どきどき湯煙何たら旅行 4





山の頂にあるという真壁財閥所有の高級旅館に着いた。

「あー、うん」

見上げては頷く。

もう半年くらいこういった非常識と言うか、少なくとも常識からかけ離れた風景を目にすることがなかったのでこれはこれで新鮮で懐かしさすらこみ上げてくる。

いや、あのバスでもこみ上げたけど。

「へー、これが真壁んちが持ってる旅館かー。まあまあだな」

そう言ったのは家が真壁財閥とライバル関係にある成宮天十郎だ。

「まあまあとは何だ、まあまあとは」と目くじらを立てる翼を「まあまあ、翼。落ち着けって」と宥めるのは一で、これもいつもの光景である。

相変わらずなんだよなーとは苦笑した。

女将が出てきて翼に丁寧に挨拶をし、皆にも挨拶をする。


「懐かしいわ...」

ふかふかした紅いじゅうたんが敷いてある廊下を歩きながら悠里が言う。

「先生は来たことあるんですか?」

真奈美が問うと悠里は頷く。

「B6会がここで催されたこともあるし」

「『B6会』?」

「ああ、正しくは『B6+α会』なんだけど」

そう言って悠里がを見た。

「基本、アメリカ国内に居ないといけなかったので。日本で開催されるこの会には参加できなかったんです。翼が自家用ジェットを飛ばして自ら誘ってくれたこともあったんですけど」

苦笑してが答える。B6には既に『+α』が付きものとなっていた。

だから、本当はが居ないことは彼らにとって違和感だったが、それでもムリをさせることは出来ないから、と諦めた。

普段、諦めることをしない翼らすら諦めさせられた。果敢にも翼が永田を伴って交渉をしたこともあった。彼女の主治医に。

『果敢』。別の言い方では、『無謀』である。

その交渉の際には永田すら反論できず、翼も半泣きになった。

この世には勝てない存在があることを知った。いや、前から知ってたけど、こういう怖い思いをすることがとんとなかったので翼はこのときひとつ大人になった。

悠里たちの会話が耳に届いた翼は永田と共に遠い目をしてかなり最近の昔を思い出した。


女性陣3人は同室で、あとは適当に永田が振り分けた。

部屋に荷物を置いて窓を開けた真奈美が感嘆の声を漏らす。

「見てください!凄いですよ、外の景色!!」

その言葉に反応して悠里とも窓際に向かった。

「さすが、真壁財閥...」とが呟き、「綺麗な雪景色ね」と悠里は目を細めた。

「先生、温泉ってどれくらいあるんですか?」

一度来たことがあると言っていた悠里にが聞く。

「えーと、たしか...」

指折り数えていく温泉の種類に真奈美は目を輝かせ、も興味深そうに聞き入っていた。


「へー!露天風呂の種類も多いね。さすが真壁先生の家が経営してるだけある」

部屋においてあったパンフレットを見ながらアラタが声を上げる。

「どれどれ?ふむふむ。これは全種類制覇しなくてはなりませんなぁ」

背後からそれを覗き込んで八雲が言うと「そうだね、やっくん」とアラタが同意する。

「あんまりはしゃぐな。いくら真壁の家が関係している旅館でも迷惑を掛けていいとは言えないからな」

「まあまあ、あんまり口うるさく言わなくてもダイジョーブだって。ミネミネたちも子供じゃないんだし」

結局、自分が担当していた生徒たちと同室って...

永田の采配は本当に正しかったのだろうか。

というか、もうこの子達の先生じゃないんだから、一緒の部屋じゃなくてもいいじゃないか...

悟郎はそんなことを思いながらそっと溜息を吐いた。

まあ、そうは言ってもこの部屋が一番マシかもしれないし。瞬は結構面倒見がいいから。

「やっくん、見てよ!混浴の露天風呂があるよ!!」

感動したような声でアラタが言う。

「ほうほう?これはかなり興味深いですなぁ。センセも誘ってみますか」

「いいね、いいね!ティンカーちゃん、一緒に入ってくれるかな??」

「ミネミネが普段からセクハラ魔だからお断りされるかもね」

悟郎が茶々を入れる。

「むー...たしかに」と八雲が唸り「ちょちょちょっと!OHI。オレ、酷い言われ様」

「事実だろう」

溜息と共に瞬が言って、そのまま温泉に入る支度を始める。

「けど、どうにかして混浴に挑戦したいものですなー」

少し低い声で八雲が呟く。

ああ、なんかやらかすな...

悟郎はそう思ったが特に何も言わなかった。

どうせ、悠里との混浴をたくらんでいる人たちだって居るのだから。

「...あれ?『混浴』かぁ」

呟いた悟郎の言葉が耳に届いた瞬が視線を向けて反射的にそれを逸らす。

コイツもよからぬことを思いついたな!!

「草薙、頑張れ。骨くらいは拾ってやる」

ポツリと呟いた瞬は巻き込まれるのはごめんとばかりに逃げるように部屋を後にした。









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桜風
10.7.30


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