| 献上された高級鰹節を使っては食事を作り始める。 これだけ上質の鰹節だと、とても良い出汁が取れる。 部屋の隅ではしゅんとしている一が大きな体を目いっぱい小さくして拗ねていた。 「で、一。何で鰹節なの?」 「って、にゃんこみたいだから喜ぶかと思ったんだよ」 しょんぼりしたままそういう一にはため息をついた。 「あのね、わたしはにゃんこじゃないよ」 一の前まで行って座り込んでいる一と目の高さを同じにして言う。子供を諭すように。 「知ってるけど...」 口を尖らせて一が答えた。 「機嫌直してくれるとうれしいな」 そう言っては立ち上がり、さらりと一の頭をなでてキッチンに戻る。 「おう!」 もう機嫌が直った。 が怒っていないことが分かったのでそれだけでかなり安心したようだ。 こういうとき、一の素直な性格はいいな、とは感心した。 「なあ、なあ。今日は何作ってくれるんだ?」 背後からに抱きつきながら一が上機嫌に聞いてきた。 付き合い始めて最初の頃は一の所属しているチームがリーグ中だったこともあって殆ど会わなかったが、リーグが終わってから一は文字通り日本に飛んで帰ってきた。 日本に帰る連絡をしてきた一がマンションの賃貸契約をすると言い出したのでが止めた。 自分は殆ど北海道で過ごすし、一だって1年の半分以上はイタリアだ。普段、管理が出来ないのだから、借りるならマンスリーにしよう、と。 というわけで、そのマンションの賃貸契約はがした。一が帰ってくるまでに契約をしておかなければならなかったからだ。 そんな経緯で都心から少し離れた場所のマンスリーマンションで数ヶ月間と一は共に過ごした。 ちなみに、が北海道を出て行ってからは同居人はずっとコンビニ弁当で食事を済ませていたので、とてもひもじかったと訴えられたが、そんなことはの知ったことではない。 一緒に暮らしていて特に何をするということは無く、そんな日常が嬉しかった。 一は日本でも有名人だから度々外に出るわけには行かず、家でのんびりと過ごした。都心から少し離れたところのマンションを借りたのは、それでもせめて夜くらいはのんびり散歩できる方がいいと思ってのことで、からそれを聞いて一は嬉しそうに笑った。 季節的には特に何もない、そんな時期だったが毎年のこの時期とは違った風景に見えた。 「が居るからかな?」 ニッと笑って一が言った。 「...一って結構恥ずかしいことを恥ずかしげもなくいうよね」 呆れたようにが言うと一はニッと笑って「あんまし褒めるなよ」といって照れた。 まあ、どうだっていいや。 その数ヶ月の同棲生活のおかげでキスだけは何とか上級者レベルにまで成長した。 最初はの要望どおり触れるだけで唇を離していた一だったが、そろそろ良いかな、とそれなりの経験から徐々に深いものへと変えていく。 初めて一の舌が自分の口内に侵入してきたときには、さすがには驚いて体を引いたが、それは一が許さずの後頭部を支えて逃げられないようにした。 ...というか、以前が一の気持ちに応えたときが最初だったのでそれは2回目の経験だったりもするのだが。 そんなこんなで上級者レベルのキスができるようになり、じゃあ、次の段階へといったところでタイムアウトとなった。 一のリーグが始まる。 去年1年間イタリアと日本を行ったり来たりしていたので、頑張ればどうにかなるというのは既に証明済みではあるのだが、そうは言ってもきつかった事はきついし、何よりそうやって愚痴をこぼしていた一の言葉を聞いていたがそれを許さない。 そのため、また一はイタリアに、は日本の北海道に戻ってそれぞれの生活を送ることになった。 いろいろと未練を胸に押し込んで一はイタリアでリーグを戦っている。 電話は毎日していた。 一の試合がある日は試合が終わる時刻とかあるから一から。 それ以外はなんとなくどちらともなく、だ。 それはそれで幸せだけど... 悶々としながら一は一人のイタリア暮らしを送っていた。 「...イタリア、遊びに来ない?」 ダメ元で言ってみた。 って基本的に面倒くさがりだし、と。 いや、そこも好きなんだけど。素直ってことで、と盲目な恋をしている一は心の中で付け足しながら彼女の答えを待った。 「いいよ。行ったことないから。でも、わたしが行っても邪魔にならないの?リーグ中でしょ?」 意外な答えに一は「全然!」と即否定し、一気に話をつめた。 の締め切りとかそういうの大丈夫なのかなと思ったが、それでも仕事をおろそかにする性格でもないし、大丈夫なのだろうと思って安心していた。 の返事はもちろんYesで、久しぶりに長い時間一緒にすごす生活が始まったのだ。 |
桜風
12.8.5
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