さんが居る限り逃げ切らないだろうから、諦める方が無駄な労力を使わなくて済みますけどね』」

「...」

真奈美の笑顔が凍りついた。

「と、いうわけで。諦めることにするわ。元々予定も立ててないし。この様子だと、さんも招集されているでしょうし。あの子には当分会ってないから会いたいし」

「...とても参考になりました。私も、そうします」

二人はお互いの意思確認を終えて同時に頷く。

何事も諦めが肝心。

確かに、昨年の彼女がそういう感じを醸し出していたことを思い出す。

真奈美はひとつ大人になった気分を味わった。




「...あの、目がチカチカします。今度からもう少し地味なものにするように翼に言っておいてください」

渡された封筒を開けた手にしたが訴える。金ピカな、目に痛い招待状だ。

「左様でございますか?」

眩しいので目を細めながら文字を追ってみる。

「は?!何ですか、これ」

の元にやってきた永田に思わず彼女は聞き返した。

「と、いうわけでして。強制参加していただきます」

言い切られた...

は振り返った。

面白そうにその様子を見ていた人物はコクリと頷く。やはり、面白そうに。

「いいの?」

「うん。また白鳥見学にでも出かけるし」

「星太が来るって言ってたけど...」

「あの子は、年明けに来るって言ってたから。まあ、今の日本なら料理しなくても何とでもなるわよ。待ってりゃが帰ってくるのは分かってるんだから大人しくしてくれるだろうし」

彼女の言いように肩を竦めたは永田に向き直り「まあ、拒否権が無いってことみたいですから」と頷いた。

永田はそれを受けて安心したように頷き返す。

「では、さん。また冬にお会いしましょう」

そう言って永田は恭しく礼をしてその家を去っていった。









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桜風
10.7.9


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