| 翌朝、外は見事な銀世界だった。 少し寝過ごしたが窓の外を見ると、外には巨大な雪だるまが大量に作成されている。 どうでもいいが、たくさん並んでいる雪だるまの中に何故翼の等身大雪像があるのか気になって仕方ない。 しかも、その傍で高笑いすらしていた。自分で作ったのか、それとも、永田が作ったのか... それに対抗して天十郎も何かしら作ろうとしていた。 ああ、気になる... 「ほお...これは中々」 は苦笑して服を着替えた。同室の悠里たちは既に起きてた後のようで綺麗に布団がたたまれている。 「起こしてくれても良かったのに...」 ちょっと仲間はずれにされたようで残念だ。 食事を取ったほうがいいのかと思ったが、正直あまり空いていない。 昨晩、とても豪勢な料理を残さずに食べたから胃がまだ少しもたれている。 「おはようございます」 皆の雪像があるのは中庭で、その縁側と呼べるところに悠里たちは座っていた。 「おはよう。よく眠れた?」 「起こしてくださればよかったのに...」 恨みがましく言ってみると悠里の隣に座る真奈美が肩を竦めた。 「だって、あんなに気持ちよさそうに寝てたら起こせませんよ。先生と一緒に暫く悩んだんですけどね」 「朝ごはん、お願いしたら出してくださるそうよ?」 「正直、お腹空いていないんですよね」 「私も同じ。あ、でも。その分一君が食べてくれたわよ」 底なしだなぁ... は苦笑した。 「ところで、あれは?」 そう言って中庭に視線を戻す。 すると、背中が重くなった。そして、温かい。 「おはよ、瑞希」 「.........よ」 かろうじて何か音が出た。 は苦笑して、自分の肩に飛び乗ったトゲーにも挨拶をする。トゲーは元気よく「トッゲー!」だった。 そのまま瑞希はに体重をかけたままの姿勢で寝息を立て始める。 「さん、大丈夫?」 気遣うように悠里が声をかける。 「大丈夫です。絶妙な加減で体重がかかってませんから」 「それなら、いいけど」と悠里は少し心配そうな視線を向けていたがが微笑み、まあ、本人が大丈夫と言うならと納得した。 暫く眺めていると雪合戦が始まった。これは、必然だ。 悠里と真奈美もそれに加わった。 昨晩の雪がうそのように空は青く、小春日和の中、もうつらうつらし始めた。 「ねえ、」 背中から声がする。 「なに?」 「今日、向こうに帰るの?」 「翼が自家用ジェットで送ってくれるって言ってくれているから。あの人はともかく、星太がこっちに来てるのよ」 「そっか」と瑞希は相槌を打つ。 「一は?」 「一緒に北海道。野生の..なんだったかな?キタキツネだったか、見たいってあの人とお話していたわ」 苦笑して言う。の笑う振動が伝わってきて瑞希は複雑な気持ちになる。 「ねえ、」 「なに?」 先ほどと同じ会話。 「幸せ?」 不意に聞かれたその言葉には目を丸くして、そして首を傾げて「んー」と唸る。 「幸せ、だよね」 「そう...」 「こうやって、笑って。楽しいって思える時間があって。のんびり出来て。これを幸せじゃないって言ったら何を幸せって言っていいのか」 「そっか」 瑞希は安心したように、少し寂しそうな声を漏らした。 「瑞希は?」 「僕?」 「そうだよ。瑞希は?」 に問い返され、瑞希は黙り込む。 そして、暫くたって「僕も」と呟いた。 寂しい思いはある。悔しいとか、悲しいとか色々と感じる。それが、きっと幸せなのだと思う。 好きな子が「幸せだ」と言った。それを嬉しいと思える自分は嫌いじゃない。その反面、面白くないとも思う。まあ、それは仕方ない。でも、我慢する。 「僕ってオトナ......ふふ」 「瑞希?」 背中でなにやらポツリと呟いたらしい瑞希に声をかけるが、「なんでもない」と返されて「そう?」とは首を傾げる。 ぽかぽか陽気。 は欠伸をかみ殺した。 「あらあら」 雪玉で随分濡れた悠里が縁側に視線を向けて苦笑した。 つられて見た一は苦笑した。 瑞希とが仲良く眠っている。 コートを脱いで2人に掛ける。瑞希の体は大きいから少しはみ出すが、が優先だ。 「草薙先生、寒くないの?」 八雲が聞く。 「あんまし寒くない。雪合戦してるから体はあったまってるしな」 ニカッと笑って一が言う。 「いいなぁ」 そんな一を見てポソリと真奈美は呟いた。 その呟きが耳に届いた天十郎は自分の着ている薄手の上着を真奈美にかけ、慧もそれに対抗してコートを脱ぎだす。 ならば自分も、と皆が真奈美に自分の着ていた上着を着せていくものだから、何が何だか...着膨れと言うか、着込まされた真奈美自身が雪だるまのようになっている。 「ちょ、ちょっと...!何で?!」 目を白黒させて真奈美が慌てている。 そんな後輩たちの姿を見て彼らは笑った。 「まあ、雪合戦もここまでにするか」 翼がそう言い、とりあえず、濡れて冷えた体を温めるために皆は温泉へと向かった。 「一は?」 「後で行く」 そう言って縁側に腰掛ける。 すやすやと眠っているの髪を梳いた。 「こんなところで寝てると風邪引くぞ?はバカじゃないんだから」 クスクスと笑っての髪を弄ぶ。 「温泉、行ったら?」 瑞希が呟く。 「んー、そうだよなー。でもなー」 こんな無防備な姿をこんなところにさらしたまま風呂にゆっくり入れるはずがない。 しかたない、と一はを抱き上げた。 の体温で暖をとっていた瑞希は眉を寄せた。 「一ばっかり独り占め、ずるい」 「今一緒に寝てただろ?」 そう言って笑って一はを連れて行った。 悠里と真奈美に許可を取ってれば良かった、と思い、とりあえずダメ元で部屋に連れて行ってみた。 ギリギリ彼女たちが部屋を出てきたところだったので、を部屋の中に入れて布団を敷いて眠らせた。 「草薙先生ってホントにさんが大切なんですね」 真奈美がしみじみと言うと、一は応えず優しく微笑む。 その表情に彼の気持ちがぎゅっと凝縮されている。真奈美も悠里も一瞬彼に見とれて慌てて頭を振る。 危なかった... |
桜風
10.9.17
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